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分けた精神が接合に至るまで  作者: 大神祐一
2/17

魔法を異世界に求めて

アクセスありがとうございます

 最初に振り返るべきなのは、あのアニメと魔法と並列思考だろう。僕の指針となり、目標になったのはこれなのだ。回復魔法を使いたい、並列思考を使いたいと思うようになるも上手くいかなくて、あのキャラクターのような体力をつける所から目指したのだ。スタミナやスピードをつけていきたいと切望するようになったのだから。


 RPGの中盤でラスボス級に近い敵が現れる。その敵は強制イベントで倒さないと次に進めない。

 主人公パーティは一人一回行動でターンを譲るというのに、敵は複数回行動でき、中々順番を回してこない。そして攻撃、防御、回復、バフやデバフの補助系まで完璧なチート級だ。

 四歳の頃見てたアニメに出てくる敵キャラがそんな感じだったのだ。


 強さは生きるために必要な要素だ。それは小さい子供でも分かる。それは腕力であったり、知力だったり、逃げ足の速さもそうだろう。草食獣を仕留める力、肉食獣から逃げ切る脚、駆け引きに勝つ知力、それらはすべて強さなのだ。そんなこと四歳の僕でも分かっていた。だが、そのアニメは違っていた。


 敵キャラは、並列思考でバフやデバフ、剣や魔法に回復をほぼ同時に使いこなし、鷲のように全体の状況を把握出来るイーグルアイ、強い肉体から繰り出される鋭い斬撃、攻撃、防御、回復と高威力の魔法で五人いる主人公側をたった一人で圧倒していた。

 だが、そんな強敵を最終的に主人公側のご都合不思議パワーで倒すのだ。幼心に?マークが浮かんだことだけははっきり覚えている。

 今思えば、どうすることの出来ない強敵にも諦めず立ち向かえと言いたかったアニメなのだろう。

 ただ、立ち向かうのに「どのようにして?」というのが曖昧で、友情と不屈の精神論だけで勝利を手にするというのは、僕は違う気がする。その頃から“数だけで圧倒し正義を語る“というものが苦手になった。


 孤独は敵なのか?

 数が正義か?

 ボッチは友人が多いやつらには勝てないのか?

 複数人からいじめを受けてる人間は受け入れろというのか?


 話が少し逸れたが、アニメのキャラクターが使っていた並列思考と魔法に憧れ、自分でも出来るようになりたかったが始まりだった。だが、その並列思考を実現させるにはどのようにすればいいのだろう? 魔法はどうやれば習得出来るのか?

 幼いながらも考えてみた。でも、ちんぷんかんぷんだった。

 手がかりすら見つからない。考えれば考えるほど土坪に嵌まるように、分からなくなっていった。並列思考を理解するには幼すぎたし、魔法なんて夢物語なのだ。

 先生や親に聞いてもお茶を濁すだけ、寧ろ外で友達と遊ぶことを強く言われた。

 実際、友達とキャッチボールやサッカー、他にも色んな遊びをしたし楽しかったのは間違いない。分からないことを考え続けるより、楽しいことに流されるのは当然の結果だった。

 忘れてはしゃぎ回っていた。そして、少しずつ頭の中から消えていき……、小学2年の夏休み、朝のこども劇場、アニメの再放送を観るまで僕はすっかり忘れていた。

 そして、思いだして再び並列思考や魔法習得に熱を帯びたその時が僕のストイックな修練の始まりだった。



 ※



 そして、それらの習得を異世界に求めたのだ。その理由にきちんとした理由はない。異世界というものが不明な存在なのだから、理由も不透明だ。だけど理由はなくても焦りはあった。このままこの社会で生きていくと魔法も並列思考も習得することなく頭の中から消え去り、もう思い出すこともしなくなるのではないかと。あのときのように風化していくことを恐れたのだ。

 

 あの日はとても寒く、この地では珍しく雪の舞う夜だった。僕は自室のベッドに仰向けになって寝転び、布団をかぶる。緊張していたように思う。

 <ドリームコントラクト>というアプリをスマートフォンにダウンロードした。それは強い願いを持つ者にのみ見つけられるというアプリで、悪魔と契約をすることを目的としたアプリだ。

 それを起動すると魔方陣が発動し、悪魔と商談を行える場所へ飛ばされるという仕組みである。

 

 神は人と交信することはまずあり得ない。何故ならば神は観察者であり、傍観者。そして罰しか与えない存在なのだ。

 悪魔ならその点良心的だ。人間と交渉の席に着いてくれるというのだから。人間同士でも等価交換は基本だし、得るには対価を支払う。労働に対して金銭を支払うし、物を手にいれるのもそれに見合ったものでなくてはならない。ただ、悪魔への支払いに何を求められるかはまだ分からかったのだが。


 僕は異世界に行きたかった。

 現代社会では強くなるには限界を感じていた。まだまだ強さを求めたい。生き残る強さが欲しい。そして、何より並列思考や魔法を使うということ、それを実現する方法を渇望していた。


