深夜、交通違反者対応。
「さっきから言ってるっしょ!なんで俺が捕まらなきゃいけないんスか!?」
深夜0時。黒い革のジャケットを着た、10代であろう金髪の少年は言った。
「ちょっとその辺の交差点で、昼間、見ててくださいよ。どれだけの人達が法律守ってないかが分かりますって。俺よりそっちを取り締まる方が大事だと思いますよ!そういうことしないで、それっておかしいでしょ!っていうか、聞いてますか!?聞いてないでしょ、聞く気がないの、おかしいでしょ!それで仕事してるって言えないでしょ!?」
対応している青色の制服の男性は、肩にかけた無線機で話しながら書類を書いている。20代であろうか、その彼は一瞬少年を睨んで、また書類に目を落として呟いた。
「・・・テメェのしたことを棚に上げて、偉そうなこと言ってるなぁ・・・。・・・最近こういうヤツが多くて、困ってるんだろうねぇ・・・。・・・オレらとしては、仕事があって、お客様・様々ですが・・・。」
「何、ブツブツ言ってるんスか!?俺は認めないから!おかしいっしょ、俺だけ捕まるなんて!それだったら、交差点の人達も捕まえろって!!」
少年は、彼に怒鳴った。そして、食って掛かろうと、彼に手を出そうとした瞬間、少年の何かが弾かれた。少年は手を出していない。しかし、少年の何かは、確かに弾かれたのだった。少年の脳裏に恐怖の感覚が浸透した。何に対しての恐怖かは理解できない。理解のできない恐怖が、しかし確かな実感のある恐怖が少年にに襲い掛かり、少年はその場に膝をついた。震えている。少年を見下ろして、青い制服の彼は言った。夜の闇を背後に背負っている彼の表情は読み取れない。
「君の論理はよく分かったよ。俺もそう思う。そう思ったことは何回もあるよ。君と同じ意見だ。だけど、君がしたことは、君がきちんと認めよう。できることと、していいことは違う。君は、してはいけないことになっていることをしてしまった。だから、私が対応している。・・・あと、君は何か私にしようとしなかったか?そのことは、君自身が今、私に伝えてくれているのだけれど・・・。」
10分後、彼は夜の闇に帰っていった。彼が行く後ろ姿を少年は茫然と見つめていた。しかし、もう少年の心の中は、幼き日、いいことをした後に感じた、充実感でいっぱいだった。(こんな気持ちは、もう何年ぶりだろうか)そして、少年は呟いた。
「・・・こんな大人がいるなら・・・俺も、こんな大人になりたい・・・。」