錬粒子とは何か?
イツバちゃんは帰ってしまった。
「これからどうしようかな?」
重大なヘマをやらかしてしまった。これから仕事を再開するには少し時間が必要だろう。
それまでヒマになる。それまで、どう食いつないでいくか?
やはり店主の酒場にいくのがいいか。そこで余ったおつまみをもらっていこう。いつもの事である。
そう決まると、そこまで急ぐような事態でもない。私は部屋のベッドに寝転んだ。
イツバちゃんはよくやってくれたようだ。しめっぽかった布団はだいぶ寝心地がよくなっている。
起きていると腹が減る。酒場が空いておつまみが残る時間になるまで寝ることにしよう。
久々に寝心地のいい布団にくるまれながら目を閉じた。
ドン! という、ドアが開け放たれる音で目が覚めた。
「お前。錬粒子を持っているな?」
私は目を覚ますなりそう声をかけられる。周囲にいるのは銃を持った男たちだ。
「錬粒子って何?」
名前を聞くのも初めての物質だ。当然持っているはずもない。
「お前のところから反応が出ている」
短く言うが、本当に何の事だか知らない。
「探せ」
リーダーの男がそう言うと部屋を荒らし始めた。リーダーの男は、鬼のお面で覆面をしていた。
絨毯をひっくり返し、テーブルの裏側も漁る。花を活けてある花瓶をひっくり返して中を確認する。
「どこに隠した?」
「私は何も知らない」
「お前がそう言う時は大抵何かを知っているんだ」
有無をいわさずにそう言ってくる男。だが知らないものは知らないのだ。こいつらが何者かもわからない。
「何も言う気がないなら死ね」
「何で……?」
震えてそれしか言えなかった。ここで何もわからずに死んでいくのかと思った。
いきなりの事で実感はない。自分が殺されるような事をした覚えもなくこんな事になった理由にも心当たりはない。
だが私はこれから殺されようとしている。
恐怖や後悔を感じるよりも先に何も考えられない無の状態がある。頭が真っ白になった。
だがその時ユーフォーが近くに飛んできた。
「発砲する」
ユーフォーからそう宣言がされると、実弾が放たれた。
男たちが悲鳴を上げて倒れていくのに、私は呆然としてそれを見た。
男たちの行動も素早い。倒れた仲間に見切りをつけて動ける者のみで私の部屋から退散していった。
「大丈夫か?」
これはカインの声だった。
「知り合いか?」
「知るわけないでしょ? あんな奴!」
「思い出せ『お前がそう言う時は大抵に何かを知っているんだ』なんて、お前を知っている人間のセリフだ」
そういわれるとそうだ。
「って! なんでそんな事知っているのよ! 来ているならもっと早く助けなさい!」
「こっちの質問に先に応えろ」
「あんたが先よ!」
一体なんでこんなに早く駆けつけることができたのかも謎だ。
「今、そんな事を言っている場合じゃ」
「話を逸らすな!」
カインの奴は意地でも糾弾をしないといけないようである。そうしないとおちおち眠ることもできなそうだ。
「あの花瓶の中に盗聴器を仕掛けていたと」
それから私の家にやってきたカインを問い詰めた。
「大きな組織から助けられた人間は、証拠の隠滅とか、情報流された報復とかで狙われる事も多い」
「だからって盗聴なんてする? クリーヴァーが犯罪をしていたら本末転倒よ! 結果オーライで済まされる問題じゃないわ!」
カインも反省の様子がない。
「そこが問題かよ……」
こんなセリフまで出てくる。
人の家に盗聴器を仕掛けておいてこの態度はありえないだろう。
「めんどくせぇな……」
カインはそう言う。
「もう屯所にでもどこにでも行け! 保障なり賠償なり好きに要求すればいいだろうが!」
どんだけ居直ってんのよこいつ。
まあいい。そう言ったからには好きに要求させてもらおう。
私が何者かに狙われているのは事実だ。そうなると優先するのは自分の身の安全。
安全な場所はどこかというと、やっぱ警察に行くのが妥当なんだろうが、グレーな仕事をしている身である。
警察の厄介になるのは後々の事を考えるとよろしくない。
「なら、あんたの家に住ませなさい」
「は?」
柔軟な発想で考えた末の結論だ。
カインの力があれば私の身は安全。イツバちゃんとも一緒にいられる。
「なるほど……それもアリか」
こいつがなんか乗り気なのは癪であるが、私に有利な条件であるには間違いがない。自分の頭の良さが恐ろしいわね。
「俺の家で保護という形式にさせてもらう。今回の被害の報告書も作るから協力しろよ」