魔族が来る日常、勇者が居る日常
勇者騒動から、数日経ったある日。
今日はいい天気だ。
雲ひとつ無い青空を眺め呟く。
「なんでこんな良いに日、お前らが来るんだよ」
愚痴の相手は魔族の大将。
いつもの様に、横暴な振る舞いで街の人達を困らせていた。
「わーはっはっはっはっ、我は魔族の大将ズシ!いままでの魔族は下の下の下、そんな奴らを倒して暢気に過ごしている人間どもに、本当の恐怖を味あわせてやる」
いつもの魔族らしく、まるで三下の台詞の様なことを叫んでいる。
「残念だが、魔族が1人だけだと思うなよ」
そう言って、新たな魔族の大将が現れた。
今までにない展開だ。
「我が名はハチマン、誇り高き魔族だ。この街には、我等魔族に敵対する愚か者がいるらしいな」
こっちの魔族は、高慢な態度で鼻にかけた喋り方だ。
周りを見ると、街の人達がスタンバっている。
「魔族様の力、とくと見るがいい」
「我らに逆らったことを後悔するがいい」
そう叫ぶと同時に、どこから現れたのかシターデ達が、家を破壊し八百屋の果物を食べはじめ、街のゴミ箱を倒してゴミを散らかした。はては、子供の飴を奪い泣かしてしまう始末。
「やめてくれっ、俺の家を壊すのは!」
「店の売り物を食べないでぇ!」
「誰が掃除すると思ってんだっ」
「うわーん、僕のアメェ」
見事なまでに、街の住民がパニックになる。慣れたものだ。
だが、茶番は終わりだ。
とっとと、ぶっ倒して宿の手伝いに戻ろう。買い物の帰りが遅くなると、レンに怒られるからな。
しかし、とんでもないことに気がつく。
「ニースがいない!?」
そう、ニースは今頃洗濯物を干しているはずだ。
このままでは、変身ができない。
くそっ、これも魔族の罠だというのか!
「汚いぞ、魔族共めっ!」
「さっきから、何かブツブツ言ってたと思えば」
「突然、叫んだと思ったら。なんて言い草だ」
怒りをぶつけたところで、問題は解決できない。
そうだっ!
女神アナリヤ様に頼めばいいんだ!
《てめー、前に言ったこと覚えてねぇのかっ!本当にぶん殴るぞ!》
《あ、女神アナリヤ様っ》
《それ止めないと、話聞かないからな》
《ちっ。それで、何か解決方法はないかアナリヤ》
《今、舌打ちしやがったな。解決法はない、1人で頑張りな》
そういって次元通信が切れた。
「なっ、使えねぇ女神様だな。それでも、管理官主任かっ!」
さて、どうしたらいい?
そんなことを考えていたら、どこからともなく声が聞こえてきた。
「この、薄汚い魔族共めっ!それ以上、街の人達に迷惑をかけることは許さないのです」
街の一番大きな教会の、十字架の上に誰かが立っている。
なんて罰当たりなヤツだ。見上げていた、神父様が怒ってる。
「「貴様っ、何者だっ!」」
2人の魔族がハモって叫んだ。
「貴様らなどに名乗りたくはないが、特別に教えてやろう!その耳の穴かっぽじってよく聞きなさい!」
おろ?なんか聞いたことある声だ。
「天が呼ぶ、血が呼ぶ、火咎呼ぶ。魔族を絶殺せと、神がくれた免罪符!」
所々、読みがおかしい気がする。免罪符ってのは、マーダーライセンスかよ。
「女神の祝福を受けし正義の使者!」
あっ、この前の面倒くさい勇者か。
「勇者プニエール、神罰与えちゃいます!」
そう名乗りを上げて、教会の十字架の上から飛び降りる。
勢い余って、十字架が捥げた。あ、神父様が膝から崩れ落ちた。
勇者が綺麗に三回転して着地する。後ろで、十字架も爆砕した。
「で、なんでこっちに向かって降りてくるんだよ。魔族共は向こうだぞ」
「それは、あなたも魔族だから?」
「また、ぶん殴るぞ」
「くっ、か弱い少女を暴力で言うことを聞かそうとするその態度、やはり魔族ですね」
とりあえず、1発ゲンコツをくれて、先ほどの魔族共のところに連れて行く。
「おい、そこの魔族共!こいつが、お前らの相手してくれるそうだから戦ってやってくれ」
「おのれ、きさまは勇者の扱いが酷すぎるぞ。これだから、魔族ってヤツは」
ブツクサと文句を言いながら、魔族共の前に行く勇者プニエール。
