『神』なおっさんと異世界への出発
この話は空を見上げていたら、思いつきました。
『よくわかんないけど、衛星って飛んでるんだよなぁ~』って
そんな感じで作り始めた物語なので、ほにゃふにゃ、っと読んでいただければ幸いです。
「ほにゃふにゃ」ってなんか良いね。次話に使おうっ!
「お前さん、面白い死に方したから転移先選ばせてやるよ」
このチープな異世界物のラノベにありそうなセリフは、俺の目の前にいる『神』だと自称するこのちょっとボロいスーツを着た中年の細身の男のものだった。
この設定もどこにでもありそうだ。
だがしかし、この自称『神』のおっさんは何故ちゃぶ台の上に乗っかっている?
俺の認識がおかしくなければ、ちゃぶ台って一家が飯時を共にする聖地でもあり、結婚報告された頑固なオヤジがひっくり返すものではないのか?
それに、この中年のおっさんが、もし『神』だとしたらこんな命を軽視するような発言は神としてどうなのだろうか。
それに神じゃなかったとしても、人としていかがなものか。
「あれ?僕の神々しいオーラに当てられて呆然、愕然、啞然としているのかな?」
おっさんが薄らニヤけた顔をグイッと近付けてくる。
むかつくな。
「あんたにオーラなんてねぇよ。あるのは拗らせた中二心か、無駄な虚栄心か、だろ?」
あれ?声出るな。
「、、、ていうか、ここどこなんだよ」
今、俺がいる場所の状況は簡単に言うと和室。
細かく言えば四畳半の和室の部屋の中央にちゃぶ台、四方に襖、そして、僕から見て右奥に木製の年代物のタンスがある。
いや、それにツッコむ要素はなくはないが、そこはいったん保留にしとく。
そんなことよりツッコミたいことがある。
このおっさんは何故この和室でスーツなんだ?
そんなことを起きたばっかで何がなんやらの俺が考える。
「ここはどこ?、、、か、難しいこと聞くね。まぁ、、、間とでも言っておこうか」
ヘラヘラと笑いながらおっさんが話す。
そこはヘラヘラして欲しくはないんだが、、、
「やっぱりか、、、」
「何が?」
「あんた中二病が拗れただけやつだろ!!」
「ハハッ、だから神だって」
「あんたみたいにオーラない奴が神なわけないだろ」
このおっさんはホントにオーラがない。
別に俺が『オーラが見える能力者』とかではないんだけど、ていうか、むしろオーラとかなんのこっちゃ見たいな感じだけど、そんな俺が分かるほどこのおっさんにはオーラが無い。
逆に凄い奴だとは、、、うん、、思えないが何者かは気になるところだ。
「そうか、まだ思い出せていないのか、、、」
どこから出したか分からないキセルを俺の頭にコツンと当てる。
「僕はこれを吸って待ってるから、思い出して、、、」
ここで俺の意識はプチュンと途切れた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
三月十日
親友と大学の合否を確認しに行っていた。
「お、、、あった!お前は?」
「お、普通にあるんだが?」
「「よっしゃ!」」
親友と拳をぶつけ合った。
ちょっと青臭かった。
親にも連絡をした。
電話越しだが、泣いているのが分かった。
それを俺は他人事のように、嬉しい事なんだな、と再実感した。
その後は、別な親友と集まってカラオケとかゲーセンとか思いつく限りの遊びをやってやってやりまくった。入試勉強の反動もあって今までに感じたことがないぐらいの楽しさだった。
唯々、楽しい。こんな気持ちは久しく感じていなかった。忘れかけてさえもした。
しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
体感的には三分間位だった。
その帰り。
最寄り駅からの家路。
スポットライトのように灯る電灯。闇に紛れ込めない電線。何かが隠れているかもしれない暗闇。
その中を俺は一人で歩く。
さっきまでの盛り上がりが嘘のようだった。
キィィィィィィィン、、、
耳鳴り?カラオケの後とかにあるやつか、、、
キィィィィイイイイイインンンンン
「んだこの音」
死の直前、今わの際に見た物は人工衛星だった。
チュドォォォオオオオオオン
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ガバッ
「ヌワァァァアアアッっ!!」
汗で服が肌に張り付いている。
気持ち悪い。
悪い夢を見た気分だが、起きた場所は、やはりさっきの四畳半の和室だった。
「起きたか、、、早いよ、もうちょい吸っていたかったなぁ」
煙が立ち上るキセルをクルクルと回していたと思うと、キセルは塵一つ残さずどこかに消えた。
!?
