保護される私
私は屯所に向かった。
「人の事を考えもしないで、あんな奴らと一緒にいる方が危ないわ」
自分の考えている事を口にすると、なんとなくスッキリしてくる。
カインに始まり、イツバちゃんも私にひどい事を言ってきた。犯罪の捜査なんて素人に協力させるものではないのに。
担当のクリーヴァーは女性だった。
「事件の情報などは思い出したらすぐ報告をしてください。どんな些細なことでもいいです」
警護の担当をしてくれたその人は、私の事を気遣ってそう言ってくれた。
持っている情報というのは、昔私が過ごしていた孤児院の住所と仲間の名前くらいだ。
体の中に錬粒子がある事も言う。
あらいざらい話せば、これ以上やるべきことはないだろう。全てがスッキリしたはずだ。
言われた通り、イツバちゃんと同じ顔の人間が、屯所のいたるところで働いていた。彼女らは、一人で社会に適合できるだけの独立した判断ができず。誰かから指示を出されないと、自分で食事すらとらない状態らしい。
イツバちゃんのように自我を持つ例は少ないのだそうだ。
こんな悲しい生き物を作り出した組織はすでに壊滅をして、取引をしていた企業もすべて摘発しているという。
私もそんなものが売られているのを知っていたら一体くらい買いたかった。そうすれば今のような貧相な暮らしをしていなかっただろう。
「さて……」
保護をされていると言いはするものの、ヒマすぎる。クリーヴァーが地道に捜査をしてくれている間私はここで待つしかない。
ここは留置所の一室。そうはいっても私は犯罪者ではないので牢は開け放たれており、食堂などの決められたところの範囲なら好きに出入りしていい事になっている。
だが、何もやることがなくてヒマだ……
そう思っているところ、となりの牢に誰かが入れられていた。
何をやらかしたかのかわからないが変な奴と隣同士になるとは、こういう場所であるからには仕方ない。
「俺は悪くない……俺は……」
また一人でブツブツと何かを言っている。
「隣に人がいるのよ。ブツブツ言わないで」
私がそう言うと、隣の奴はピタリと独り言をやめた。
「おい。俺何もしてないのにこんな事になるなんておかしいだろう」
その言葉を皮切りに、男は語りだした。
要約するとこういう事だった。
職がなく困っていた自分はスキルがないのにベテランだと嘘を言ってある小さな会社に入った。
それ、経歴詐称だ。
スキルが無いのがバレないように、みんなを説得したが、みんなから嘘つきと呼ばれ相手をされなくなった。
うん。それはその通り。っていうか説得の内容も聞きたいね。正当性を主張できる要素があるの?
それで給料だって契約の半分以下にされてしまったという。
むしろ、給料を払ってくれた事に驚きよね。
契約通りの給料を手に入れようとして、金庫の中から金を拝借した。自分がもらうべきだった正当な金だったので、問題なんかあるはずがないという。
それ、どこをどう見てもただの窃盗よ。
ちょっともらう金が多かったのがいけなかったのか、金を持って逃げ出したら追われて捕まったという。
多かったって何よ? どうせ金庫の中の金を全部盗んだんでしょう? 追われて捕まって当然じゃない。
「そうなの。災難ね」
もうそれ以外に言う言葉がない。正真正銘のクズだ、こいつ。こいつの話聞いていると頭がおかしくなりそう。
私は牢の中から出て食堂に向かった。
「なんかムカムカするわ」
変な奴から変な話を聞かされて、心の底からそう思った。
食堂は閉まっていたが自動販売機のジュースを飲んで時間が過ぎるのを待つ。
留置所の拘留期間は、最大二週間とされる。
最大で二週間、あいつが私の隣に居続けるという事だ。頭がおかしくなりそう。
「移動をするときは連絡をくださいって言いましたよね」
ふと、後ろから声をかけられた。私の担当になる女性のクリーヴァーだ。
「食堂にふらっとくるだけでもいけませんか?」
「一応移動ですので」
規則は細かいらしい。
ポストがあり、移動をするときは紙に移動先を書いてポストに入れておくという規約があった。
てっきり外出の事だと思っていた私はそれを忘れていたのだ。
「それは失礼しました」
そう私が答えると、女性のクリーヴァーは現在の状況を話してくれた。
私の事を監禁した男がどこであの器具を手に入れたか分かったらしい。私が昔所属していた組織だ。
私の事を襲った組織は、最近、自分の組織にある特殊技術をつかって作られた最新機器を大々的に売りに出していたというのだ。
「自分たちが裏組織だっていう自覚ないのかしらね」
資金に困っていたとかそんなところだろう。そもそも何を目的にして結成された組織なのかもわからない。
子供を育てて、自爆テロをやらせたり、何に使うかもわからないような錬粒子の開発をしたりしている。
どう考えてもお金が入ってくるとは思えない。
「我々がこの星を、優しい嘘で包むのだ」
クリーヴァーさんは言った。
「この言葉に聞き覚えはありますか?」
確かに、孤児院の中では朝礼でみんなの合図とされていた。
特に意味のある言葉だと思っていなかったし、孤児院のみんなも、この言葉の意味など考えていなかった。
その事をクリーヴァーさんに言うとクリーヴァーさんは頷いた。