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ライアンラヴァー  作者: TUBOT
過去と向きあう
24/37

受け取り会場

 送られた先は人里離れた場所にある建物だった。

 そこは駐車場が一つしかなく森の中に作られており、道路からは外れていてホバークラフトを使って、川を通らないと来れない場所だ。

 人工衛星から見ると小さな民家にしか見えないその場所は、人工衛星が頭上を通っていない時間を見計らって物資の運搬が行われる。

 ホバークラフトは建物に横付けされて中の品物は駆け足で建物の中に入っていく。イツバもみんなに合わせて駆け足で建物に入っていった。

 ホバークラフトは、荷物が全て納品されたのを確認すると、すぐにその場を後にしていく。


 川を上る船。船の中には今日の買い手が乗り込んでいた。

 電動のエンジンで動く船に乗った人間の身なりは様々である。

 中流家庭の人間とわかるような普通の者や、スーツを着込んだ壮年の紳士もいたし、老婆もいた。

 彼らはこの場所で商品をうけとるために集められたのだ。

 建物を見ていぶかし気にする者が多い。見た目は普通の民家。あんなものがこの非合法の商品の受け取り場所とは思えなかったのだ。

 建物が地下から持ち上がっていく。民家にしか見えない建物の下から巨大なドームがせり上がってきたのだ。

「皆さまようこそおいでいただきました! 本日はごゆるりとなさってください!」

 ドームの前に立った司会の男が言う。この建物の本当の姿を見た船の乗客たちは納得した様子でドームの中に入っていった。

 乗客達をドームに収容し終わると、ドームは土の中に隠れていき、元のただの民家の姿に戻った。


「こちらの扱い方について説明します」

 この商品は非合法である。安く提供できるはいいが、取り扱いに注意をしてもらうために説明があると、買取客たちには事前に通告があった。

「養子縁組、親戚の子を預かるなど、お客様の状況に合わせた無理のない形で手続きを済ませます。それらの手続きはすべて当方で行います」

 この公文書の偽造には手数料としていくらか取る。

 それでもそれは大人の給料と比べれば一割程度の額だ。

「万一死亡の場合はこちらにご連絡ください。その場合も手数料をいただきますが、私どもが、万全のサポートをいたしましょう」

 商品の値段よりも、この時の手数料の方で金をふんだくるという手法だ。

 自分の子として、健やかに育てれば問題のない話なのである。

 司会の男は親切に話をして、それから商品の受け取りに向かった。

「それでは呼ばれた方から商品の引き渡しを行います」

 司会の男に呼ばれ、次々にイツバ達メイド用クローンを引き取りにくる客たち。

「死んだ孫の代わりになってくださいね」

 老婆がそう言い、優しくその子の手を引いた。

「丁度働き手がほしかった」

 そう言い、その子の髪を掴んで無理やりその子を連れていく男。

 買い取る人間によって、その子の運命も様々だった。

 イツバの番になると、そこにはインカムを取り付けた少年が進み出てきた。

「カインコック・シルヴァリー様。あなたはクリーヴァーという事で間違いはないでしょうか?」

「そうだ」

 非合法の物を扱うとなり、クリーヴァーが買いに来たとなれば警戒もされるというもの。司会の男はカインに向けてさらに聞いてきた。

「疑うわけではございませんが、なぜクローンをお求めに?」

「俺は両親を失っている。身の回りの世話ができる物が欲しかった。家事ができるように、記憶がインストールされているのだろう?」

「左様でございます」

 司会の男は後ろの男の脇腹をつついた。

『はい。このクリーヴァーが両親を失っているというのは本当です』

 後ろの男からそう言われた司会の男だが、疑うようなまなざしでカインの事を見ていた。

「こちらもこういう商売ですので、あなた様にご不便をかける事もあるかと思いますが」

「分かってる。買ったからには俺も犯罪者だからもちろんバレないようにする。この言葉だけでは不安だというなら監視だって付けて構わない」

「話が早いですね」

 司会の男にとっては、疑いは晴れてはいないが、話したいことは話したというところだ。

「それではご満足いただけますように願っております」

 司会の男はカインにイツバの手を引いて渡すと、他の客にも向けるようにして深々をお辞儀をした。


 各々、注文していた商品を手に入れ、船に乗り込んで帰路についた。

「あのクリーヴァには監視だ。本人がいいって言ったしな」

 司会をしていたこの施設の支配人は言う。

 カインコック・シルヴァリーは最近両親の死亡によってクリーヴァーの力を顕現させたという。

 クリーヴァーの力は幸福な人間に顕現するとの定説であり、両親が死ぬという最大の不幸の後に力が顕現したのはどう考えてもおかしい。

「あいつの親が最悪だったという事もありえるが」

 クリーヴァーになってからの働きぶりも尋常ではなく、半年で一流と呼ばれるほどになっている。

 優秀なクリーヴァー様が、家政婦を雇いもせずに非合法のクローンメイドを買うとなれば怪しい事この上ないというもの。

 もしかしたら潜入捜査かもしれないと疑ったが、今のところその様子は見受けられなかった。

「中を調べられたりはしていなかったか?」

「脳波は常に測定していましたが、痕跡は観測できませんでした」

 中を調べられた形跡もない。考えすぎかもしれないと支配人も思ったが、それで結論を出すのは早かった。


 イツバはカインの家に招待された。

 今の彼の家は安アパート。狭い部屋でカインは一人で生活をしていた。

「名前はあとで適当に決める」

 この言葉のみだった。イツバメルという名は、カインが人名の辞典を開いて適当に付けた名だ。

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