何者
初めてです。よろしくお願いします。
( ・_・)ノΞ●~*
僕は高校生である。名前はまだ無、……柊秋月だ。
中学生くらいからだっただろうか。僕は次第に人間を嫌いになっていった。何故だろうか。具体的な要因は無かったと思う。これについてはまた後でということで。
とにかく、高校生になったときには人間はもう完全に嫌いだった。しかし、周りの人間が こんなのならば僕は優しくあろうと思っていた。誰にでも平等に接していこう。困っている人がいたら手を貸そう。落ちているゴミを拾おう。そう思って、僕は自分の中に優しさを作った。
ただ僕も甘いもので、誰かが何か良いことをしているように見えたら、その人は優しい人になる。僕の主観で判断している。だから嫌いな人(基本的にみんな嫌いな人だが)が良いことをしているように見えたら、本当は優しい人なのだと思ってしまう。そう思いたいだけなのかもしれないが、僕はそう思ってきた。
現在、僕は高校二年生だ。どこにでもある普通の高校の普通の高校生。部活動に所属しておらず、帰宅後も特にやることが無く、無意味な時間を過ごしている。僕はそれを特に悪いとは思わない。将来の夢はない。働きたくない。故にこれでいい。
ある日、僕はいつも通り放課後、教室に残って勉強、をしないで本を読んでいた。家まで歩いて十分程度だが、家では集中して読書出来ないので教室に残って本を読んでいた。読んでいたのだが、教室の前の扉が開いた。クラスの部活動所属率が九九%のため、忘れ物を取りに来る人しか来ないのだが開いた。しかし、教室の机には鞄などはなく、忘れ物を取りに来たとも思えない。僕の席は窓側の一番後ろで見事に見回せすことができた。誰だろう、何をしに来たのだろうと思いそちらを窺うと、扉を開けたのは女の子だった。
その女の子は教室には入ってこなかった。現在、時刻は五時半。五月半ばで外はまだ明るい。だが、日光がぎりぎり僕を照らす位置にあり、廊下は薄暗く、教室の電気もつけておらず、そして何より僕の視力が悪かったために、女の子の顔は見えなかった。この女の子、仮にAさんとしておく。Aさんの身長は一五〇㎝程度であるらしかった。扉には窓があり、その窓の半分くらいに頭のてっぺんがあるから多分そのぐらいだろう。以前、入ってくる人の身長を観測したことがある。Aさんが黒髪ロングのストレートであることは捉えられた。学校指定の制服に黒のニーソックス。さらに、特に何も持っていないことも視認できた。できたので、読書再開。普通の人は扉を開けた人をチラッと見るくらいだろう。僕も例によってそれだけの反応を示した。本当にそれだけ。
一分くらい経ってからようやくAさんは教室に入ってきた。先程まで時計の針の音しかなかった空間に、新たに足音が刻まれる。本に目を落としながら、教室に入ってきたAさんについて考える。このAさんをAさんとしたのは誰か分からなかったからだ。クラスの人だろうか、と考えていると、足音がこちらに向かって来ている気がした。僕の近くの席に用があるのだろう。そう思っていたのだが、やがてAさんは太陽から僕を半分ほど隠した。
どうしましょう。どうすればいいのでしょう。僕には全く分かりません。なんかAさんが僕の前に立っているんですけど。え、なんで?どうして?何がしたいの?顔を上げるのは怖いのでとりあえず無視することにしよう。
五分後、状況は全く動いていない。僕は覚悟を決めた。そして僕は帰る準備を始めた。そろそろ帰る時間だから帰ろう。あはは。僕はAさんを完全無視しながら帰り支度を進めた。Aさんに反応は無い。怖い。何かしているのだろうか。しかし、色の白い両手はスカートの横にふんわりと置かれている。やはり僕を見ているのだろうか。それとも何か言いたいことがあるが僕が無視しているから困っているのだろうか。僕は人と接するのが苦手だ。僕から話しかけることはまず無い。が、なんだかAさんに悪いような気がして僕はAさんに話しかけた。
「あの、どうかしました?」
なんと言えばいいのか分からなかったが、とりあえず聞くことができた。そして、
「いえ、別に」
Aさんはそう答えた。再び訪れる静寂。この静けさは心地のいいものではない。そういえば、Aさんの声は聞き覚えの無いものだった。このクラスの人ではないのだろうか。この人は誰で何をしに来たのだろうか。僕はもう一度、今度は顔を上げて尋ねた。
「誰ですか?」
ストレートに聞いた。主語に何を使えばいいか分からなかった。「あなたは」とか、「君は」とか言えない。なんか恥ずかしい。普通この場面では「君は」を使うのだろうが、僕には出来なかった。ともあれ聞いた。誰か、と聞いた。これはちゃんと答えてもらえるだろう。Aさんは誰なのだろうか。そしてAさんは答えた。
「私は、ドッペルゲンガーです」
だそうだ。うん、良かったね。Aさんはドッペルゲンガーだそうです。人間、本当に驚いた時は間抜けな声を出してしまうようで、僕はつい
「はぁ?」
と、言ってしまった。怒らせてしまっただろうかと窺うが、特にその様子はない。無表情だが美人だ。安堵しつつもとりあえず聞いてみる。
「名前は?」
ドッペルゲンガーとかどうでもいいから。とりあえず名前言ってみ?そう思いながら聞いてみると、
「名前はありません。秋月さんが付けてください」
とかなんとか言ってきた。いや、何を言っているんだこの人。名前は無い?僕が付けろ?
「いや、名前ありますよね。この学校の制服着てますし、普通に生活してますよね。僕に何の用か知りませんがあまり変な行動をとらないほうがいいですよ」
そう言って僕は椅子から立ちあがり、帰ろうと鞄を掴んだ。この人わけがわからないよ。
「待ってください。困ります」
Aさんは僕の肩を掴んで引き留めた。僕はため息をつきつつ、再び椅子に座った。困ると言われたら困ってしまう。
「そもそもなんで僕の名前を知っていたんですか?」
まずは疑問を解決していこうと、気になったことを聞いてみた。
「秋月さんのドッペルゲンガーですから知っていて当然です」
なるほどわかった。いつも一人でいる僕を仲間だとか思って設定に組み込まれてしまったのか。めんどくさい。適当に話合わせて早く帰ろう。
「で、なんで僕が名前を付けなくてはならないのですか? というよりなんで僕が帰ると困るんですか?」
「秋月さんのドッペルゲンガーとして生まれた私は特殊で、ホートスコピーと呼ばれるものです。今、秋月さんは二人いる状態なのですが明確に区分しなければどちらかが消えてしまいます。今は明るくて完全に分離しているので名前を付けてもらうならここしかないと、出てきました。名前を付けてもらえれば消えることも無くなります。暗くなってしまえば私か、秋月さんの自我が消えてしまいます。名前を付けてもらう際に契約が発生しますが、それは後で説明するので早く名前を付けて下さい。お願いします」
結構喋った。最後の方が割と鬼気迫るものだったので、名前を付けるくらいなら良いだろうと名前を付けることにした。
「わかりました。じゃあ苗字は」
「柊です」
苗字は僕と同じらしかった。
「じゃあ名前は、『詠華』で」
「詠華?」
特に理由はないが、読んでいた本の中から気に入った語を組み合わせこれにした。
「いい名前ですね。では私のフルネームを言ってみてください」
僕はそれに答えた。答えてしまった。
「あなたの名前は柊詠華です」
いけね、間違えた。