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ライアンラヴァー  作者: TUBOT
カインとイツバ
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カインとイツバ

「これで聴取を終わります」

 聴取で何を聞くのかは分かっている。スラスラと答えた私はすぐに自由になった。

 屯所は大きめの一棟のビルであった。

 クリーヴァーは警察とは違う独自の組織だ。警察には制約が多く、自由に動けないことも多い。法律と犯罪者は今でもいたちごっこを繰り返している。

 新しい法律ができたら抜け穴を考える。抜け穴を許さない法律が生まれたら、また新しい抜け穴を考えられる。

 警察では対応のできない事件を強引に解決する事もできるように作られたのが、クリーヴァーの制度だ。

 飽くまで自警市民の位置にあり、容疑者の拘束や屯所での留置までの権利が与えられている。

 警察と違うのは、さっきのように怪しいと思ったら自分が責任を取る覚悟で人の家に踏み込む事もできる。警察がこんな事をしようものならすぐに不祥事扱いだ。

 こういう柔軟性を買われた組織である。

 あの男に器具を売りつけた組織や、あのキャバクラ店も一緒に摘発されることだろう。また一つ、私は世界をきれいにしたわけだ。屯所の門の前に立つとあのクリーヴァーが待っていた。

「本日はお疲れ様です。私がご自宅までお送りいたします」

「なにこれ? 民間企業風のサービス?」

「個人的にやっている事だ。事件の被害者には最後まで付きそう事にしてんだよ」

 そうやってクリーヴァーとしてのポイントでも溜めているのだろう。そういう事なら遠慮などせずに利用させてもらうのがいい。


「あの事件の事は今ではどうだ?」

 クリーヴァーは私に向けて聞いてきた。

「助けに来たクリーヴァーがもっとかっこよければよかったね」

「そのようなサービスはいたしかねます」

 サラリと返してきた。

 この相手にしていないっていう感じの態度には腹が立つ。

 私はクリーヴァーに促され、バイクの後ろに座った。

 バイクに乗っている時は無重力状態になる。これが重力を遮断する電磁波の力だ。

 だが重力加速度は無視できないため、体を固定していないと、ジェットコースター乗っているように吹っ飛ばされてしまう。

 走っても風はない。暴走する車の中に乗っているような感覚と言えば大分近いだろう。

「あいつの背後関係は調査中だ。あんな装置を手に入れられるってのは、財力だけで説明できないからな」

 医療器具に警察の使う最新式の拘束具を持つのが一般の男のはずがない。背後に大きな組織があるというのは私でも読める。

「その後の事がわかればお前にも伝える」

「どうしてそこまでするのよ?」

 クリーヴァー達が勝手に捜査をすればいいだけの話。私には関係ないはずだ。

「クリーヴァーはただの仕事じゃない。給料のためだけにやっていいことじゃないんだ」

「そんなのどんな仕事をやっている人間も言っているわよ。建前なんていいから」

「そういう事を本気で思う事ができないうちは、独立なんて無理だね」

 探偵として独立して立派にやっている私に対して何を言っているのだろうか?

 そんな建前だらけの言葉に耳を貸す私ではない。


 私は自分の部屋の前にまで連れてこられる。しなびた部屋だ。風穴が通るし壁も床も薄い。これよりいい部屋に住むことを考えて、この部屋の補修はあえてしない。

 そうすれば、早くこの部屋を引き払いたいって思えるからね。

「今回の事はありがと」

 一応お礼くらい言っておく。今回は嫌味は言わなかったわけだし。

「部屋の中を確認させてもらっていいか?」

 クリーヴァーは言い出す。

「何もないわよ。用が済んだら帰りなさい」

 そこまでくるとサービスではなくただの迷惑である。拒否したものの、この男はそれを無視して私の部屋に入っていった。

「やっぱりいたか」

 私の部屋には小さな女の子がいた。

「お兄様。ちゃんと最後まで面倒見ないといけませんよ。この部屋は散らかり放題でしたから」

「これは世話ではなくただの迷惑だ」

 この子は私の部屋を掃除してくれていたようだ。

「こういう素直で可愛い子なら大歓迎よ。性格のヒネた男の送り迎えよりもよっぽどね」

「可愛いなんて、そんな事ないです」

 明らかに照れて、しかも嬉しそうにしてモジモジしている。

 昔の妹分の子の事を思い出すようなしぐさだ。

「いつでもうちに来ていいからね。こいつを連れてくるのは心底ご免だけど」

「私。お姉ちゃんがほしかったんです」

 トントン拍子にうれしい事を言ってくれる。この子はうちの子にしたい。

 そこに邪魔をしに入ってきた男の咳払いが聞こえてきた。

「とりあえず自己紹介をしよう」

 そういえば名前を聞いていなかった。

 私の名がアインステナだという事はこの男も承知であり、自己紹介の必要はないようである。

「俺はカインコック。この子はイツバメル。イツバとカインとでも呼べ」

「インコとツバメちゃんね」

「なんでそこで切るんだよ? 絶対却下だ」

 私のネーミングセンスにケチをつけてくるインコ。

 だがそれ以上何かを言ってくるわけでもない。やはりこの男は私の事を相手にしないという態度には変わりないようだ。

「さっきも言った通り、何か事件に進展があれば話しに来る。被害者の気持ちを少しでも和らげるためにな」

「あーはいはい。そういうのいいから」

 呆れたもの言いのインコ。

 私の事なんて気遣わなくてもいい。イツバちゃんなら大歓迎であるが、こいつに癒されたくはないもんだ。

「俺のポリシーだ。嫌でも付き合ってもらう」

 このインコは、私の意思など完全無視で、いらぬおせっかいを続けてくるつもりらしい。

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