ちゃぶ台の向こう側の畳の上に座っていたおっさんがまたちゃぶ台の上に、よっこいせ、と言いながら胡坐をかいた。
いや、そこがいつものポジションなのか?
「どうだった?面白かっただろ?」
「いや、面白くねぇよ!めちゃくちゃ不運で可哀そうだろ!?」
「不幸?いやいやいや、謙遜しちゃいけないよ?衛星が当たって死ぬなんて、宝くじを当てるより難しいだろ?しかも、東京ドーム一面に新聞紙を敷いて指定された一文字を当てることより難しいだろ?それはむしろ幸運と呼ぶべきだ。それに、お前さんは、宇宙関係の事が好きだったろ?死の間際に生の衛星が見れてよかったじゃないか!」
おっさんが腹からハハハッと笑い飛ばす。
???
「おい!ちょっと考えちゃったじゃないか!!てか、何で俺の趣味のこと知ってるんだよ!」
「だから、、、神なんだって、、、何回言ったら信じてくれるのさ」
んっ、、はぁっ、、、
おっさんが少し溜めた後、深くため息をする。
ぉえ、おっさんの吐息なんて聞きたくない。
「じゃあさ。この状況、さっきの記憶の回帰、どうやって説明するんだよ」
「ぐっ、、、」
確かにそうなのだ。全く説明がつかないのだ。ここで意識が戻った時、それ以前の記憶が無かった。それ以前とは、ここにいるきっかけとなった出来事の事だ。それに、さっきの記憶も何かピタリと記憶のピースがはまったような感じで何か抜けた心がまた再び鼓動を始めたかのように感じた。その記憶が、もし本当だとしたら、いや、まだ信じられない気持ちが四割ぐらいあるのだが、それが正しかったとすると、何故目覚めた僕はこの和室にいるのだろうか。普通は病室だろ?まぁ、大きな違和感はそれぐらいだ。そして、どれも説明がつかないものだった。
「な?」
少し怪訝そうな顔をして、俺に指を指す。
信じてもらえなくて、苛ついているのかもしれない。
ずっとニコニコしていたおっさんが、急にキレるから少しビビった。
学校の優しい先生がキレると、いつも叫んでる先生と比べると何倍も怖く感じるあれだ。
「分かった、納得してやるよ。んで、何をすれば良いんだっけ?」
おっさんの顔にさっきのニコニコ、いや、ニヤニヤ顔が戻ってくる。
「だから、面白い死の方した君に異世界に行ってもらいたいんだ」
よくある展開ですね。
「何故?」
一番短く効果のある一言を言ってやった。
別にそうしたくない、と言うわけではないのだがどこぞの主人公みたいに鵜吞みにするのは癪だったので言ってやった。
「え?転生って面倒だろ?」
「いや、そういう事じゃねぇよ!!」
「いや、転生だとさ。ほら、記憶とかどうするとかで天使達ともめるからさ。ていうか、怒られちゃうからさ」
おっさんが、嫁の尻に敷かれる夫に見えた。
そんな神の事情何て知りたくなかった。
「じゃあラノベみたいに全部都合よくしてくれるのか?」
「ラノベみたいに、とはちょっとよく分からないけど、お前さんにも僕にとってもウィンウィンな転移にしたいとは思っているよ」
こんな口約束みたいな物はハッキリ言って信用は出来ない。だが、信用せざるを得ない。摩訶不思議なことの数々、生々しい記憶の回帰、この完全アウェイのこの空間。どれを取っても、言いなりになること以外できない。
それに信じたい心もなくはない。
異世界のアニメとか、ラノベとか嫌いじゃないから。
「んで、異世界転移するにあたって何か貰えたりするのか?最強の魔法とか、最強の武器とか、ダメダメな女神とか。ラノベとかだともらえるんだが?」
「だから、そのラノベって何?」
「何か貰えるのか?」
「先にラノベの事!」
オッサンしつこいな。
「ラノベって言うのは~~~~ラノベは~~~~説明できない!!神なんだから買って読め!」
「いや、めんどくさいよ~そんな時間ないよ~」
おっさんが、寝起きのおっさんみたいな顔で嫌がる。
あれそれってそのまんまじゃね?