 スマートフォンの数センチ上に魔方陣が発動する。そこから黒いカーテンが溢れ出るように目の前が闇に包まれる。完全に黒色に染まった世界で円形の光が二つ現れる。僕と悪魔を照らす光だ。

 僕は手に持ってたはずのスマートフォンが無いことに気付いた。僕はここが夢の世界だと思っていた。


「初めまして」


 まるで舞台上でスポットライトを浴びてるかのような悪魔の登場シーンに、僕は少し見とれていた。と、同時に突然の夢の世界という事実に圧倒させていた。もし向こうに悪意があれば僕は成す(すべ)もなくやられていただろう。それだけで悪魔と人の力の差が分かってしまう。

 暗くても分かるほど整った顔立ちに腰ほどの長い髪、ズボンにスーツと人間に近い服装。人間相手だから姿を人間に見せているのだろうか。それも美形に。


「そうですね。異世界行きなら、これぐらいでどうでしょうか?」


 男性にも女性にも見える中性的な美しい悪魔は、両手でハートのマークを作り、左手だけをこちらにつきだした。

 ハートは心臓を意味しているのだろうそのポーズは、命の半分を対価に寄越せということなのだろうが、何故分かる? 出会ってからまだ僕は一言も発していない。そして悪魔は続ける。


「少し訂正させていただくと、ここは貴方の夢の世界では無く私が作り出した異空間なんです。だからここでは私は絶対であり、何でも読み取ることができます。それは顧客をきちんと理解することに繋がり、顧客のニーズに応える事が出来るのです」


 そう言って悪魔は微笑む。ということは悪魔には僕の個人情報や思考、能力などは筒抜けなのだろうな。ただただ圧倒されて何も出来ていない僕はやっとの思いで言葉を出せた。

 

「……、少しの期間でいいので考える時間をもらえますか?」


 悪魔への支払いは生命の半分。それで異世界に行けるらしい。そのことについては問題なくないが仕方あるまい。方法はきっとこれしかないと思う。だか、僕は一旦そこで保留にしようと思った。異世界へ行くための準備期間が必要だと思ったからだ。


「見積りの有効期限は丁度一週間です。期限を過ぎると契約する気がないと判断します。ただ、ペナルティーはありません。アプリも自動消滅し、もう二度とお会いすることはないでしょう」


「了解しました。それでは六日後に」


 左手を胸にあて、会釈しながら悪魔は、「またお会いしましょう」と言って僕の前から消えた。

 疲れた。精神的にも、肉体的にも。あの悪魔にその気がなくても威圧感が半端なかった。これは出来る限り鍛練が必要だと痛感した。それなら手っ取り早く、


「あまり時間も無いし、バトルロワイヤルかな」



 ※



 高校二年生で僕は精神を分けることを修得した。それはこのときから一年前のことだ。呼吸法をマスターし、客観的に自分を見ることをひたすら突き詰めていったら、出来るようになった。

 それは、並列思考修得とは違う多重人格形成。もう一人の自分が新たに作り出せるというもので、AとBの人格は独立しているため、感覚を共有するには頭の中で話し合うという手段をとる。近しいというより自分自身なので、同族嫌悪するように仲は悪かったりする。


 僕は四つの精神に分けた。一位は現代社会に残るか異世界に行くかを選ぶ。二位はその残り物。三位と四位は悪魔に捧げられるエネルギー体の末路。六日間による生存競争をかけたバトルロワイヤルを始めたのだ。

 精神の世界は現実世界のように広い。そのため移動範囲は限定して行う。

 ただし武器は使わずに相手の精神力を奪い合う。

 自分が分けたとはいえ人格が生まれた以上は別人なのだ。性格は少しずつ変わる。知識や経験は分かれるときに同じように引き継がれるが、行動パターンは性格の違いのため変化する。

 それは同じエネルギーでも実力に開きが生じるのだ。

 

 それから六日後、僕は悪魔と契約を交わした。

 精神転移という形をとるので、異世界の住人に乗り移ることになる。その為性別、年齢、力、外見など希望を念のため聞かれたので、若くて体力がある人物にしてほしいと答えた。一応これは依頼主から直接言葉で発する必要があるためだろう。

 そのあたりから、そわそわしていたのであまり覚えてないが、捧げたエネルギーの何%かで<異世界言語>やちょっとしたスキルを貰ったが今ではよく分からない。

 いくつか注意事項も聞いたが、頭に入ってこなかった。調子に乗っていたのもある。バトルロワイヤルで疲労がピークだったのもある。

 僕はこの状態で異世界へとワープさせてもらった。移動の苦痛もなく、気付けば乗り移る少年の精神の中にいた。

 すでに憑依できた状態から僕の異世界生活がスタートしたのだった。

 




最後までお読みいただきありがとうございました

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