西澤凛&山本美羽
「ねぇ、聞きたいんだけどさ」
頭上から声がする。さすがの私も、言われるであろうことは何となく察した。
というかむしろ、昨日の今日で聞きたい話なんて、たぶん1つしかない。
顔を上げると、そこにいたのは山本さんだった。あぁ、やっぱり。
「昨日さ、蒼くんと帰ってたじゃん?」
⋯はい、ですよね。
「二人って⋯付き合ってるの?」
「いや、全然、本当全然違います!」
「じゃぁ何で一緒帰ってたの?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯と⋯⋯⋯友だち、だから」
私の答えに、山本さんは「あはははは」と大声で笑った。その表情で察した。これは好意的な笑いじゃないと。
案の定山本さんは顔をこわばらせて言った。
「友だち?男女に友情なんてあるわけなくない?ましてや、蒼くんでしょ?そばにいても好きにならないなんて言わせないよ」
「⋯あの私、本当に違うんです」
「何で蒼くんと仲良くなろうと思ったの?顔?人望?それとも⋯」
「話してて楽しいから⋯です」
「へぇー?」
「⋯あ、あの、私用事あるので先帰ります!」
この場から抜け出そうと思って言ったものの、山本さんに腕をつかまれ、止められた。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯うち蒼くんのこと好きなの」
罵倒されるものだと思っていたから、言われた言葉に拍子抜けして、ぱっと山本さんの顔を見る。
うつむき加減だったけれど、ほんのり頬が赤いのが見てとれた。
「蒼くん、あんまり女子と仲良くしようとしないしさ⋯なのに、西澤さんは何で仲良くなれたの⋯」
いつもは大声で話したり、ツッコミ役、みたいな感じでと割りとサバサバしてるイメージだから、初めて見る表情だった。
「たぶん⋯私のこと、女子って思ってないんだと思います」
「どーかな。うちもそんな女子って感じじゃないと思うんだけどね」
「いや⋯山本さんは女子って感じじゃないですか?」
山本さんが大きく首を振る。
「それはないわ、陽葵とかと比べるとやっぱなって⋯あー、待ってそういう話じゃなくてさ。⋯⋯⋯⋯⋯⋯あのさぁ、うちと蒼くん、合うと思うんだよね。テンションっていうかノリみたいなさ」
これって、
「だからぁ⋯何て言うかさ、あんまり蒼くんと仲良くしないでほしいっていうか?こんなこと言うのもアレだけどさ、西澤さん⋯蒼くんとは合わないと思うよ?」
やっぱりそういうことだよね。
その通りだとは思う。一週間前の私なら、「分かった」と言っているだろう。
⋯でも。
「合わなくてもいいんです。一緒にいると楽しいし⋯安心するっていうか。だから何といわれても、友だちやめるようなことはしません!」
(言えた⋯!)
山本さんはしばらくの間私の顔を見ていたが、困ったような怒ったような、複雑な表情をしながら自分の髪を触った。
「⋯⋯⋯⋯じゃあいいよ、好きにすれば」
去り際にぱっとこっちを振り向くと言った。
「⋯好きなら好きって言えばいいのに」
「⋯友だちです」
「じゃ何で切なそうな顔してんの」
⋯切なそうな顔?私が?
「ま、いいけど。嘘ついてたりしてんなら絶対許さないからね」
山本さんは何やら意味深なことを言うと、帰っていった。
(何だろう、切なそうな顔って)
そういえば、と私は思い出す。
『や、なんか辛そうな顔してたからさぁ、話しかけてみただけなんだど』
松谷くんにも似たようなこと言われたよなぁ。私、心と表情がずれてんのかな⋯何か、言われてみれば最近感情のコントロールがおかしくなっちゃってる気がしないでもない。
(何でだろ)
大変長らく投稿をサボってしまい、申し訳ございません!読んでくださってありがとうございます!