「いや、ハマるから読んだ方がいい。ていうか、読んでください!」
ペコペコパンパンペコ!
二礼二拍手一礼してやった。
神なら願いを聞いてくれるだろう。
「良いよ!!!お願いされちゃったらするしかないよね!」
神だった!?
閑話休題
「そんなことより、何かもらえるのか?」
「あぁあ~それね。サプライズで用意してたのにお前さん勘がよすぎるんだもん。ナエチャウヨー」
「おっさんが萎えたとか使うな。気持ちが悪いだろ」
おぇっ!
遅れて吐き気が襲ってきた。
「ちょっと待ってて」
おっさんが、ちゃぶ台から下りてタンスの方へ向かう。すると、徐にタンスの引き出しを開けだす。そして、「あっれ?どこやっちゃったけな?」とブツブツ言いながらガサゴソと引き出しの中を漁っている。
「おっ!あった!」
おっさんがタンスの中からタウンページの数倍もあろうかと思われるぶっ厚い本を取り出す。
ドスンッ!
やはりその本が重いのか、おっさんが半分投げるようにしてちゃぶ台に置く。
ンギッ!
ちゃぶ台が鳴っちゃいけない音を鳴らす。
「これにお前さんが欲しそうなもの全部リストアップしといたからここから欲しいものリスト上げといて。」
「分かった。でも、個数指定とか無いのか?これだと俺ぶっ壊れチート野郎だろ?」
おっさんの頭の上に『!』が浮かぶ。
「すまんすまん!言い忘れてた。僕がお前さんにあげられるのは10ポイント分だけだ」
「、、、10ポイント?」
「説明めんどくさいから、それ開いてみて」
おっさんが顎でクイッとそのちゃぶ台の上に置いてある分厚い本を開くように催促する。
顎で扱われるのは、気に入らないが仕方ないのでその本を開く。
1ページ目を開くと、スキル欄、武器欄、アイテム欄、家具欄、食品欄、衣服欄等々その他諸々が目次に書いてあった。
2ページ目を開くと、確かに目次に書いてあるようにスキルの一覧が書かれていた。
そのスキル一つ一つにはそのスキルの内容とポイント数が書かれていた。
他の一覧にも同じ様に内容とポイント数が書かれていた。
大体は察した。
「なるほど。合計10ポイント分を選べるってことだろ?それに、多分強くなっていくに連れてポイント数も上がっていくみたいなことだろ?」
「ご名答!やっぱ勘が良いね」
おっさんは説明を続ける。
「最高は10ポイント分の物。最低は1ポイントの物。だけど、1ポイントの物は、これまでに見てて使い物にならなかった物のたまり場だから選ばない方が良いよ。でも、時間はいくらでもあげるからじっくりと選ぶと良い」
「分かった。でも、分からないことがあったら教えてくれよ?」
「しょうがないなぁ」
~~~~~~~~~~~~~~
「何これ?」
「んむ?」
キセルを咥えながらラノベを読むおっさんが反応する。
「第一弾!!初心者用スキル!って」
これだと第二弾、第三弾があるみたいじゃないか?
「ん~じゃあ、先ず、前置きとしてスキルって才能とかコツとかそういうもので上手く扱えるか扱えないかが決まってくるんだよ。強力なものになるほどより高度な才能が求められてくるんだよねぇ~。だから、そういう扱いやすいものを集めた特集みたいの作ってるんだよ。後、セールみたいにしてるページとかもあるからぜひ見て。ていうか、見ろ!僕が一からワードで打ち込んだから」
「ワードて!ていうか、これ全部おっさんが打ったの!?」
「そう、、、だから、労わって、、、」
ドン引てしまった。
タウンページ数冊分の本をおっさんが作ったって引くだろ?
