水槽の中とはじまりの一歩
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(ヒャッハー! ウヒョー!)
僕は壊れた機械のように叫びながら作業を続けていた。
人は食べる時に調理するだろう? なんてったって肉や野菜には微生物や細菌やらがいる。火を通したり、洗ったりしないと食中毒やらでお腹を壊す。毒を持ってるやつもいるし、調理によって胃腸による食物の消化吸収を良くするのだ。
増殖した細菌を捕食し終えたアメーバ本体は何倍も大きくなった。いきなりの体重増加にアメーバは鈍くなり動き辛そうだったので無駄なところを切り離し、そして僕も増したエネルギーを使って擬似核を作り出し、クローン体をいくつか作った。
精神を分裂するのは別人格を外に放出するようなものでお互いの意思の共有化は出来ない。そういう意味ではこのクローン体は僕の操作系の能力の向上、クローン体の位置の把握、偵察にも使えるので周辺情報の取得、捕食したものはリンクした本体に繋がる。良いことづくめだ。
まずクローンを水上にまで上げ、上空の空気を包み込むようにして水槽の中に酸素を送り込むように操作の練習をした。バクテリアが綺麗にするより、排泄物などの汚れの方が多そうな気がしたからだ。つまり水中の酸素不足を懸念したのだ。呼吸が心なしか楽になるまでそれを繰り返したら、次は捕食行動に移った。
それが上記の壊れテンションに繋がる。
水槽の中は細菌がとても多かった。だからまた同じことを繰り返している。
一度経験したのでそれほどピンチではない。問題なのは次々とやってくる多い食材を|食べれるように(僕に精神に合うように変換)しなければ、僕はそれを自分のものに出来ないのだ。
魂が混ざりあうとそれは個人ではなくなってしまう。魂の集合体なのだ。近い人間同士なら変換にそれほど苦労はない。同じ種族から離れれば離れるほど難易度は上がる。細菌はかなり遠い。簡単に言うと調理する手間が多いのだ。
まだ初回はなんとかなる仕事量だったが、今では数の桁が違う。調理しては食べ、調理しては食べを延々と繰り返している。エネルギーを吸収すれば増える力に酔くことでエネルギーハイになり、終わりそうにない仕事量に壊れ残業ランナーズハイになり……。
(消毒じゃああ! 毒のあるもんは消毒じゃあああ!!)
まだまだ作業は終わらない。高校卒業前の僕はまだ社会に出てないので働いたことはないが、サラリーマンは大変な思いをされているのだろう。
本当にお疲れ様です。
※
魔とは『人間業ではない、不思議な力をもち、悪をなすもの』とある。
力は物に働きかける作用であるから、なるほど。魔力とはその原理を知らない人間から見れば、それはそれは不思議で悪魔が使うようなものに写るだろう。しかし力そのものに正か悪かという属性は無いと思うのだ。使い手次第で何にでも染まる。
魔力、神通力や霊力、気や小宇宙。
それらはきっと違うようで同じものなんだ。宗派や所属の違い、民族の違い、種族の違い、考えてるもの、信じているもの、みんなバラバラで同じものを見ているはずなのに言葉や意味が違う。それでも神の教えを強制する奴等はいるが、それは置いといて、僕が使っていたクローン操作も魔力と言ってもいいのかもしれない。なんせ外部に働きかける力なのだから。
クローン体の位置を掴めるのも魔力感知として、周辺に生命反応は無くなっていた。その為僕に流れるエネルギーも落ち着きを見せ始める。するとどうだろうか、アメーバはアメーバらしからぬ巨体になっていた。
(これはスライム…?)
体が大きいだけで不細工なので、アメーバの体をいい意味で圧縮し密度を上げる。スリム化になり、イメージでは細マッチョだ。厳密には筋肉ではないのだが。
濁った水というのもあるし、ここまで放置していたのだ。少年が水槽の外から直径が5㎝まで大きくなったアメーバを確認することはまずないだろう。
さて、ここで出来ることはやったし力も得た。当然外に移動するべきなのだが、この体は外で体を維持できるのか?
元々アメーバだ。水が無くては活動出来ないはずだ。
アメーバにはシストという形態になることで乾燥やその他の劣悪な環境にも耐えることが出来る。100℃以上の高温にも60分間耐えれるらしい。
だがそれは風に乗って運ばれ水場に行けるまで耐えるというだけで好き勝手に動ける訳ではない。完全に風任せだし、危険が無いわけでもない。
ここは異世界だ。協力な魔物、生物、それも現代では空想でしかなかったドラゴンでさえいるかもしれない。
クローンを本体に纏わせることで本体を乾燥から守る。
だがこれは時間制限があり、エネルギーを垂れ流しで捨てるようなもので現実的ではない。
あれ? でも水槽に酸素を送り込むためにクローン体を水の外まで出したよな? クローン体は乾燥に耐えれた? いや、もしかして水面に油が浮いているのかもしれない。死骸から出た油で少しコーティングされていたのか。
汚くないよ? 僕は精神体としてアメーバとここで過ごしてきたのだ。もしそれならクローンを吸収した時に油が含まれているはずだ。
僕はアメーバの体にあった油で外部から守れるように膜を作った。これではまだ心持たないから水面まで上がって油を出来る限り漁った。
これで暫く乾燥から身を守ってくれるだろう。
よし出よう。
水面から体を出し周辺を探る。少年も居ないし、その他にも感知には引っ掛からない。
安全確認も済ませ、窓まで跳ねるように移動した。水の中と違って重力に慣れないが、今のところ支障はない。敵と遭遇した時に思うように動けるかどうかだが、逆に楽しみだ。
なんせ冒険の始まりだ。躓きはしたがここがやっとスタートラインだ。
窓に張り付き鍵を開ける。
ワクワクと同時に緊張してきた。気持ち的に深呼吸をする。3回ほどして覚悟する。何が起こるか分からない未知の世界。文化も種族もどんなものがあるか分からない。
強さを追及する第一歩。
窓から飛び出し、大地広がる草原を僕は駆け抜けて行った。
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