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ライアンラヴァー  作者: TUBOT
過去と向きあう
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プレゼント

 こうやって事件の事を忘れたその瞬間に親の仇の組織の末端を監視する仕事が舞い込んできた。

 だが、自分はベテランではない。そして、巨大な組織に立ち向かう事がどれだけ危険かを、嫌というほどわかっている状態だ。

「どうしたいんだろうな? 組織をつぶしてやりたいとも思うが」

 組織に立ち向かうのが怖いのか? それを通り越して諦めているのか? それすら自分でもわからない状態だ。

 イツバはカインの言葉にコクリとうなずいた。だが、どう見ても言った事をわかっているようには見えない。

「人から話をされたときは、適当にうなずくようにインプットされているんだな」

 愚痴るカイン。

 イツバはどこまでいっても、人間ロボットにしか見えない。人間を不快にさせないためだけを考えて作られたロボットだ。

「壁に話すのと同じだし。いいか」

 カインは人に弱みを見せないようにしていた。

 人から甘くみられるのを嫌がったのもあるが人から同情をされるのが、さらに嫌だった。

『かわいそう』と言ってほしくない。人から何かを恵んでほしくはない。

 『かわいそう』という、その言葉こそ、自分一人の力で生きていこうとしている自分には、最大の屈辱だった。

 弱音が口から出そうになると、壁に向けて吐き出してそれで終わりにしていた。

「テロで、瓦礫の下敷きになった俺は運よく生き延びていた。母親に抱えられ、守ってもらった形だが」

 カインは爆発の後、意識が遠くなり、気づいたら母親の腕の中だった。顔を見ようと首をあげたところ、母親の頭に大きなコンクリートの破片が落ちており、ペチャンコにつぶれていた。

 悲鳴をあげるが、その悲鳴は暗いコンクリートの瓦礫の中で共鳴して、自分の耳から入り、脳を突き刺すように音の刃になって襲ってきたのだ。

 それから起き上がることもできず、顔を上げる事も出来ずに震えていると、女性の声が聞こえてきた。

「君! 大丈夫?」

 その声の主はイツバと同じ顔をしていた。災害救助用に作られた人型クローンである。

 見た目がよく、人間の男よりも力があり、人からの指示に忠実で有事でのみ使われるこの星自慢の人造人間だ。

 インプットされた行動であるのを知らなかったカインは優しい笑顔に惹かれ、彼女を生涯忘れないであろうと、心の底から思ったのだ。

「後でクローンだと知った。その時俺は呆然としたさ。普通は作り物のクローンだって知っている。本気でそんなものに恋をしているのは、他人からはマヌケにしか見えない事も知っているのに」

 真実を知った後も、恋心は誰にも見せずに心のうちに仕舞っておいた。どうせクローン人間。本物の人間ではないと自分に言い聞かせていた。

「イツバメルも、同じクローン用の遺伝子を使って作られているんだ。それを聞くと、彼女をバカにされているように思えた。売り物にするなんて言語道断だと」

 この作戦に参加できるように志願したが、ベテランクリーヴァーが大勢でこなすミッションに、自分は足手まといでしかない。

 必死になって訴え、なんでも役に立ってみせると言ったら、なんとかこの役をまかせてもらう事になった。

「俺はあいつらの警戒心を自分に向けるための囮だ。その間にベテランの方々が仕事をしてくれる」

 そこまで話して、何でそんな話をしたのか疑問になってくる。

 感情の見えないロボットに、そんな事を話しても無意味だと思っている。

「もう帰りたいか?」

「いえ、もう少しここにいたいです」

 カインはぎょっとした。

 イツバが初めて自分の意思を口にしたのだ。


 家に帰ると、イツバは洗濯を始めた。

 自分の目の前で服を脱ぎ、洗濯機に放り込む様をみて、カインは辟易していた。

 イツバの代えの服を買っていなかった事を思い出すと、自分のワイシャツを渡して着させていた。

「なんか、さらに目の毒になったような」

 ワイシャツ一枚着て、仕事もないので椅子にチョコンと座るイツバ。

 指示がないと、何一つ動こうとしない。まさにロボットという感じだ。


 次の日、イツバに自由に買い物をさせることにした。

 カイン自身、イツバの自由にさせるとどうなるかを見ておきたかったのもあり、ユーフォーを一台イツバの撮影に付けて後を追っていく。

 イツバは乾きたての服を着て服屋に行く。

 カインに向けて『どのような服装がお好みでしょうか?』などと聞いてきたので、それには適当でいいと答えた。

 指示した買い物はすぐに済ませ、紙袋を抱えて商店街を出ていった。

 何も余計な行動はとらない。必要な物を買ったらすぐ帰るだけかと思ったが、帰りに寄り道をしていた。

 あの公園だった。

 イツバを連れて行った公園にある、昨日座ったあのベンチで、時間が過ぎるのを待ちながら、二日たって色がくすみ始めていた絆創膏を眺めていたのだ。

 表情もなく、自分の指の絆創膏を眺めるイツバの行動に初めて人間らしい動きを見た。

 カインは監視していたユーフォーをイツバのところに近づけていく。

 マイクに向けて声を入れた。

「何をしているんだ?」

 イツバはビクリを体を伸ばし、少し驚いたような様子を見せた。

 だがすぐにペコリと頭を下げ、説明を始めた。

「ここが好きなので」

「いつまでその絆創膏を貼っているんだ?」

 何日もつけたままだと不衛生極まりない。取り外させようと思い言った事だがおもわぬヘンジが帰ってきて。

「ご主人様が初めてわたしにくれたプレゼントなので」

「それがプレゼントか」

 感嘆の溜息を吐くカイン。イツバの言葉からカインへの感謝という人間らしい感情を感じた。

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