予感
誰もが気怠さを感じる、午後のひととき。
その空気を引き裂くように、魔族が叫ぶ。
「我は、魔族キクナ!お前ら下等な人間どもを統べるものだ!見せしめにこの街をぶっ壊してやる!」
そう言って、魔物シターデに命令する。
思うままに暴れるシターデは、建物を破壊したり、街の人に危害を加え始めた。
「また、俺の家がっ」
「いやーっ、やめてぇ、お店の物を食べないでぇ」
「にげろっ、にげろっ、にげろーっ!」
「見て、騎士団が来てくれたわっ!」
すぐさま駆けつけた騎士団だが、相手が魔物だけあって、騎士達も手こずっている。
「フハハハハッ、なんだ人間とはその程度なのか。まるで相手にならないではないか!」
「「シターッ、シターッ!」」
魔族キクナは、バカにしたような言い方で、魔物シターデと一緒に笑っている。
「そこまでだ!このクソ魔族がっ!」
俺は怒鳴りつけるように言い放った。
「なんだお前は?人間風情が舐めた口きくじゃねぇか」
「魔族風情に言われたくはないな」
「むかつく野郎だ、なら見せしめにお前からぶっ殺してやろう」
「出来るものならやってみな」
あいかわらず、魔族の言うことは似たようなことばかりだ。
「やれ、シターデ!あの人間を、土下座するまで殴りってやれ!」
「今までの、トレーニングの成果を見せてやる!」
迫り来る魔物シターデに、背を向けて走り出す!
「バーカ、バーカ、お前らなんか相手にできるか!悔しかったら捕まえてみな!」
「クソガッ!舐めやがって捕まえてぶん殴ってやる」
よし、釣られたな!
このまま、人のいないところまで誘導できれば、街の被害が少なくなる。
付かず離れず魔族と距離を取り、街外れの荒れ地に到着した。
「どうやら、逃げ場がなくなったようだな、ここが貴様の墓場となるわけだ」
「その言葉、そっくりそのまま返すぜ!」
「ほざけ人間!血祭りにしてやる!」
「「シターっ!」」
まるで、それがルーティンであるが如くシターデが襲ってきた。
「いくぞ、ニース!」
《承知じゃ!》
すでに、融合しているニースに合図を送る。
天に掲げたペタルーツの腕輪が輝き出す!
「人魔剣神融合!」
輝く光が全身を包み込む。
魔剣から、膨大な魔力が溢れ出る!
腕輪から組織再構成の情報が流れ、全身に巡る魔力が新たな神経を作り出し、身体中に張り巡らされる。
魔剣は、体を覆い尽くし脈打ちながら鎧のような姿に変えていく。
筋肉が肥大化し、骨が唸りを上げる。
真っ黒な体に、黄金の装飾が縁取られ、真紅の紋様が現れる。
弾ける光の中から現れたのは、神が生みし魔を司る外法の戦士。
魔物シターデが、弾けた光を浴びて消滅した。
魔族キクナは、それを見ても臆せず問いかける。
「貴様何者だ」
その姿に、分かっていても聞いてしまう。
『人と魔剣と神とを超えた、正義の戦士!」
大地が花が、空が太陽が、人が動物が、祝福する!
その高らかな声に、全てが歓喜する!
『マケンアイダーレオニス!』
ピカァァァァァァァァァァッ
余剰魔力が、背後で太陽のように光を放った。
「お前が、マケンアイダーレオニスか。魔族に楯突く愚かな奴よ」
「お前ら魔族は、どうやら同じことしか言えないようだな」
「ふん、たまたま魔族を倒せたようだが、俺はそうはいかんぞ」
「ならば、この力その身をもって知れ!」
魔族キクナに殴りかかる!
「その程度か」
躱されて、カウンターを放つ魔族キクナ。
だが、カウンターにカウンターを合わせる。
「ガハッ、なかなかやるではないか」
「俺も、攻撃を躱されたのは初めてだ」
魔族キクナは、密着状態から拳を繰り出す。
躱すことが出来ず、数発はガードで防いだ。
《初めて反撃受けたのう》
《あぁ、やはり魔族には強い奴もいるみたいだ》
《まぁ、あんなバカな奴ばかりだと、妾も悲しくなってくるわ》
そうな念話をしながら、奴の隙を探す。
繰り出す拳も単調で、フェイントもなくだんだん慣れてきた。
ガードをする必要もなくなり、少しずつカウンターを返す。
「グッ、押していたはずなのに、なぜ我がダメージを受けているのだ?」
「お前の攻撃は単調なんだよ」
そのうちに、俺が一方的に殴る蹴るの状態になる。
「おらおら、さっきの威勢はどうした?魔族様は強いんだろ」
急所を、打ち抜き始めてから魔族キクナの反撃が無くなっていた。
そろそろ、限界なのだろう。
「悪いが、トドメだ」
そう言って、全力で殴り魔族キクナをぶっ飛ばす。
「我が声に答えよ!魔剣レオニス!」
穏やかな声で、その名を呼んだ。
魔法陣が輝き、揺蕩う水面から出流ように魔剣レオニスが現れる。
「その力、望まぬとも振るうは正義の心!」
ニースの声が凛と響く。
白銀に輝く神秘の剣を手に取り、ペタルーツの腕輪を天に掲げた!
「ウェイディーンリアクター、エンゲージ!」
腕輪から伸びる光が、天に巨大な魔法陣を作り出す。
何層にも重なる魔法陣から光の柱が生まれ、魔族キクナを包み込み磔にする。
「なんだ、この暖かい光は?」
魔族キクナが、虚ろな表情で話す。
弔いの言葉はいらない。
魔剣レオニスを構え、突撃する!
深々と刺さった魔剣レオニスから、光の奔流が魔族キクナの体を蹂躙する!
「ま、魔王様、ふたたび魔族を導きたまえっ!」
シャラァァァァァァァァァン
魔族、浄化完了!
天の魔法陣から光の粒子が降り注ぎ、破壊された街並みを元に戻していく。
魔物に食べられた物もすっかり元どおり。
俺も元の姿になり、騎士団の後始末を見ていた。
「ナナシお兄ちゃん、お疲れ様」
「レン、ありがとう」
いつものように、レンが駆け寄ってきて労いの言葉をかけてくれた。
「妾も、頑張ったんじゃぞ」
「ニースさんも、お兄ちゃんを守ってくれてありがとう」
乳を揺らしながら、レンに擦寄るニース。
いつもながら、お姉ちゃんと呼ばれず嘆いている。
「さぁ、早く帰って酒場の準備を手伝おう」
そう言って、3人で手を繋いで帰るだった。
魔族の城の奥、魔王の間。
「それで、魔剣レオニスの所在は分かったのかい?」
「いまだ捜索中です」
魔王の問いに答える女性の声は震えている。
「そうか、そんなに恐縮しなくていいよ」
「あ、ありがとうございます」
「とりあえず、もう一つの方を進めるから、適度に捜索させておいてくれ」
「はっ、畏まりました」
そう言って、音もなく消える女性。
「奴らの動きも気になるが、あいつも動きがあるようだな」
魔王は、そう言い残し部屋を後にした。
好敵手を増やすか味方を増やすか
迷いどころだよね