どんだけ暇なんだよ。
言われて通りに、そのページを開いてみた。
何か近所のスーパーの安売りの広告みたいだった。
超特売!!!通常3ポイントの所なんとなんと1ポイント!!!、みたいな。
他にも9ポイントの物が5ポイントになっていたりしていた。
「ふ~~ん、これとか強いんじゃない?」
『魔術製作』というスキルを指差す。
このスキルは8ポイントのところ4ポイントになっていた。
響き的には強そうなんだが、やっぱ扱うのが難しいのか。
「あぁ『魔術製作』ね。全然使えないよコレ。コツが全然つかめなくて、死ぬまで使えないって不評だからセールに出したんだよ」
内容は、その言葉通り想像した魔術を自由に思い通りに作れると言うスキルだ。
「ふ~~ん」
魔術作るスキル持った主人公が無双するラノベ読んだ気がするな。
全種族の魔術作って魔族を仲間と共に全滅させるみたいな感じだっけな。
現実はそうはいきませんねぇ!ナンテコッタイ!ワンチャン普通の生活送らされる羽目になるぞ。
「くそっ」
本をチョット投げるつもりで手を放したが重くて上がらなかった。
本のページだけが、花を咲かせるようにフワリンとなった。
おっさんに、何してんのという顔をされた。
恥ずかしくて、本に目をやる。
「、、、え?これって」
「ん?」
俺が見ていたページは第五弾!!初心者応援スキル!だった。
ほんとにあった!しかも、第五弾!?
「この『才能開花』ってスキル使えば、高度なスキル操れるんじゃね?」
「え、何それ?」
製作者だったよね!?
「ほらこれ」
おっさんにそのページを見せる。
「あぁ、他の転移者に最後まで見られなくてね、、、自分が書いた事忘れちゃってたんだぁ、、、」
「、、、ふ、ふ~~ん」
あれ?何か目から涙が、、、っ!
「こんな僕に涙を流してくれるのかい」
「今俺が流したのは血だ!」
涙は血の成分と似ているらしい。俺が今目から流した物は血だ!
「お前さん、イエスみたいな事を言うね?」
何と感動的な話だろうか。
閑話休題
「んで、何だっけ?」
ちゃぶ台から少し身を乗り出して、俺が持っている本を覗き込む。
「あぁ、この『才能開花』って言うスキル使ったら、魔法制作の才能を開花させて、『魔法制作』のスキル使ったらコツとかそういうの要らずに出来るんじゃない?」
ピシャァァ~~~ン!!
え?何この雷の音?
おっさんが、白目向いて口を開けて驚いている。
え?何その『恐ろしい娘っ!』って言わんばかりの顔。
「かっ!考えてなかったぁぁっ!!!」
頭を抱えて、天を仰ぐ。
まるで、『ジーザス!』とでも言いそうだ。
「ジーザス!」
言うんかい!?
「んで、俺は、これ取得していいのか?しちゃダメなんなら選ばないよ」
「いや!この中から好きなだけ選びなさい!僕がこれを作ったんだし、最初の約束がそうだったからな!神に二言はないよ!!」
中二病っぽく顔をラノベで半分覆い、中二病っぽくラノベを持っていない手をこっちに向ける。中二病っぽく。
やっぱ拗らせただけなんじゃ、、、
「オッケイ、分かった。じゃあ、これに決め、、、あ、そうだ。異世界決められるんだよね?行き先」
倒置法みたいで倒置法じゃないこと言っちゃったな。
「あぁ、それもあったな」
「テキトーかよ」
おっさんが、てへっ、とする。ついでに、舌もペロっと出す。
キンモッ!
「ハイハイ、分かったよ。でも、好きに選ばせると言っても数個の中からだからな」
「は!?」
「いや、事情が諸々ありまして!」
「事情とは!?」
「定員とかそういう感じ」
定員があるのか。ん?ちょっと待て。定員?そもそも転生って言う概念があるなら定員がどうたらみたいな問題なんて起こらないじゃないか?
「その転移先何か問題でもあるのか?」
ヒュッ、ピュ~~~~~
口笛の音が狭い和室に響き渡る。
おっさんが何も無い空間を見つめながら口笛を吹いていた。
チッ!
ベタベタかよ!はぁっ、、、言いたくないよ?ホントは言いたくないんだよ?でも言うしかないんだよ?
