カインのわがまま
屯所の会議室で行われている会議。この会議の司会進行をするベテランクリーヴァーの言葉が、カインを含めた全員のクリーヴァーの耳に届く。
「我々の任務は急を要する」
ステナから送られてくる電波によって、現在の状況が見えてきたのだ。これは急いで組織を壊滅させないといけない。
「作戦の内容はこうだ」
ステナを星の中心部に送るカプセルは、研究所から送られる指令によって動いている。
研究所の指令を出す機器を破壊すればカプセルは止まり、ステナの入ったカプセルは、マグマの流れに乗って層の中を漂い、いずれはマグマに溶かされていく。
「彼女の生死は問わないという意味ですか?」
「ああそうだ。警察なら人質の命を見捨てるなど、言語道断だろうが、そこで我らの強みを生かす」
カインはそれを聞いて黙考した。
「余計な事は考えるな。君は優秀なクリーヴァーだが、それ故に完璧のさらに上ばかり求める」
カインが、組織の壊滅の上で、ステナの命を助ける事を考えているのは分かっているという事だ。
「カインコック君には、ゼルス君を付けよう」
そして、監視役として一人のクリーヴァーがつけられた。
カインは表情を変えずに会議の続きを聞いた。
「突破力のある君らにコンピューターの作動室の占拠と機械の破壊を任せる。我々は派手に暴れまわって研究所の警備をひきつける。ゼルス君が装置を破壊したまえ」
単独行動で的中を突破するなど、カインにしかできぬ芸当だ。この役割にはカインしかいない。
だから監視を一人つけて、作戦通りに動くように保険をかけたのだ。
それから、細かい指示を出し、大まかな作戦の概要を皆に伝えると、屯所から出たものから空を飛んで現場に向かった。
「あの子に惚れたのか? イツバちゃんはどうすんだよ?」
カインは飛行中にゼルスからの呼びかけを受けた。インカムから骨伝導で伝わる声は、どんなに風が強くても、頭の中に直接伝えられるようにして聞こえてくる。
「惚れたかどうかは、ご想像にお任せする」
「そんな事言っていいのか? すっげえ想像をお任せされちまうぜ」
カインは少し眉をゆがめた。ゼルスは冗談が好きで、とんでもない事を考えたりするのも多い。
「あいつの事を近くに置いておきたくなった」
「愛してるって事か」
ゼルスの答えに、カインは黙考する。
「かもな」
否定の言葉でもなんでもない。ゼルスは意外な言葉を聞いたと思った。
「あいつは馬鹿だ。そのうえ行動からは責任感を感じないし、自分勝手な事ばかりする。野放しにはできない」
「普通は野放しにして、知らんぷりをするもんだがな」
ゼルスの言葉が当然の考え方だ。
「女の子を二人も自分のそばに置くっていうのは、つまりこれ二股だぜ。痴情のもつれで出動させられる苦労を、お前は一番分かっていると思うのにな。ミイラ取りがミイラになるぜ」
「俺自身が解決すればいい。俺はクリーヴァーだ」
勝手な事を言うカイン。冷静沈着なカインがわがままみたいな事を言うのに、ゼルスは顔がほころんだ。
「ついでに二股とか言うが、そんなのは知らん。俺は近くに起きたいやつを近くに置く」
「完全にわがままだ」
ゼルスはそれを聞き笑った。カインがわがままを言っているのは、ゼルスにとって面白いことだった。
私は星の中心部に沈んでいく。カプセルには外を見れる窓がある、その窓からは真っ赤な光が見えた。星の中心部に行けば行くほど、赤く光り輝き、まぶしくて見ていられなくなる。
地中深くまで潜っていくと重力も上がる。呼吸すらも苦しいくらいに、空気が重く感じていた。
ここで、自分が死ねばこの星は助かる。だが、そんな事ができるなら、私はこうはなっていない。
「誰かが助けてくれる……」
十分で自分は星の中心部に達して溶ける。だが、小さい望みを持って自殺をしない選択肢を取った。
「私はクズだよ。人を殺すことになっても……」
そうは思うが、そもそも、人を助けるために命を懸けられる人間など、どれほどいるのだろうか。そうも思う。
だがそれを考えた後、私は後悔する。
「私はすぐにこんな事を考える」
他人を引き合いに出して責任転嫁、下を見つけて安心感を得る。
こんな事ばかりしていた記憶しかない。本当に私には生きる価値がないと思った。
「誰か助けて。私はクズでいい。死にたくない」
呼吸が苦しくなり、小さな声で言う。心の叫びは、この時だれかに届くとは思わなかった。
「制御室制圧。生体反応なし」
カインは研究所の見取り図を見せられている。制御室に直行して、機械をいじった。
「俺を止めるか?」
「止めない」
「何のための監視だ?」
「そう思うなら自分で機械を壊せ」
カインとゼルスはそう言い合った。この機械が壊されれば作戦は完了だ。外で敵と戦っている仲間は、カインがこの機械を壊す瞬間を待っているのである。
これは外の仲間に対する裏切り行為だ。
「監視に付ける人間を、俺に選んだのが災いしたな。偉い人よ」
この会話は指令室に聞かれているのを分かったうえでゼルスは言った。