線引き
(うわぁ⋯タイミング悪いなぁ⋯)
登校すると、早速下足箱で山本さんと藤井さんと遭遇してしまった。
どんな顔をしたらいいのか分からないので、とりあえず目が合わないようにする。
(これから気まずいな⋯)
山本さんの友だちだから、きっと藤井さんにも、三木さんにも小林さんにも、私とのことが知られているんだろう。
(クラスでも目立ってる4人に嫌われちゃったりしたら、これから友だちができる自信がないよ⋯)
弱気になりかけた自分を心の中で退治する。
(そんなの、言い訳にしちゃダメだよね⋯!)
「⋯⋯おはようございます!」
階段の方に向かっていた2人が振り向く。
今の、私変じゃなかった⋯よね?
「おはよぉー」
藤井さんは何てことなさそうにそう返してくれたけれど、山本さんは気まずそうな顔で背を向けた。
(まぁそうなるよね⋯)
分かってはいたけれど、若干ヘコむ。
仕方なく靴を履き替え、階段の方に歩きかけた───そのとき。
「⋯おはよ」
周りが静かだったからかろうじて聞き取れたくらいの、ささやかな声で山本さんが言った。
ちょっと無愛想ではあったけれど、返してくれたことが嬉しくて。
「凛って挨拶フェチだったりすんの?」
⋯何で松谷くんって、いつもこう嫌なタイミングで現れるんだろう。
「何そのフェチ、聞いたことない」
「うん、俺も。ていうか藤井とかと仲良かったっけ?」
「そんなことはないけど⋯」
実際、挨拶しただけだし。
松谷くんはふーん、と言いながら笑った。
「何か、強くなったな」
「⋯普通だよ」
「いやぁ、前から比べたら成長したなー的な?」
「誰目線なのそれ!?」
でも、言われたことに心当たりはある。
前なら絶対、挨拶なんかしなかった。目が合わないように、関わらないようにってしていただろう。
強くなれたのは──────
自分の味方がいてくれるからなのかな。
「嬉しそうなとこ申し訳ないんだけど、敬語はやめた方がいんじゃね」
「えっ⋯何で?」
「俺もそうだったんだけどさぁ、距離置かれてる感?みたいなのあるっつーか」
(そんなもんなんだ)
初対面の人には反射的に、特に山本さん系のイケてるグループの人には無意識的に敬語を使ってしまう。
(自分の中で、線引きしちゃってたのかも)