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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

しっかり短編

狂った魔女と小さな少年の話

作者: 閑古鳥

「ほう人間がよくここまで来たものだ」

少し感心したように魔女はこちらに向けて話しかけてくる。

自分が負けるなど考えていない、自分を殺しに来た相手に向けるものではない声だ。

憎悪も嘆きもない。

ただただ今の状況を面白いと思っているような声だ。

これまで魔女を倒せた者が1人も居ない。

それを体現しているような様子だった。

俺達も魔女の圧力に負け、ぴくりと動くことすらできなかった。

剣を抜いたまま杖を構えたまま硬直する。

その様子を見て愉しげにぐるりとこちらを見渡した魔女が1点を見つめ動きを止める。

魔女が見つめていたのは旅の途中で出会った1人の少年だった。

小さくか弱い1人の少年。

臆病で優しくて朗らかな彼を見て魔女は驚き怯えていた。

「な……ぜ……貴様っ!?」

幽霊を見たかのように驚いたように焦ったように魔女の顔が強ばる。

勇者でも巫女でも賢者でも聖女でもなく、戦いが苦手なただの少年を見て魔女は動きを止めた。

「久しぶり……だね。母さん。」

困ったように微笑んだ彼がどこか遠い存在に思えた。

魔女へ攻撃をしようと武器を構えていた俺達を制止して彼は1歩前へと出る。

魔女の威圧に気圧された俺達は情けない事に彼に止められずとも全く動けなかったのだけれど。

「母さん。もういいんだよ。」

彼はまた1歩先へと進む。

「だからさ、もうやめよう。」

呆然とする俺達を置いて彼はそう語りかけた。

1歩また1歩、彼は魔女の方へとゆっくり足を進める。

「来るな来るな来るなあああああああ!!」

魔女は狂ったように叫びながら様々な魔法を打ち出し続ける。

狙いも付けないような荒っぽい攻撃だ。

ふわりふわりとそれらの攻撃を軽やかに避けながら彼は魔女の方へと進み続ける。

また1歩、もう1歩。

左から炎が来れば右へ1歩歩き避け、右から水が流れれば左へ1歩走り避け、上から雷が走れば後ろへ1歩跳んで避け、下から地割れが起これば前へ飛んで避け、前から闇が覆えば外へひらりと躱す。

少しずつ少しずつ魔女と少年の距離が近づいていく。

そして少年と魔女の間の距離が0になる。

「もう終わらせよう」

真っ赤な短剣を魔女の胸へと突き立てるとぶわりと魔女の力が解き放たれた。

あれは……そうだ。

魔法の力を霧散させる短剣だ。

魔の塊である魔女に効果があるかもと買っていたものだった。

僕が持っておくねと彼は言っていた。

この結果を予想していたのだろうか。

それとも知っていたのだろうか。

確かに彼はその効果を有効に使ったのだ。

そして力を喪った魔女は次第に崩壊を始めた。

さらさらと崩れていく魔女と同じように崩れていく彼。

「僕は母さんの一部だから」

右腕が崩れていく

「だからお別れだ」

左腕が崩れていく。

「ありがとう」

右足が崩れていく。

「みんなのおかげで終わらせることができた」

左足が崩れていく。

「これで全部終わったんだ」

胴体が崩れていく。

「だから泣かないで」

最後に残った顔も崩れていく。

にこりと笑った彼の最期の笑顔はとてもとても綺麗だった。











終わらせるために歩んできた

最期に沈むことを夢見てきた

もういいんだよと

もうやめていいんだよと

それを言えなかったのを

ずっと後悔し続けてきた

止めることができなくて

どうにもできなくて

助けを求める事もできず

助けになる事もできず

何も出来ないまま

何も成せないまま

生き残ってしまって

ただ独りぼっちで

呆然としていた

そこを救ってくれた

仲間にしてくれた

だから僕も頑張ろうって

もう一度やってみようって

そう思ったんだ

旅をして

世界を見て

たくさんの人と出会って

仲間たちと歩んできて

この世界を終わらせたくないと願った

この世界を助けたいと願った

だから

もう壊れてしまった母さんを

元には戻れない母さんを

どうやっても救えない母さんを

終わらせようって

そう思ったんだ

それが僕にできる贖罪

一度逃げてしまった僕が

壊れるのを止められなかった僕が

母さんを恐れない僕が

ただ一つだけできること



だから泣かないで

世界は救われたのだから




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