居候
( ・_・)ノΞ●~*
「それでは一緒に帰りましょうか」
僕が彼女に名前を教えてあげた後、そう誘われた。
「いや、どこにですか?」
本気で怖がりながら尋ねると、
「秋月さんの家にです。これからお世話になります」
「え、家ありますよね。本当の名前もあるんでしょ? 名前付けてあげたのでもう終わりだとおもったのですが」
と、半ば呆れながら聞くと、
「契約によって私は柊木家の一員となりました。ので、家まで案内してもらおうと」
この人はどこまで本気で言っているのだろうか。些か心配になってきた。
「頭、大丈夫ですか? 病院行きますか? いや、大丈夫じゃない。行きましょう」
「え? 行きません。結構です」
拒否された。どうやら自分が病気であるとお気付きでないご様子。さてどうしたものか。
「では行きましょう」
そう言って教室から連れ出された。袖を引かれて歩くなんてなかなかない事だと思った。家まで一緒に行けば帰ってくれるだろう。そう思い直して、一緒に下校することにした。
外はまだ明るい。帰り道は車が二台通れるような広さは無い。頑張れば通れるかもしれないが、頑張る人は滅多にいない。そんな道が僕の帰り道である。周りには古いお店がちらほらあり、その他は民家だ。こちらも時代を感じさせるような造りだ。この道を抜けて右に曲がる。そこは小道で、辺りは田んぼが広がっている。その道をしばらく歩くと、住宅街の端っこが見えてくる。その辺が僕の家だ。到着。
「ここが秋月さんの家ですか?」
はい、そうです。ここが僕の家です。僕の家は普通だ。周りの家と同じだから特徴も無い。だが、彼女はどこか楽しそうで、嬉しそうで、期待に満ちていて、僕は少し照れくさかった。人を自分の家に案内するというのは結構緊張したが、反応があると嬉しいものであった。これで彼女も満足しただろう。
「ではお帰りください」
「はい、ありがとうございます」
彼女はそう言って僕の家に入っていった。
「ただいま帰りました」
「いやいや、ただいまじゃないでしょ」
「え、じゃあなんと言えばいいのですか?」
そういう問題じゃない。この家に帰るっていうのマジだったの?お世話になるつもりなの?
「くっ、俺のターン! 妹ッ召喚!」
妹が家の中から現れた。名前は柊春月。春月は僕と同じ高校で、一年生だ。部活動に所属していないが、僕とは違い早々に帰宅して家事を行っている。春月はとてもえらい。いつも作ってくれるご飯はとても美味しい。そこには幸せと呼ぶべきものがあった。家族とならたくさん話せる。だからつい頼ってしまう時がある。
「お帰り、兄さん。どうかしたの?」
春月は優しい性格の持ち主である。故に、僕の隣にいる女の子にこう言った。
「もしかして兄さんのお友だち⁉ 初めまして妹の春月です! いつも兄がお世話になっています! ぜひぜひ、上がっていってください! お茶などお出ししますのでっ! お話聞かせてくださいっ!」
そんなに僕のことを聞きたいのか。僕に友達がいないからって、いつも心配してたもんな。友達なんざいらんけど。ともあれ春月はこのよくわからん生物を家に上げるらしい。
「いや、この人友達とかじゃない。お世話になってない。上げなくていい。お茶は僕が飲む」
しかし、僕の言葉など聞こえないかのように、
「初めまして、私は柊詠華と申します。こちらこそお世話になっています。先程名前を付けてもらったばかりなのです。上がらせてもらいます」
などとぬかしやがった。が、努めて冷静に、
「家族の方が心配すると思いますよ。送るので帰りましょう」
と言った。
「ダメだよ、兄さん。せっかく家まで来てくれたのに追い返すような真似しちゃ」
と言われた。しっかりした妹である。春月にそう言われては弱いので、彼女を家に上げることにした。
「ていうか今、詠華さん、兄に名前を付けてもらったって言いました? もしかして妖精さんなのですか⁉ 友達がいない人の前に現れるというあの⁉」
どんな妖精だよそれ。そんな都市伝説聞いたことがない。大体、名乗った時に突っ込めよ。柊って言ってるぞこの人。
「私は妖精さんではありません。秋月さんのドッペルゲンガーです」
妖精にさん付けするとなんかいいね。と思っていたが、僕のドッペルゲンガーだと言われて冷めた。目が冷めた。頭オカシイダロ。しかし結局、僕は彼女を家に入れた。
家は二人で住むには少し広かった。昔は両親がいたのでちょうど良かったが、今は少し物足りなさを感じる。部屋も幾つか余っていた。
現在僕たちはリビングでお茶を飲んでいる。急須で入れた温かいお茶だ。
「秋月さん、私はあなたの家族ですよ? 名前を付けてもらったので立場は娘か妹になります」
僕の態度が気になったのだろうか。そんなことを言ってきた。
「そんなことより、まずはドッペルゲンガーだという証拠を見せてください」
証拠を見せてもらわなければとても信じられません。彼女はきょとんとしていたが、
「信じていなかったのですか?信じてもらえたから名前を付けてくださったのではなかったのですか?」
と、困ったような顔で聞いてきた。残念ながら違います。ただ面倒くさかっただけです。僕は顔を逸らした。
「兄さん、女の子に適当な対応するといつか後ろから刺されるよ」
女の子怖い。でも刺されるようなことは誰にもしていないと思う。それに彼女はそんなことはそもそも思い付かない性格だと感じた。
「証拠ですか。どういったことをすれば信じてもらえるのでしょうか」
そう言われても何が出来ればドッペルゲンガーなのかとか分からない。ここは適当に言うしかないな!
「ではまず、三回まわってワンと言ってみてください」
「いや、兄さん。適当すぎるでしょ」
だって、ドッペルゲンガーとか知らんし。これは仕方ない。
「わかりました。三回まわってワンと言えば信じてもらえるのですね。では、やります」
え、やるんですか。こんな事やる人は弱みを握られて命令に従わざるをえない状況にいる人でしょ。
「では、やります。しっかり見ていてください」
そう言って彼女は三〇㎝ほど宙に浮いて、ゆっくり回り始めた。結構頑張っているらしく、顔を赤くしてプルプル震えながら回っている。なかなか面白い。十五秒くらいで終わった。着地して、
「わ、ワン」
最後にワンと言った。
「ど、どうでしたか?ちゃんと見てましたか?」
ああ、証明されてしまった。彼女は普通ではなかった。ドッペルゲンガーかどうかは知らないが、彼女は普通ではなかった。宙に浮く女の子は普通じゃない。さて、どうしたものか。
「凄いよ詠華さん‼ 兄さん、詠華さんはやっぱり妖精さんだよ‼」
春月、君は何を言っているんだ?妖精さんが日本にいるわけないじゃないか。妖精さんは多分ヨーロッパにいるんだよ。それか、綺麗な湖にいるんだよ。とにかく日本に妖精さんはいないから、この人?は何なんだろうね。
「私は秋月さんのドッペルゲンガーですよ? 信じてもらえましたよね?」
微妙。とりあえず、ドッペルゲンガーが宙に浮けるとか知らない。まあどうでもいい。問題は彼女が居候しようとしていることだ。いや待て、彼女が僕のドッペルゲンガーだというならそれが普通なのか?彼女は僕の妹か娘と言っていたが、全部真実だというのなら妹として迎えるのが普通か。娘というのはあり得ないからな。僕は普通の高校生なのだから。
ヘ(゜ο°;)ノ