第1戦:白空 和(しろぞら なごみ)
僕、こと“白空 和”は、現在高校生だ。市内の公立高校に、皆勤賞でも狙っているのかって位、毎日真面目に通っている。
“善い事”は今も続けているが“断る”という事もするようにしているので、“お人好し”のイメージは付いていない。
さて、僕は今、高校にいる。これから下校しようとしているのだ。放課後、僕にはしなければならない事がある。
まあ、それは後で説明するとしよう。
「あ、和ーっ!」
帰路を歩いていると、声を掛けてくる男がいた。
見知った顔だ。
「やあ、誠。」
彼の名は“黒地 誠”。近くの高校に通う、僕の親友だ。中学まではずっと一緒だった。
誠には問題がある。
「さっき、向こうで気弱な子がカツアゲされていてさー」
嫌な予感しかしないが、確認の為に聞こう。
「ボコったのか?」
「勿論だ」
おいおい(笑)
誠の事だから、きっと容赦しなかったに違いない。
「あーいうの、許せないんだ」
誠は正義感が強い。
理由は、昔の事件と関係しているのだろう。
誠は昔、両親を強盗に殺された。
誠は、部屋の押し入れに隠れていて助かったらしい。
それ以来、誠は“悪”を嫌っていた。
「カツアゲしてたからボコる。本当、君らしい行動だね」
誠が不良をボコるのは、もう日常茶飯事だ。
「馬鹿にされてる気がするんだけど」
誠は不機嫌そうに、そう言った。
「“悪が許せない”って言える誠は好きだよ。暴力はダメだけど。」
これは本当に思っていることだ。
弱い人を守る。これはなかなか出来る事ではない。
「別に、弱い人を守ってるわけじゃねーよ。不良とかをボコるだけ。」
誠は真面目な顔をして、さらに続けた。
「てか、弱い人を守ってんのは、和の方だろ?」
たいした事はしていないが。
「中学の時、いじめられてる奴を助けたじゃん」
確かに、中学でのいじめを止めようとは、した。
しかしあれは、最終的に誠が不良達を脅したから、いじめが終わったんだ。
「お前が動かなきゃ俺は、あいつがいじめられてる事に気づかなかった。だから、あいつを助けたのは、和だよ。」
誠に言われると、凄く照れる。
「ところでさ、」
誠は、急にふざけたテンションで話を変えてきた。
「さっき“悪が嫌いな誠は好き”って言ったじゃん?あれ、告白と捉えて良いの?」
誠のふざけた質問には、もう馴れた。
「違うよ。同性には興味無いから。」
僕は笑って否定する。すると、誠が拗ねる。
こんなやり取りが出来るのも、世界が平和な証拠だ。
………前言撤回する。
世界は、全てが平和な訳ではない。
僕は誠と途中で別れると、急いで物陰を探した。人が見ていないのを確認して、路地裏に入る。人が見ていたら、驚くだろう。
次の瞬間。僕は、“人”ではなくなっていた。
━━とある住宅。この家には、30代の男と小学生の少女がいる。この二人、親子ではない。
男が、少女を誘拐してきたのである。目的は、身代金。
少女は手足を縛られ、目隠しされて、口はガムテープで塞がれている。
「んぐーーっ!」
「うるせぇ!殺されたくなきゃ、静かにしろ!犯すぞ!」
助けを求める少女に対し、男は怒鳴り散らした。かなり気がたっている様だ。
「何が、すぐには用意できない、だ!!ふざけんな!」
男は、“身代金受け渡し延期の要求”によって、1時間も少女に怒りをぶつけ続けている。少女の精神は限界に近かった。その時だ。
『罪人、これから警察が来る。』
突如、男の耳に“謎の声”が聞こえた。
「だ、誰だ!!」
男は取り乱している。
“誰かが、この犯行の事を知っている?”
そして、再び男は声を聞く。
『だから……それまで眠れ』
警察は、通報を受けて男の家に突入した。そんな中、男は眠っていた。通報したのは、誘拐された少女だった。少女は、
“突然、誰かが手のひもをほどいてくれて、『すぐに通報しろ』と言われた。しかし目隠しを外すと、寝ている男しか部屋にはいなかった”と語っている。
誰もが、不思議に思う事件であった…
僕は“白空 和”。
しかし、今の僕は“善の代理人”でもある。
今、僕の姿は、“人”ではない。“光”を連想させる程に肌は白く(髪も白い)、白装束を身に纏っている。
その姿は、天使を思わせた。
代理人は神の能力を持つ。すなわち、“人を超えた存在”。普段は“人”だ。しかし、自分の意思により“代理人”に変身する事が出来る。僕達は、“能力”を使って戦っている。
全ては、“正義”の為に。
1つ、たずねたい事がある。「“正義”の対義語は、一体何か。」さて、何だと思う?
おそらく、多くの人は「“正義”の対義語は“悪”」と答えるだろう。
それは不正解である。
“悪”の対義語は“善”、“善”の対義語は“悪”。“悪”は“正義”の対義語ではない。
それでは“正義”の対義語は何か。
「“正義”の対義語は“正義”」だと僕は考える。
“正義”とは、“誰もが持ち、けれども皆形の違うもの”。つまり信念の様なものだと考えているのだ。
人は皆、違った形の“正義”を持っている。
僕達“代理人”は、その“正義”にしたがい、行動している。
僕も正義を持っている。
僕の正義、それは、“人の笑顔を守る”こと。
僕は、弱い人を守る為に戦っている。
さっき“誘拐事件”を解決したのは僕だ。男を“能力”で眠らせた。勿論、眠らせる能力ではない。
僕の“能力”は「支配者の声」
どんなものでも“支配”する事が出来るのだ。
先ほどは、男の脳を支配して、眠りにつかせた。少女にも同様に、通報するようにと“命令”して“支配”した。
ここで、勘違いしては貰いたくない。僕達“善の代理人”の敵は、何も誘拐犯や強盗、殺人鬼だけではない。むしろ、一番の敵は別にいる。
もうお分かりだろう。“善の代理人”の敵。そう、それは“悪の代理人”だ。“悪神”アーリマンとその配下の“代理人”達。彼らは、自分の欲望に正義を持つ者が多い。
僕達は、彼らと戦って勝たなければならない。それが、“代理人”になった時からの宿命でもあるのだ。
僕達は戦う。悪と。そしてその戦いは、やがて世界を左右する程の、大きな戦争へと変化してゆく。
善と悪が、互いの正義を懸けて戦う戦争。
それは後に、「悪善戦争」と呼ばれることになる。




