気持ちの変化
「⋯は?何で」
「だって、松谷くん知ってたんでしょ?私がカラオケ行くって、言う前から」
「⋯⋯⋯そうだっけ?覚えてねーな」
松谷くんは思った通りそうはぐらかしたけど、一瞬焦った表情を私は見逃さなかった。
───もし。
もしも本当にそういう意図だったんだとしたら、きっと松谷くんの考えは1つしかない。
「私が⋯クラスに馴染めるように?」
わざと私の苛立ちを煽るようなこと言って、仕事抜けさせて、罪悪感なく遊びに行けるように───?
「いやいや考えすぎじゃ⋯ごほっ」
不意に松谷くんが咳き込む。
(!)
「風邪!?もしかして昨日仕事押し付けすぎちゃったせいで⋯!?」
「ちげーよ、前からだし」
あぁそっか、前からか⋯って。
(もしかして、あのとき言ってたカラオケで歌いすぎたって言うのは⋯)
今までの出来事が一瞬で頭の中を駆け巡る。
そう考えると、すべてのことに合点がいく。
「ごめん⋯それと、本当にありがとう。なにも知らずに、ごめん⋯でもどうしてそこまでしてくれるの?」
「いや、別に何もしてねーよ、たまたまじゃん?」
あくまでも隠し通すらしい。
「あの、でも⋯ありがとう本当に」
私の言葉に、松谷くんは背を向けてぶっきらぼうに「別に」と答えた。
あれ、これってもしかして。
(照れてる⋯!?)
「私のために、私が友だちできるようにしてくれたんでしょ⋯?本当にありがとう、それとごめんね、いっぱいひどいこと言って⋯」
「いや、マジそういうのいいからやめて。感謝とかウザいし、友だちなんだし普通だって言ったろ」
「えっでも親しき者にも礼儀あり、っていうでしょ?」
「そういうとこに知識アピールすんなっつーの」
いつもよりぶっきらぼうなのは照れてるからなのかな、なんてそんなことを想像するとすこし笑える。
その横顔を見ながら、私は唐突に気づいた。
本当に、何の前触れもなく、突然に。
「⋯松谷くん」
「何だよ」
「私⋯」
松谷くんに、恋してるのかもしれない。




