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ライアンラヴァー  作者: TUBOT
闇の深い仕事
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時代遅れ

 キモい。頭をなでるなんて子供じゃないんだから。

「痛いって言ってるでしょ」

 私が言うが、男はそれ以上何も言わずに私の事を担ぎ上げて車の中に押し込んでいった。

『この男は女の子の扱いってもんがわかってない』

 何か言っても無意味だろう。私の演技で上手くいかないとは思っていなかった。

 車はどこを走っているのか見当がつかない。時速二百キロの車は首都圏なんて簡単に超えて行ってしまう。隣でスナックを食べるバリボリという音が聞こえてくる。それも、すぐにクチャクチャという音に変わる。

 耳障りなその音を聞きながらも、私は弱気なところを見せまいとして、怖がらずにふるまった。

 屋内に入った後、私はベッドに投げ捨てられた

 そして目隠しを外された。

 周囲は幼児の部屋のようなぬいぐるみの置かれた部屋。壁紙は幼児向けのキャラが描かれた壁で本棚には絵本ばかり。

「ボクのかわいい女の子だ」

 その言葉と共に目隠しを外されたとき、私の目に映った男の顔は昼間、私に絡んできたあの男だった。

「言ったろう。人は寄り添い合わないと生きていけないって」

 頬をさする男の手。嫌悪感しか感じない気持ちの悪い感触だった。

「君の名前はアインステナ。酒場から場末の仕事をもらって生活をする、皆からクズな奴と言われている可哀想な子」

「誰が場末だって!」

 確かにしょうもない依頼ばかりであるが、探偵の仕事なんてだいたいこんなものである。この男はそんな事もわからないらしい。

「名前と顔が有名になった探偵なんて、使い道がないんだよ。普通の探偵は、しっかり顔を出して仕事をしているっているのに」

 やはりこの男は分かってない。探偵は小説に出てくるようなカッコイイものだと勘違いしている。

「そこから教えてあげる必要あるようだね」

 どこかで手に入れたにわか知識を使って得意げに現役の探偵に説教を仕掛けてくるマヌケな男の姿がそこにあった。

 教えられることがあるなら言ってみなさい。

「君は古い技術を持っているだけで一流のつもりだ。どの世界でも日進月歩、いまだに虫型のカメラを使って捜査をしているのなんて君くらいなんだよ」

 ドキリとした。自分の培ってきた技術がもう古いと言われて、反論したい気持ちになるが言葉が思いつかない。

「大体ホステスの調査なんてふつうは自分が客になって本人に近づく事から始めるんだよ。でも、君の場合は顔が割れてるからその方法も使えないよね」

「私女だし。ホステスをご指名なんて不自然極まりないじゃない」

「人に自然に近づくなんて普通できないって。どうしても不自然になろうが、いきなり話しかけでもしないと先に進まないだろう?」

「相手に不信感を持たせるでしょう?」

「それは最初だけだ。友人なってしまえば客として店に行かなくても直接会う機会なんていくらでも作れる。その段階にまで入ってしまえば、女である君の方が有利になるんだから」

 何も知らない素人が何を言っているんだ?

 そう思うが反論は思いつかない。私はこのバカな男をにらみつけた。

「反論できませんって顔だね」

「できるわよ!」

「ならしてみなよ。とか大人げない言葉は言わないさ。じっくりと話す時間はあるからね好きなだけ言い訳を考えなよ」

 そう言うと男は勝手に話を切り上げて次の話題に入る。

「君はボクと同じく可哀想だ」

「アホ」

 女を縛ってアホみたいな部屋に連れ込むやつの方が、どいう考えてもかわいそうである。

「脊髄反射の思慮のない反論しかできない。いくら『反論はあるけどいわないだけよ』って顔しても無駄だよ。何も考えていないって事は分かっているんだから」

「あんたに説明しても無駄だって思ってるだけよ!」

「いいね。それもボクと同じだ」

 ドキリとした。その一言の言葉だが、それに深くて重い意味があると本能が理解した。

「説明してあげるよ」

 その説明をされると自分が壊れそうだと感じた。この男は私の事を見透かしている。自分の中の壊れやすいから硬い殻で守っている部分を崩しにかかってきているようであると思った。

「ある程度反論は思いついているだろう。だけど、それは言わないんじゃなくて、言えないんだ」

 その男は続ける。

 反論を相手が理解できないと思っているのではなくて、その反論が論破されるのが怖いから言えないだけだ。

 言わなければ論破はされない。そのすぐにあしらわれるかもしれないと不安な、足元の据わっていない理論のみが自分の心の芯を守っている。

 心の芯を守る、その小さい希望が壊されるのが怖いのだ。

「人がそれに気づくのには時間が必要だ。大丈夫。いますぐここで壊そうなんて思っていない。じっくりと時間をかけて慣らしていくしかないんだ」

「時間なんて、無いに決まってるじゃない」

「すぐに逃げ出せると思っているね。でも無理だよ。この部屋の装備を見たらそんな事言ってられない」

 男がリモコンのスイッチを押すと、ベッドの下から足枷が出てきて、それが素早く私の足を拘束した。

 足枷には私の脈拍と血圧が表示される。これは人の脳波を読み取って拘束をする。凶悪な犯罪者を拘束するのに使われる最新鋭の拘束具だ。

「脳波を測定するのに、頭に器具を取り付ける時代は終わった。脳波は骨と血液を伝って体全体から発信されている。頭に変な物をつけてもかわいくないからね。大発明だと思う」

 そして、またリモコンのスイッチを押す。

 そうすると。私の目の前にチューブが伸びてきた。口の中に押し込まれると、喉の奥から離れなくなる。

 単分子接着剤。分子の振動によって体の粘膜と接着する医療器具だ。振動が止まると簡単に離れるため、一時的に医療器具を患部に当てる時ちょうどいい。

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