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ライアンラヴァー  作者: TUBOT
乗り越えられない過去
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ドンパ

「とにかく応援を呼んだ。あの組織とも関わりがあるとすると、いよいよ俺の手に負える話じゃなくなってくる」

 そう言うとカインは思う。

 おそらく敵の狙いはカインをステナから引き離すことだろう。ここまで本気で攻められたら逃げるので精いっぱいだ。

「あいつがあの組織に何の関係がある?」

 ステナの過去は謎に包まれている。あの組織と関係があってもおかしくはない。問題はステナを生け捕りにしようとしている事だ。

 生け捕りという事はステナが何かの情報を持っているという事。その情報を組織も知らない事。そしてあの組織は破壊活動をする狂った組織である事。

「あいつの持つ情報を渡したら何が起こるか?」

 想像がつかない。ステナをあの組織に渡してはならない。

 カインは、敵のユーフォーに囲まれた。球形に配置されたユーフォーから、一斉に弾が撃たれそうになる。

 カインは真上と真下のユーフォーを落とした。

 真上のユーフォーは消え去っており下から自分を追い打ちする弾もない。一気に垂直上昇をして弾を回避した。

「敵は一人二人じゃないな」

 ユーフォーの数が多すぎる。一気にカインの事を倒して勝負を決めるつもりだったようだ。

 索敵のユーフォーはまだ生きている。赤外線反応を探して飛び回っているが成果はない。

「ステナ……クソ。あいつがどうにかできるわけない!」

 ステナに頑張ってほしいと思ったが、彼女に何かをできるはずもないと、すぐに思い直す。

 とにかく、応援がやってこない限り、自分がステナを助けに行くことなど、到底できないのだ。


「裏切者。まさかあれを隠したのもあんたとは」

「あれはあなたを助けるために」

「あれは私をどん底に落とした」

 昔の事を思い出す。あれをこの子に渡したら彼女は死んでいた。だけど、それは彼女も組織も望まない事だったのだ。


「ステナ! 私決まったよ!」

「テリーヌ! またすごい事しだんだね!」

 あれから、まだ十年も経っていないはずだが、私はまだ何も知らない子供だった。

 孤児だった私は優しいシスターに愛されながら、仲間たちと一緒に勉学に励んでいた。

 大人になったら社会に出て働いて、孤児院にお金を入れて後輩たちを養うのだ。

 孤児院を出ていった大人たちが、よく遊びに来てお菓子をくれた。そのお菓子は世間一般で言うお菓子ではないと知ったのはまた後の話だったが。

 テリーヌは私と同室の子だった。その事を私に教えてくれたのは就寝前の時間だ。ベッドに入る前に寝間着に着替えた私達だが、彼女は興奮して眠れない様子で私にその事を教えてくれたのだ。

 勉強の成績も、体育の成績も一番で、私の憧れの子だったのだ。

 その子はよく大人たちに連れられて仕事の手伝いに行っていた。

 大人たちに続いて歩き、仕事に向かう彼女の姿は、孤児院の子たちの憧れの的だ。

 彼女にとっては大人たちについて仕事にいくのが当たり前、その彼女が喜んでいるのだから、さぞすごいことだろう。

 私はテリーヌの次の言葉を待った。

「私がドンパをするの! 相手は敵のボスよ!」

 ドンパというのは私たちの間でも最高の栄誉である。


 次の日、その話は孤児院中に広がった。

 ケーキ……といってもそれは人間の心臓の形をかたどって作ったパンだ。それにナイフを立ててテリーヌが切り分けていった。

「そうですね。本物もこのように切り分けてしまいましょう。すべては神の意思ですから」

「はい! シスター!」

 シスターが決めたことだ。このパンを切り分けるのは仕事を任された子だけだと。

 それを聞くと、みんなパンを切り分けるという栄誉を得たくて必死になって勉強と体育をがんばるのだ。

「ステナ。あなたには大動脈をあげる」

 一番血液の圧力がかかり、ここを傷つけると、血が噴水のように飛び出すというのだ。

 ここを刺して相手を殺すのが一番凄惨な殺し方であると、昔から教わっている。


 私は次の日、お使いを頼まれた。

 ドンパが決まった後、パーティは三日間連続で行われる。その三日間テリーヌはこの孤児院のヒーローになるのだ。

 親友の晴れ舞台の準備として、私は嬉々としてそのお使いを遂行した。

「ねえねぇお嬢ちゃん。ここにエイナって子はいなかった?」

 私に声をかけてくるおばあさんがいた。

 エイナとは一か月前にドンパが決まった子だった。

 三日間パーティを開かれ、それからみんなに英雄として祭り上げられて孤児院から出立をしたのだ。

「エイナは孤児院から出立したの」

 私たちは、聞かれたらそう答えるように言われている。

「あら。行先が決まったのね。よかったわ」

 老齢の婦人は安心した様子だった。

「どのあたりに行ったの?」

「レインニナよ」

 さらに聞いてくる婦人。私は彼女の行先を言う。そこでドンパをしたのだ。

「あそこって、恐ろしくて怖いテロがあった場所よね。大丈夫かしら?」

「テロ?」

 聞きなれない言葉だった。

「いろんな人が死んじゃうの。この世界で一番やってはいけない、一番地獄に行かなければならなくなる行動」

「地獄? どうして天国にいけないの?」

「人はね。死ぬべき時が決まっているの。それは神様が決めることで人が決めていいことじゃない。人が勝手に人間が死ぬときを決めてしまうのはいけない事なのよ」

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