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Sunny world after the world end  作者: 琉乃
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路地裏

何卒( ・_・)ノΞ●~*

 この街の路地裏には何かがいる。路地裏に迷いこんだ者を喰らう捕食者。その容姿は小柄。フードのついた黒パーカー。下は軟らかいジーパン。「やわらかい」がゲシュタルト崩壊。フードを目深に被っており、『死神(ダークブラック)』と呼ばれるそれの顔を見た者はいない。


 先月、路地裏を縄張りとしていた不良たちが三十人で集団リンチを掛けようと路地裏に入っていった。時刻は夜十一時。この路地裏は広く、また、複雑なため巨大な迷路のようなものである。その迷路の中心には廃ビルが建っている。

 ビルといってもそこまで大きなものではない。しかし、路地裏に入ると目印のようにどこからでも見える。とはいえ目印があってもこの迷路ではなかなか中央には近づくことができない。しかし、不良たちは迷うことなく進んでいく。学ランを着崩した近所の高校のリーゼントや坊主頭たちは進む。そして、辿り着く。

 そこは広く、百人くらいが散らばっても余裕がありそうだ。他の壁より大分背の高い壁に背中を隠すようにビルは佇んでいる。そして入口に向かう階段にそれはいた。不良たちがオラつく。すると彼?はゆらゆらと階段を下り、地に足を着けた。それが開戦の合図となり不良たちが彼に押し寄せる。不良たちの手には竹刀、鉄パイプ、スタンガン、メリケン、バール等様々だ。流石に刀や銃を持っている者はいなかった。対して彼はジャージのポケットに手を突っ込んでいる。そこから何が出るのかはわからない。

 双方の距離は約三十メートルといったところだろうか。不良たちはすぐに距離を詰めそれに襲い掛かる。しかし、三十メートルという距離は彼にとって余裕のあるものだった。めっちゃ余裕だった。不良たちの武器が彼に殺到する。 「殺った」と思った不良たちであったが、武器は空を切り、勢いで大勢が倒れる。アイツは何処だと探すと、いつの間にか不良たちの後ろに回り込んでいた。フードの影から僅かに見える口許には嘲笑が浮かんでいる。バカにされたと感じた不良たちが暴れだす。そして彼はその攻撃を一つ一つかわしていった。踊るような足さばきのみで攻撃を回避し続ける。時間が経つにつれ不良たちは倒れていった。乱戦の中で誰かの武器が当たって気絶した者、疲労で倒れる者。そして彼の一撃を受けた者。彼を残しすべての人間が倒れた頃、時刻は十一時十五分であった。五分くらいで戦いは終わっていた。

 疲れたように嘆息する彼は、まだ元気そうな奴五人に仲間を連れて帰るように指示した。その声は少し高く、女性的な響きを持っていた。その後時間をかけて仲間を運び出した五人によって、死神女説が他の不良グループにも広められていった。

 

 そして今日新たに、不良グループ『天壊途(てんかいず)』が路地裏の死神に挑もうとしていた。

 「ウェヒェヒェヒェ」

 キモい。

 「コケコケコケコケ」

 キモすぎ。

 「ファチョチョチョ」

 まじキモい。何なんだコイツらはと

 天壊途の副リーダー、花巻夕哉(はなまきゆうや)は頭を抱えていた。

 不良に憧れて入ったこのグループで入ったばかりなのに副リーダーを任せられた。リーダーに「副リーダーとして皆を纏めてほしい。特にコイツらを!!」と頼まれたその時は「ふはは、俺の実力を早くも見抜かれてしまったようだな!ふはははは!!」と、とても嬉しかったが体よく押し付けられたのだと気付いたときには後の祭りだった。

 高校一年の夕哉は中学校を卒業するまではとても真面目で頑張り屋で皆に慕われる少年だった。はずなのだが、高校に受かって春休みをワクワクしながら過ごしているある日。浮かれて知らない町を歩いていると二人組の不良に絡まれた。カツアゲされかけた所へ颯爽と現れ助けてくれたのが天壊途のリーダーだった。弱きを助け強きを挫く。その生きざまに憧れて彼は春休みを不良の勉強に費やした。もちろん体も鍛え始めた。元から運動神経は良かったので、戦い方を覚えるのは早かった。上達も早く、あの日から会うようになったリーダーに天才だと誉められたりもした。そうして彼は不良の世界へとのめり込むようになっていった。夕哉の両親は基本的に放任主義で彼を縛るものが無かっただけに彼が不良になるのに時間はかからなかった。そして、彼は高校に入学すると共に正式に天壊途に入った。

 天壊途に入って数日が過ぎた頃、リーダーに副リーダーに任命され三人の不良を押し付けられた。その三人はとてもイカれた奴らだった。

 まずウェヒェ。こいつはいつも喪服を着ていて、さらにシルクハットをかぶるような頭のイカれた男だ。笑い声はウェヒェ。しかも真顔。マジで頭おかしい。助けて。

 次にコケ。こいつは喉に痰が詰まっていて思うように喋れない少し可哀想な奴。だが笑う時はハッキリとコケってる。よくアジトの隅っこで絵を描いてる。その絵を眺めながらコケってる。真顔で。やっぱ頭おかしい。

 最後にファチョ。こいつは笑い声以外は普通の奴。めっちゃ普通で特徴が無いから笑い声に特殊性を加味したそうだ。もっと別のところ頑張れ。どこ目指してんだ。ちなみにファチョは同じ高校の同級生だった。しかも俺より成績が良かった。見掛けても話し掛けないようにして、話し掛けられても全力で無視するようにしている。無視された後にファチョが見せる悲しげな横顔を俺は忘れることが出来ない。夢にまで出てきてよく俺のことを苦しめる。もっと頑張れふざけんな。

 とにかくこの三人を預かった訳だが、纏める必要性を感じられない。この前行われた俺の歓迎会では会場設営とか食料調達にも率先して参加してくれていたようだし。彼らは大分イカれてはいるがいい奴らだ。そもそもイカれているというのが彼らの普通なら俺達が考えている基準に彼らをはめてはいけない。その人の価値観を何となくでも理解しようとすることがより良い関係の構築に繋がるものだ。俺も不良から見た世界を知りたくて不良になったという点も少しはある。

 人間は他人のマイナスポイントを探すのが上手いという。マイナスポイントというのも人の価値観が大きく影響しているため主観での判断がメインだ。自分がどう感じたかを客観的に見るとどうでもいいことであったりもするから……面倒臭い。とにかく人の良い点を探すことが人間としての成長に繋がるわけです。

 場面は戻って、花巻夕哉は頭を抱えていたが溜め息を吐いてウェヒェ、コケ、ファチョの三人を連れて路地裏へと向かった。

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