無責任
「あの男は何も言わないそうだ」
カインはあれから私にそう言ってきた。
あの後屯所に向かってから、夜になりカインが戻ってきた。その間、私は水すら喉を通らずに動く気力も起きないまま、ここにうずくまっている。
「ますますお前の証言が重要になってくるわけだが」
カインは言う。私は何も知らないし思い出したくない。今となってはあそことは完全に縁を切っているのだ。話すことなどあるわけもない。
「カウンセラーからの助言だ。まずは精神の安定を計れと」
カインは言って一つのチケットを取り出した。それを私に見せる。
「これを見ろ。有名な保養地だ」
保養地で三泊がてできるチケットを出してきたのだ。ここに私がついていくという話らしい。
「ステナさん。行きましょうよ。きっと楽しいですよ」
イツバちゃんもそう言ってくる。
「私には縁のない場所ね」
ギリギリでやっている私に、そんなところに遊びに行く余裕なんてあるはずもなかった。
いきなりこんなところに行けると聞かされても、なんとも実感がわかない。
私は小さく頷いた。
「肯定と取るぞ。着替えの用意だ。俺とイツバで買い物に行くから、いろんなもんのサイズをイツバに教えとけ」
カインはそれだけ話すと自分の部屋に入っていった。この事を連絡だけをして、もう自分は休むつもりらしい。
「ベッドはイツバのものを使うといい。イツバ。二人で寝れるよな」
そう言い残していく。この男は最後の最後までイツバちゃんに何もかも押し付けていくつもりのようだ。
「無責任なのはあんたじゃない」
私は昔の事を思い出してそう口から声が漏れる。
無責任と言われ、能無しと言われ、裏切者と言われ、すべてを否定された私はあの場所から自分から見切りをつけたようなものだった。
でも、本当に私が無責任だったのだろうか?
私が能無しだったのだろうか?
裏切ったのはあいつらではないだろうか?
いつも思う。だが終わった事を思い出しても意味がない。あの事を無かった事できるわけでもないし、私の心の傷は消えたりしないのだから。