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りご三郎君とのフシギな旅  作者: 井之四花 頂
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第八話 学校の制服を着てパリへ!?


 個室のお風呂を出た後は、自分の部屋を出た時のパジャマに着替えました。旅館の人たちにいい子だと思われるように、できるだけ丁寧に浴衣を畳んで個室を出ると、先にお風呂から上がったらしいりご三郎君が廊下の奥から歩いてきました。相変わらず、縦縞の丈の短い着物を着て、足には丁寧に黒い布を巻いていました。


「どう? いいお湯だった?」

「うん、スッキリした。もう、お風呂はいいでしょ」

「そうだね。わたし2回入っちゃったし」


 赤いカーペットを敷いた廊下の突き当たりに、わたしたちが下りてきたらしい階段が上の階に続いています。きっと、あれを上がった先にわたしの自室があるという寸法なのでしょう。


 さて、朝っぱらから温泉三昧はいいのですが、やっぱり気掛かりなことは気掛かりです。


「……ねえ、ここ、いくら払うの?」

「気にしてたの? おれのサービスだから大丈夫」

「ほんとに?」

「ほんとだよ。じゃなかったらサービスじゃなくなっちゃうでしょ」

「後で『か○だで払え!』とか言われても無理ですからね」

「なにその、『か○だ』って」


 階段の手前までくると、女将さんが立っていました。わたしは畳んだ浴衣を手渡して、お礼を言いました。


「どうもお世話になりました」

「いいえ、お粗末さまで。またよろしくお願いします。……これから学校なんですって?」

「い、いえ、きょうは学校、休みなので」


 りご三郎君が目を丸くして舌を出したので、わたしは思わず彼を睨んでゲンコツを振り上げました。


「やっぱり学校なんですね?」

「はい、実は……」

「お疲れさんですねえ」


 女将さんにあいさつをして、階段を上がりきってから振り返ると、もう下には誰もいません。


 上がった先はわたしの家の廊下と同じです。ドアを開けるとやっぱりわたしの部屋で、壁の時計は本当に1分くらいしかたっていませんでした。


「さぁー、次はどこへ行こう? 早く決めて。ここだとどんどん時間が過ぎるから、ぐずぐずしてると遅刻しちゃうよ?」


 わたしの部屋に仁王立ちしたりご三郎君が、楽しそうにプレッシャーをかけてきます。わたしは温泉旅館で十分と思ったのですが、朝御飯も食べたし、家を出るまで時間はまだ余裕があるので、ちょっと欲張りな気分になっていました。


「じゃあ、日本じゃなくてもいい?」

「え? 例えばどこ」

「パリ、とか」

「パリ!」


 突然大声を出されたので、わたしはびくっと身震いしてしまいました。


「ヨーロッパとは、吹っかけてきたね」

「えー。無理なの?」


 りご三郎君は笑っています。


「温泉の後はパリ。なかなか渋い選択じゃん」

「それって嫌味?」

「まさか。では秋だし、ちょっとおしゃれにセンチメンタルにパリをフラヌールいたしましょう」

「何そのフランス語。それじゃわたし、着替えるから……」


 「着替えるから」と言ってものすごい視線を向けると、りご三郎君は飛び跳ねるように部屋から出ていきました。


 さて、何を着てパリに行ったらいいのか。まごまごしてるとどんどん時間が過ぎていってしまうので、早急に決断しないといけません。壁掛け時計の秒針をにらみながら、こう考えました。いくら世界一おしゃれな街に行くからといって、きょうは平日だし、浮かれ気分を引きずったまま登校してしまうのは危険です。何から何までりご三郎君に身を任せてしまうのは、巧妙に仕組まれた罠のような気もします。それに、わたしが持っている私服のラインナップで、ファッションの街に勝負を挑もうというのはあまりに無謀。帰ってからまた着替えるのもめんどくさいし……。


 とはいっても、制服一択という結論までにものの10秒もかかりませんでした。


 手早く学校の制服に着替え、スクールバッグの準備も終わったちょうどその時、部屋の中を覗いていたみたいにドアが二つノックされました。


「はーい」

「もういい?」

「お待たせ。入っていいよ」


 部屋に入って来たりご三郎君は、「おお!」とのけぞって立ち尽くしました。何事もオーバーアクションで反応するのが癖みたいです。


「その制服イカしてるね。おれセーラーとか好きじゃないから」

「そうなの?」

「うん、断然ブレザー派。じゃ行こうか」

「あ、ちょっと待って。靴取ってくる」


 さすがに裸足では外に出られません。階段を下りて、玄関から通学用のローファーを取って部屋に戻りました。準備OKとなったところで、りご三郎君が部屋のドアを開けます。


 ドアの先はいきなり、薄暗いアパートの廊下みたいなところでした。真っ直ぐ先には天井の高い玄関があって、丸い屋根の下に嵌められたガラスから光が差し込んでいます。ガラス窓の外に青空がちらっと見えました。


 両開きのドアに手をかけて、りご三郎君は後ろに立っているわたしを振り返りました。その時になってわたしは、縦縞模様の変な寝間着みたいな彼の服装が気になりました。


 わたしは、絶対に寝間着で街中を歩くようなことはできません。


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