「隠し事下手か!!」
「ぅえ!?何が?」
「目をそらすな!」
「ヌワァァァアアアッっ!!そうだよ!お前さんが選ぶところはチョット治安が悪いところなんだよ。でも、あれだからな?この今読んでいる転生物の治安ぐらいだよ」
さっき勧めたラノベに早速ハマっているようだった。
「ていうか、お前さんが好きそうだったからそう言うところしか選んでないよ!僕にラノベを読ませろ!」
「モンスターとかいるのか?」
「いるよ!読ませて!」
「んで、行けるところはどうやって選ぶんだ?」
おっさんが徐に手を僕の頭にかざす。
「おりゃ!」
「、、、っ!」
十六個の異世界の情報がすべて直接脳に入ってきた。
「そん中から行きたいところ選びなさい」
~~~~~~~~~~~~~~
異世界の情報を一通り目を通した。
なるほどなるほど。分かり易くまとめられているな。
異世界の情報は、細部に至るまで精密にしかし、分かり易くまとめられていた。
それが、脳に直接入れられたせいなのかもしれないし、このおっさんのまとめ方が上手いのかもしれない。
俺は、前者だと思う。
ふ~~ん、とにかく治安が出来るだけ良いところだな。その次に、いろんな種族がいる方がいいな、後、自分だけ魔法が使えてもだから、まぁここは安定の剣と魔法の異世界だな。
「お、ここがちょうどいいんじゃないか?」
「どこ?」
「えーと、ナンバー12?うん、そう。ナンバー12」
「あぁ、そこね。一番ラノベっぽいところね?」
「ん」
否定できなかった。
「んで、持ってくスキルとかどうする?」
確かに、忘れていた。
「あ、それと、お前さんが選んだ異世界だと力=金みたいな感じだから、家とか現物系のそう言う物は現地調達できるからここでもらわない方がいいよ」
何だかんだで親切なんだよな、このおっさん。
「まぁ、攻撃とかは『才能開花』と『魔術製作』でどうにかなるから防御系が欲しいかな」
「今、合計何ポイントだっけ?」
「『才能開花』で1ポイントで、『魔術製作』で4ポイントだから、後5ポイント分だ。何か防御系で良いものないかな?」
テキトーにページをペラペラと肘をつきながら週末のOLみたいに雑誌を眺める。
「攻撃系とか、防御系とかに分けてくれたらよかったんだけどな」
スキルの内容をぼんやりと目で追いながら、心半分でぼそぼそとそんな事を言った。
「あ、そっちの方がいい?」
どうやら、さっき読んでいたラノベを読み終わったらしい。
「出来んの?」
出来ればそうして欲しい。早く異世界にも行きたいし、面倒なことは回避してなんぼだ。
「いや、もうまとめてあるよ?」
そう言いながら、次のラノベをスーツのポケットから取り出す。
「何と無く気付かなかった?もう分けてあるんだよ。攻撃系と防御系とか支援系とかに」
「あぁ、そうだな」
「あれ?それだけ?お前はもう死んでいる、みたいな感じの流れだったじゃん!ノリが悪いなぁ」
何言ってんだこいつ、こんな奴に付き合ってられるか。
ペラペラとページを進める。
あぁ、いろいろありますね。
ダメージ半減など、ダメージ譲渡など色々なスキルが書き並んでいた。
しかし、全部、残ったスキルポイントでは貰えないものだった。8ポイントとか7ポイントとか。
「うわっ、たっかポイント!ポイントたっか!ど~しよ~」
こんなんじゃ異世界行った後が思いやられるわ。
そんな事を思いながら、ページを進める。
あれ?何か?必要ポイント段々下がってない?
しかし、内容を見るとポイントとともにダメージカット率が低くなっていくみたいな感じで悪くなっていた。
取り敢えず、今の残りポイントでギリ貰える辺りのページを開き、好条件の物を探していく。
「無いなぁ、丁度いいのが」
「あ、言っとくけど、お前さんがさっき言ってたスキルまだ本決まりじゃないからいくらでも変更はできるよ?」
そう言ってラノベを少し開くが、すぐに何かを思い出した様に喋りだす。
「防御系にもセールあるから、そこ見てみたらいいよ。お得なのいっぱいあるから、お前さんのお目にかなう物があるかもよ」
全部セールのスキルで行く異世界奮闘記。
ハハハッ、こんな主人公ヤダ!(泣)
だけど、セール品の中から選ばないとやってけないからしょうがない。しょうがないのだ。
と、心に言い聞かせるが、貧乏苦学生になった気分で、目がジンワリしちゃうよ。
ジ~~~~~~ッ
冊子を読む俺と、ラノベを読むおっさんの間に結構長い沈黙が訪れる。
静けさは長く感じられるので実際はほんの少しの間だったかもしれない。