というか、面倒くさいから、もうプニエールでいいか。
「さっきから、2人で漫才しているから芸人かと思ったぞ」
「勇者と言ったな。丁度いい、ここできさまを倒せば魔王様に良い手土産ができる」
おっ、ハチマンとかいう魔族が魔王って言ったな。
魔王について聞きたいことがあるが、戦いの邪魔になるよなぁ。
既に戦いが始まっているので、巻き込まれたくない。
今回は諦めよう。
そうこうしているうちに、シターデを全て倒したプニエールが変身をするようだ。
プニエールの、右腕にある腕輪が光る。
「神姫聖装」
神域から力が送られてくる。
体の中に神力が溢れ、森羅万象の全てを書き換える。
白銀の装飾が施された純白のドレスを纏う。
光の粒子が零れ落ちる。
余剰神力で光の奔流が周りを照らす。
「魔族は、絶殺です」
小さな女の子の勇者は、また物騒なことを言った。
「勇者の力、とくと味あわせてやるのです。来たれ我が神剣!聖賢ロクデナーシュ、聖鍵トゥヘンボーグ」
勇者プニエールが、そう叫ぶと光の魔方陣が現れ、その中央から二振りの剣が現れた。
一方は、刃の部分が木の枝で作られたような剣、もう一方は刃の部分に凹凸があり鍵のようになっている剣だ。
前回同様、木の枝のような剣は数枚の葉っぱが生えている。
「女神パイーナよ!穢らわしき魔族に聖なる抱擁を!」
プニエールが、そう叫ぶと天に魔法陣が現れ、幾重もの光の帯が生み出され、それは魔族を拘束した。
いつの間に、あんな技を覚えたんだ?
「な、なんだこれは、体が動かん」
「これが勇者の力なのか」
魔族共が体の動かないことを、確認するように叫んでいる。
プニエールがトドメの構えをとった。
「くらうのです、絶殺パニッシュメント!」
地面に、木の枝みたいな剣を刺すと、魔族共の周りから何本もの木が生えて魔族共を飲み込み、1本の樹となった。
そこに、光を纏いながら飛び込み、鍵の様な剣をぶっ刺して回した。
すると、樹の内側から光が爆発し辺りを眩しく照らす。
「「魔王様、どうかお許しオォォォォォッ」」
魔族共が、最後の台詞を叫び消えていった。
「絶殺完了」
プニエールが、勝利宣言すると、天の魔法陣から光が零れ、壊れた家や食べられた果物、散らかったゴミ、子供の飴が元どおりになっていく。
やっぱり、俺のと同じ効果があるのか。
そして、必殺技の名前はダサかった。
「次は、きさまです」
戦いを見ている途中、屋台で買った焼き鳥を食べていると、プニエールがこっちに歩きながら言ってきた。
「やだよ、早く宿に戻らないとレンに怒られるからな。戦いが終わるまで待っていたことに感謝しろよ。ほら、ご褒美の焼き鳥だ」
そう言って、プニエールに焼き鳥のオススメパックを渡す。
焼き鳥を受け取るために、プニエールは両手に持った剣を消した。
「ぐぬぬっ、今回は見逃してやる」
「そうかよ、じゃあ気を付けて帰れよ」
俺は、買い物の続きをするために、そう言い残し商店街に走った。
思ったより遅くなったが、ようやく帰宅できた。
俺だって、1人で買い物くらいできるんだぜ。
「ただいまっ!いやぁ、途中で魔族が出てきやがって遅くなったわ」
「おかえり、お兄ちゃん」
「おかえりなのじゃ、ナナシ」
「おかえり、ナナシ兄」
そこには、楽しそうにしているプニエールがいた。
どういうことだ、女神アナリヤ様。
《次言ったら、お前に次元砲撃ち込むからな》
《説明お願いします、管理官主任殿》
《かくかくしかじかで、私の方で面倒みることになった》
《なんで、兄と呼ばれた》
《兄弟が欲しかったそうだ》
《他に言うことは?》
《もらった地酒は美味かっ、ブツッ。
なんだかよく分からんが、プニエールが妹になったらしい。
「プニエールちゃんは、ほんと可愛いね」
「レン姉に、そう言われると恥ずかしいのです」
「プニエール、妾もこともお姉様と呼んでくれなのじゃ」
「おっぱい魔族め、きさまなんか乳女で十分です」
なるほど、レンの方が年上なんだ。
その日、勇者プニエールは、妹勇者プニエールにランクアップした。
勇者パーティー結成!
そろそろ幹部でてくるかも。