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ライアンラヴァー  作者: TUBOT
過去と向きあう
30/37

組織の目的

「いらっしゃい」

 そう言った喫茶店の店主はアリシルを迎えた。

 その店主の姿に私は釘付けになる。肩の部分がえぐれているのだ。

 肩から先にある腕には全く力が入らない様子。

「その姿、テロでですか?」

「ああ。そうだ。その話はあまりしたくない」

 テロで負った傷らしい。私はその傷の元凶の一人だと思うと後ろめたい気持ちになる。

「私が仕返しをするから気にしないで」

「そんな事考えなくていいっていっているのに」

 アリシルは言う。今度は店主の方がバツが悪そうだ。

「数年であの大惨事はみんな忘れちまう。人間の生命力が強いのか、俺が引きずり過ぎているだけか?」

 店主もここで喫茶店を経営しようとして下見に来ているところにテロに遭ったらしい。

 ここはただの候補の一つの場所であったが、あのテロに遭って大けがをして、本当にここに住まなければならないと思ったそうだ。この事件を忘れないように。

「まだ捕まっていないのは知っているが、アリシルがひきずる事ではない。昔の愚痴を言うのは俺たちのようなおっさんの役目だ」

 アリシルの前にウインナーコーヒーが出される。

「君は何を注文かな?」

 そう言われ、ブラックコーヒーを頼むとすぐにコーヒーが出される。

 いろんな人がテロの犠牲になった。一体何が目的なのかもわかっていないのだ。追う警察も、クリーヴァーも、尻尾すらつかめていない。

 壁に多くの人間の写真が張られているのが目に入った。老人がいれば子供もいる。

 あれはテロの被害者だろう。そうとわかるとそれ以上聞けなかった。


 私達はいろんな人達を殺していた。あの孤児院にいたら、私もあのような人達を作り出す駒の一つになっていたのだ。

「ごめん。そんなつもりじゃ」

 帰り道を歩く私とアリシル。私は自分でも分かるくらいにふさぎ込んでいたので、声をかけてもらえたのだろう。

 あの喫茶店に連れていかれたから、私がこんなに悩んでいるのだと、アリシルも感じたのだ。

「いいの。今の私には必要だったのかも」

 今日の事はそう感じるのに十分だった。

 私がこれ以上逃げるというのは、組織を野放しにする事であり、これ以上に被害者を増やすことである。そんな当たり前の事に、今ようやく気付いた。逃げる権利など私にはないのだ。

「駐屯地に帰ったら話すことがある」

 アリシルに目を覚まさせてもらった私は、これ以上逃げないようにしないといけない。

 私も戦う。

 そのつもりにならせてくれたアリシル。

 決して感謝をする気はないが、言いたいことは分かった。私にできる事をしようと思う。

「ステナ。ちょうど会ったな」

 いつの間にか屯所の前にまで来ていた。バッタリ会ったカインが報告をしてくる。

「あの組織について、新しく分かったことがある。聞くか?」

「聞かせて」

 私がそう答えたのを聞いて、カインは驚いていた。

「逃げなくなったな」

 一言そう口にするとカインは話し始める。

 あの組織は孤児院の経営から一年前に手を引いていた。それ以降孤児院の子供たちが用無しとなって殺されていたというのだ。

 テリーヌは優秀だったから殺されずに済んだのだろう。

 だが私が顔を知っている、孤児院で一緒だった仲間達は多く殺されているのだ。

「あの組織が何を考えているかはわからん。一年前からテロがなくなっていたから関係があるのかもしれん」

 孤児院の経営から手を引いている事も考えると、もうテロの必要はなくなったのだろうと思われるという。

 錬粒子についても調べられていた。

 錬粒子は一つ作るのに一千万以上の金がかかる。なぜ、わざわざそんな高価な爆弾を使っていたのかは、いまだに疑問なところだ。

「エネルギーは大量に持っている。五パーセントのエネルギー効率を出せていたのなら、昔でいう水素爆弾と同等の威力が、百グラムの錬粒子を使う事で出せる計算らしい」

「もっと上げれば、この星ごと壊せるかもしれないわね」

 孤児院での授業にそういう事もあったかもしれない。

 惑星の構造の勉強から始まり、惑星を破壊するにはどれだけのエネルギーが必要かとかを、ミッチリと叩き込まれている。

「この星を破壊するつもりなのかも」

 バカげていると思う。わざわざ組織まで作って、そんな事をして何の得があるのだろうかという話だ。

「それだけの威力であれば、軍事的に応用ができそうだな。戦争が変わるだろうよ」

 カインの言葉に、私はズキリと胸が痛んだ。

「惑星を一つ破壊すれば、いいデモンストレーションになるかもしれないわね」

 ふと、胸に浮かんだ考えを言う。

 そう考えると、あれだけ金をかけて錬粒子の研究をしていた事にも辻褄が合うかもしれない。

 どの世界でも、どの国でも、軍事的なものには金に糸目は付けずに強力なものを手に入れようとするものだ。

「見えてきた気がする」

 カインは言う。組織がそんな事を考えていたら、この星がまとめて危ない。

 一年前に孤児院を閉鎖したという事は、もう実験の必要がなくなったという事だ。

 ヒマな金持ちにいろんなものを売りつけて活動資金を得るだけで、十分な状態だという事である。

 これから先に金が入ってくる事を見越して、細々と活動をしているだけかもしれない。

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