しかしその時間は、つまらない興味のない授業を受けるより長く長く感じられた。
緊張感などは全くと言っていいほど無いが、そんな終わることのなくはないがいつ終わるか見定めることができないそんな時間が終わりを告げた。
パタムっ
「うん、これにハマる気持ちも分からなくはないな」
ちゃぶ台上のおっさんはどうやらラノベの事を言っているらしい。
「やっぱりそうだろ?」
今言う事か?とは思ったけど、暇だったので乗っかることにした。
「人間が、異世界の話を描いているってこと自体がそもそも面白い」
確かに、神から見たらそう映るのかもしれない。
人間に置き換えて考えると、蟻が人間の社会について考えていた、みたいな感じだろうか。
「それに、こんなにも無双?って言うんだっけ?主人公がそれしてるのが面白い。実際には、こんな感じにならないのにな」
ハハハッ、とおっさんが笑う。
「そんなもんなのか?異世界転生とか」
素朴だけど、結構重要な質問だった。
もし異世界転生とか異世界転移とかが現世の二次元の世界と違っていたら、、、真実を知った者として笑ってやる。うん、、、しょうもな。
「うん、そうだよ?そもそも、神が人間に特別な力は与えちゃいけないんだよ」
「へ~~、って!俺はどうなんだよ!めちゃくちゃ力貰おうとしているんだが?」
「お前さんは特別。特例中の特例で認められた。特例オブ特例の人間なのさ!」
あんまり特例特例言われるのも何か気分が悪いな。自分で言うのもなんだが、俺は平凡な人間だ。死に方以外は。
「んまぁ、それは良いとして今までの話してる雰囲気だと、他にも転生者がいたような感じだよな?その人たちとかはどうなったんだ?」
「僕は異世界転移の経験はお前さんで数人目なんだけど、前任者の神が言ってた話だと、貰った力を制御できずに死んでいくのが大半、国家にうまく使われたり、政治に巻き込まれたりして一生を終えたり、でも、中には水戸黄門みたいなことするやつもいれば、幸せな家庭をもって大往生するとか、いろいろな人生があるらしいよ。あ、因みに無双とかは無い。断言できる。力を使わせるために転移させた前例はあるけど、やっぱみんなチキンでね~、力をなかなか使わないんだよ」
確かにそうだな。モンスターとかならまだしも、人の形をした者を殺すのは流石にためらうわな。
ていうかなんで水戸黄門知ってるの?
「まぁ、しょうがないんじゃない?軍人とかじゃないんでしょ?」
「ま、そだね。こんな話するのもいいんだけど、貰うスキル決まった?」
確かにこんな話よりスキルを選んでいた方が有意義だな。
「これとか夢あるな。しかも、ポイントもそんなにいらないし」
俺はコストが2ポイントの『バリア』を指差す。
「う~ん」
おっさんが苦悶の表情を浮かべる。
「なんか欠点でも?」
「う~ん、『バリア』ねぇ~、異世界の魔法って威力もあるし速さもあるんだよね。だから、『バリア』が役立つのって達人的な反射神経持っている人にしか役に立たないんだよな~」
皮肉を言われたような気分だった。
お前には反射神経なんてねぇよ~~、ってあおられてるみたいに。
まぁ確かに?達人的な反射神経はないんだが、何か言い返したい気分だ、、、あっ!
「『才能開花』でそう言う才能開花させればいいじゃん」
「ん~~いや、それで開花させられるのか不確定要素がありすぎるな。なにせこのスキル使った人のデータが無いからな」
止めといた。
「じゃあ、もういいや。おっさんのおすすめにするわ!」
「そうかそうかどうしようか。防御系の方がいいんでしょ?」
俺はコクリと頷く。
おっさんがヒョイと冊子を持ち上げる。
華奢な見た目からは想像もつかない怪力だ。
だって、現役の高校三年生が持てないほどの重さをヒョイと、だぞ?ヒョイだからな?
これも神の力なのだろうか?ていうか、いつからこのおっさんのこと神認定したんだっけか?
「じゃあさ『絶対防御』とかどう?」
耳触り的には、最強そうに聞こえるそのスキルの必要ポイントは4ポイントだった。
「え?何か重大な欠点があるんじゃ、、、」
「はぁ、、、信用されてないなぁ。このスキルは書いてある通り、自分の表面だけに絶対不破のバリアを張り巡らせる、って言う代物だ」
「は?絶対不破?それなら9ポイントぐらいでもおかしくないだろ?やっぱり何か欠点があるんだろ?」
「いや、欠点というか、まぁ、欠点みたいなとこじゃないけど、自分オンリーにしかバリア張れないんだよね」
いや、だから強いじゃん?
