一人前の今日
(ハナミズキの実が赤いことを思い出したのはこの若い木たちが生きて誰かを待っていたから)
(200才を越えるであろう柘植が久しぶりだと言った我々は相も変わらずここにいるのだ)
夜明けはいつも漣から起こり
中天に遠く太陽が照らすころにはすっかりと一人前の今日
(小さな海には小さな波 大きな海には大きな波)
そんなこともあったなと夢枕の父が元気だったこと
母の夢をどうしても見ないこと
(見知らぬ先祖たちがのぞき込んでいる)
盆に生家を手放したわたしにとって後悔とは
既に放たれた矢の落ちる先
(もしも非生物がわたしと同じように話し考えて表情を本物だと感じたならば人間とは非生物でもありえるだろうというのは幻想だろうか)
(今や感情たちは売り買いされるけれど再現できない姿をわたしたちは持っている生きている)
穏やかに寄せては還る波の揺らぎを心地好く感じるのは
わたしたちがそこにいたいからだけれど
海が荒れるということは過去よりももっと当たり前の事実なのに
(穏やかな日和の秋の終わりに雲は薄くなっていく空に溶けていく溶けてしまった)
(急ぐことはないという口癖を繰り返す柘植の濃い緑の葉は穏やかに光り 大急ぎで冬支度のハナミズキたちは薄い朱に黒班の葉を落とし赤い実を誇らしげに灯らせている)
もうこちらでは書く事はないと思っていたが、なぜか書きたくなった。きっと呼ばれたのだろうと思う。