カインの最悪の結末
「助けてよ」
女性は言い出した。
「あんたも自分の事しか考えてないの! 助けてよ!」
女性がそう言ってくる。カインはそれでも無表情のままで答えた。
「それって弁護士につなぎをとっていいという意味ですか?」
女性は生唾を飲んだ。それしか道はないのかもしれない。弁護士に頼むなんて、本当は怖くて仕方ない。だが、本当に自分にはそれ以外に頼れる先は用意されていないのだと心底からわかった。
「そうよ……」
彼女が言うとカインはインカムをいじった。
「屯所ですか? 事案です。弁護士の手配をお願いします。三十分で到着できますか。よろしくおねがいします」
短く連絡を済ませると通話を切る。
「弁護士が到着するまで、私と一緒にこの場で待機をお願いします」
最後の最後まで無表情のカインは言う。
不安な気持ちになりながらも、女性はその場に立ち尽くした。
「多分、気持ちは伝わると思うわ」
私は男の話を聞いて、奥さんのところに向かうのに付き合った。
「まだいるの?」
カインがまだ女性と一緒に居るのを見た。男の話通りだと、この件はクリーヴァーが介入するような話ではない。
「あんた。事情は知ってるの? あんたが介入する話じゃないわ」
「ついさっきまではな」
また何を言い出すのかという話である。
「これから弁護士が到着する」
弁護士と聞いて私も男の方も息を飲んだ。
「なんで、弁護士なんて?」
「女性の意思だ」
「あんたがそそのかしたんでしょう?」
「確かに事情を聞いて勧めはした」
お前は悪徳政治家か。
言い方を変えればいいってものじゃない。
「そそのかされるなよ! 弁護士なんて、お前何考えているんだよ!」
男は激昂する。彼女に気持ちを分かってもらってこれからもう一度やり直そうと思っていたところにこの仕打ちだ。無理もない。
「怒鳴るのはやめろ。どんな正論を言っても、言い方が悪ければ悪になる」
「お前は黙ってろ! 俺はこいつと話をしているんだ!」
「大声で怒鳴り散らして話なんかになるか。法律は行動で判断する。自分が正しいと証明したいのなら、まずは静かに話せ」
「お前じゃ話にならん!」
男はカインの押しのけて女性に向かっていった。
服を掴んで女性に向けて大声で自分の意思を訴えたのだ。
「俺がさっきまでどんな気持ちでいたのかわかってんのか! 自分の事ばかり考えて勝手な行動してんじゃねぇ!」
「勝手な行動はお前だ」
そう言い、カインはユーフォーから弾を撃った。
ゴム弾といえどその威力は強力で、男は吹っ飛ばされて倒れていった。
「服を掴んで至近距離で大声で怒声を浴びせる。十分暴力に認定される行為だぞ」
さっきから勝手な事を言うカイン。人の気持ちを踏みにじって正義面なんて、どこまでも性根の曲がったやつである。
「さっきから法律の力ばかり使いやがって! 法律知ってりゃ偉いのか! 卑怯だぞ!」
「お前は暴力を使ってんじゃねぇか!」
いままで理路整然としていたカインは最後の最後に大声を張り上げた。
あれから弁護士が到着すると、カインはさっさと持ち場を離れていった。
「こんな事していると恨みを買うわよ」
「どの口が言う?」
カインはついさっきまでの自分の行動を全く覚えていないようである。この屁理屈家には何を言っても意味はないようだ。
「お兄さまお仕事お疲れ様です」
そう言って後ろからイツバちゃんがとびかかってきた。
カインの背中に飛びつくと、ほおずりをし始めたのだ。
「こういう犯罪にも手を染めてるし」
「何が犯罪だ」
その言いようからすると、私の言いたいことは分かっているようである。イツバちゃんのような純粋な子に変な事を吹き込んでいるのはどう考えてもいただけない。
「将来の結婚でも誓い合っているの?」
「誓い合っているぞ」
「何言ってんの? あんた」
これは犯罪の匂いどころの話ではない。最悪の返事である。
「おかしくもないだろう。イツバは十歳で俺は十五だ。五歳の年の差なんて普通だ」
「バカかぁ!」
絵面を見ろという話だ。
「俺は自分の理想の女は小さいころから教育を施してだな」
「さらにバカよ! アホな男もいいところじゃない!」
それしか言いようがない。イツバちゃんを一体なんだと思っているのかという話である。
「イツバちゃん! あなたはそれでいいの! こいつのアホに付き合わされて!」
「なんですか? 私お兄様大好きですから結婚したいです」
「どこまで吹き込んでんの! イツバちゃんをあんたに預けるのは危険すぎるわ! 私が預かる」
「あぁ?」
そうチンピラみたいに唸った。
「お前の方があぶねぇだろうが。危険にさらされている身で人の事をとやかく言っているんじゃねぇ」
「こんな屁理屈男……」
私が危険にさらされているからってなんだというのか? この行動を正当化できるわけでもないだろうに。