「あ、他の転移者が使えなかったみたいな事?」
「いや、選んでくれないんだよね、、、このスキル、、、」
それって、『絶対防御』が書いてあるページまでたどり着いていないんじゃ、、、
ちょっとかわいそうに見えた。
「わかったわかった。これにするよ」
「ホントか!?」
おっさんが、すごく嬉しそうな顔をする。まるで、花火が花開いたように。
一応貰う三つは決まった。
一つ目は『魔術製作』:思い浮かべた魔法を製作することが可能なスキル。コツを掴むのが難しいらしい。4ポイント。
二つ目は『才能開花』:何かよくわからないけど才能を引き延ばしてくれるスキル。1ポイント。
三つ目は『絶対防御』:絶対不破のバリアを自分の体の周りに張り巡らすスキル。丁度書いてあるから分かるけど、譲渡することが出来るらしい。4ポイント。
「あれ?1ポイント余ったな。どうしようか」
「そんなあなたに!『運だめし』!!」
「え?『運だめし』~~?なんですかそれ~?」
「この『運だめし』って言うスキルはね。取得すると、ランダムでスキルが出てくるんだよね!今ここにいるときは内容は分から無いけど、異世界に着いたら内容が分かるって言う代物さぁ!そのスキルのポイントは最大10最低1!つまり!!ワンチャン、異世界を指一つで滅ぼせるスキルが出るかもしれないね!」
「それってつまり、1ポイントのが出ることもあるってことですよね~」
「ンむ、まぁそういう事だね」
やっとクソみたいな昼のショッピング番組の流れを断つことができた。
「まぁ、それでもいいや。早く異世界行ってみたいし」
おっさんが、読んでいたラノベを読んでいたページを開いたままちゃぶ台に置く。
あぁ、それやっちゃうけど、本に悪いんだよなぁ~~
「じゃあ、お前さんが選んだスキルは『魔術製作』『才能開花』『絶対防御』『運だめし』この四つで良い?全部スキルなんだけど、ほんとに良いの?」
「いや、そんな後ろ髪引っ張りまくるような事言うなよ。てか、おっさんがあっちで現物調達できるって言うから選ばなかったんですけど?」
「いや、そうなんだけどさ。こんなスキルオンリーの編成だと改めて大丈夫かなぁ、って思っちゃうんだよ」
いや、めんどくさ!そう言われるとそんな気になっちゃうだろ!?
「いや、もう変えない!」
「そうか?じゃあ、転移する異世界はナンバー12で良いね?お前さんが着く所はランダムだからそこはよろしくな」
「分かった」
おっさんが、手を俺の頭に当てる。
「、、、はい、これでオッケイ!他にも転移手当で、日本の言葉をあっちの言葉に変換できるようにしといたのとお前さんがスキルをチェックできるようにこのラノベみたいにステータスを開けることができるようにしといたからヨロシク」
おっさんはそう言いながら、さっき置いたラノベをひらひらを仰ぐ。
「なに、それって心の中でステータスって言うと出てくるって言う感じ?」
「そうそう」
おっさんが、ちゃぶ台の上から降りる。
「んじゃあ、立って目瞑って」
「もう、転移するのか?」
「そう、『目を開けたらそこは異世界でした』みたいな感じ」
「なるほど」
悪くない。
言われた通り、立って目を閉じる。
おっさんに背を押されて、どこかに移動させられる。
スッーータンッ
おっさんが襖を開ける音が聞こえた。
別な部屋にでも行くのかな?
「はい」
「わっ!」
掌の上に恐らく布状の何かを乗っけられる。
箱の中身を当てる芸人の気持ちが少しわかった気がした。
「これ、異世界に着いたとき用のお弁当ね。ほら、どんなとこに着くか分からないからさ」
「なるほど」
あ、どんな中身なんだろ。一応聞いとくか。
「この弁当の中m、、、」
「行ってらっっしゃい!!」
ドンッ、、、
背中に、中学校の頃友達から受けた悪ふざけの一撃位の衝撃が襲う。
「は?」
目を開けると、そこは空だった。
え?空!?
絶対主人公、召喚されて行くもんだと思ってましたよねwww
さて、どうでしたでしょうか?
面白い!続きが読みたい!なんて思ってくれたら、感想とか評価とかあったら嬉しいです。
( ゜ ρ ゜ )(サイゴYouTuberミタイダナー)