下
彼女は無愛想だとよく言われる。
結婚するとき、家族にも反対されたほどだ。
でも、僕は知っている。
彼女は笑うし、寂しがりで、恥ずかしがり屋だから気づかれないようにしているけど、よく気遣いのできる人だ。
僕は知っている。
恥ずかしがって見せないけれど、料理を褒めるたびに彼女の笑顔が窓ガラスに映るのを。
照れて見せないけれど、知っている。
僕は知っている。
僕が家を出るとき、寂しい顔を見せないように顔を洗うことを。
朝起きたらすぐ洗うのに、彼女はもう一度洗う。
僕は知っている。
毎日、僕が飽きないように卵焼きの味を変えてくれていることも知っている。
毎日弁当を作ることでさえ大変なのに。
僕は知っている。
僕が連絡を忘れたとき、何度も電話をしようとしてやめたことを。
そのあと、電話が繋がったことに安心して切ってしまったんだね。
彼女のことだ、僕に気を使ってもう一度かけられなかったんだろう。
僕は知っている。
休みの日にどこにも行かないのは、仕事で疲れた僕に気を使ったんだよね。
彼女は何を見ても笑わなかったけど、ずっと僕の側で過ごしていたね。
彼女も疲れていたのに気を使わせてしまって、ごめん。
僕は知っている。
僕が家を飛び出したとき、彼女が僕を探して回っていたことを。
雨が降って、家に引き返すまで探してくれていた。
傘が濡れていたから知っているよ。
冷えて帰って来る僕のためにお風呂まで沸かしていた。
彼女はまた僕を探しに行くつもりだったのかもしれない。
ポタポタと水滴が顔に落ちる。
そろそろかな?
目を開ける。そんな顔をしないで欲しい。
僕は彼女をまた不幸にする。
でも、僕は最後まで彼女と居れて幸せだ。
ずるいよね。
今回も「ごめんね」が言えない。
ああ、もう行くよ。
彼女が僕の手を強く握る。
僕は知っている。
彼女は僕を愛している。
彼女は知ってくれているかな?
……僕も君を――。




