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前編

出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第二十二弾!

今回のお題は「ゲーム」「犯罪」「紅茶」


1/19 お題出される

1/22 プロップが完成する

1/24 他の作業に追われながらもふと思う「最近の一週間チャレンジは何か足りない」

1/25 ちょっと力入れすぎたと後悔しながら書く。

1/26 後悔しながら投稿


もう他の作業を圧迫する勢いでやってしまった。二度とこのボリュームでは書かない。絶対に!

 あの日を境に、世界は豹変した。


「やあやあ、愚鈍で馬鹿でドバカな人類よ! 老若男女等しく退屈と嘆く非日常を求めるお前たちに、対岸の火事だけでは物足りぬと泣く子供たちよ! 俺様が、日常を変えてやろう……崇めろ人類! 俺様が『デウス』だ!」


 今から5年前、世界中のあらゆる周波数、あらゆる情報媒体を乗っ取って、その放送は行われた。その放送は、いともたやすく、まるで華を手折る様に日常は消えうせさせた。

 放送の中行われた非人道的な映像は様々。小説の中にしかないような怪物が人を襲う映像が流れ、それが元人間であるという事を『デウス』と名乗る男は言った。更に放送の中で、若く美しい恋人を見せ、その場で一人を怪物に変えて見せた。二人を同じ檻に入れて……。その放送に呼応するかのように世界中に溢れた異形の怪物たちは、文明を飲み込み、人々を蹂躙し、命を侍らせて死を振りまいた。

 逃げ惑う人類の頭上の空を黒い行燈とした雲が多いつくし、そこから降り注ぐ紅の雪は人間が人間でいることすら許さなかった。紅の雪を浴びた者はみな一様に怪物になった。通称『紅雪症べきゆきしょう』と言われるこの病気に人類のほとんどは感染。唐突に、いつ浴びたのか分からない紅の雪で発症し、理性を失い怪物になり人類を襲う。政治放送を行っている政治家、生放送中のキャスター、著名人だけでなく街角に居るなんてことはないホームレスの老人や子供まで……『紅雪症』患者はそこら中に居た。これを治療しようとする科学者すら『紅雪症』にかかって研究所を破壊。人類はことごとく怪物に変えられていった。

 だが、また電波がジャックされ、人々にある情報が与えられた。


「なんだなんだ? 異形の怪物に逃げ惑うだけか? 銃を取れ! 剣を取れ! 平和理念で暴力を振るえば良かったろうが! 仕方ない子供たちだな。ほぉら……パパからプレゼントだ!」


 『デウス』は映像で『紅雪症』で怪物になった者を治療して見せた。最初の映像で恋人を食い殺した怪物は、自己の行いを聞かされ映像の中で暴れ、僕らの目の前で撃ち殺された。

 『デウス』はこの紅雪症の特効薬、『エリクサー』を無料で配布すると約束。だが、それは同時に世界中が奴の傘下に入ることを意味した。

 世界中の政府がこれに抵抗。だが抵抗した者たちはことごとく怪物へと変わり、人類は確信する。あの紅の雪が降った時、人類はすでに征服されたのだと……

 しかしこれで終わらなかった。紅の雪が降ってちょうど1年たった頃……


「ドバカどもめ! へっへっへぇ……俺は言ったろうが! 『非日常を与える』ってな! 薬はもう作らねぇ。もう無い! 殺し合え! 異形の怪物と! これぞ待ち望まれた非日常、最高のENTERTAINMEEEEEEEEEEEEEENT!!」


 男の高笑いと共に、人類は混沌の時代へと落とされた。

 追い打ちのごとく、地殻変動、異常気象、更には地軸のズレ……地球はその表情を大きく変えてしまった。わずか5年の間に、地球は人類が生きるには難しい星へと変わってしまった。







 そして今、僕は紅の雪の下で、誰もいなくなった街を一望できるタワーの展望台から人を探している。探すのは『敵』はもちろん、『保護対象』も探している。こういう時は、身寄りのない『紅雪症』患者が追い出されて出てきたりするものだ。『紅雪症』にすでにかかっている者に紅の雪は意味をなさない。それ故に“追い出す側”も心置きなく追い出せる、ということらしい……現実問題、こんななにも居ないところに放り出されたら、季節に寄らず、少なからず死の足音を聞きながら路頭に迷うだろう。そして最後は追いつかれて……。そうならないために早めに見つける事、見張りも兼ねて“目が良い”僕が適任という事らしい。

 街は静かだ。どす黒い雲の下、どこまでも静寂が続いている。紅の雪の降る音だけが聞こえるほど……僕の吐く息だけが白く、溶けた雪は鮮血のようにあたりを染めている。こういう時は、何も考えずに空を眺めて居たくなる……そんな時だった。


「!」


 はるか遠方……約3kmのところに人影が見える。数は2人。中年の男性と若い少女が一人、女の子は腕に何か抱えている。そしてそれを追うように……奴らが来る。『紅雪症』患者の成れの果て、発症し理性と人の姿を失った異形の怪物、通称『スカーレッド』だ。

 僕はまず無線で連絡を入れる。


「保護対象を発見。男女二人……親子だと思う。何か抱えてる……まだ3km先、B-2エリアだ。援護するから保護と誘導をお願いします」


 そう言って、無線の返答も待たずにカービン銃を『スカーレッド』たちに向ける。


「待て、その連中、本当に“人間なのか確認”を……」


 無線相手の発言を途中に狙撃を始める。乾いた銃声が空気を振動させ、秒単位で遅れて『スカーレッド』が名前通りの赤い花を咲かせる。


「話を聞け! 弾も無限じゃないんだぞ!」

「大丈夫。外さない」


 続いて二射目。薬莢を引き抜き、弾丸を込める。この時間が一番もどかしい。スコープ覗いて二人を確認する。二人はこっちを見るが……自分たちが撃たれることを考えたのか、まっすぐこっちに来ず脇にそれる。


「違う! そういうことじゃない!」

「兼澤さん、誘導まだですか? 二人が危ない」


 無線の相手の兼澤さんは何事にも慎重な人だ。慎重なのは分かるが、こういう時は急がないとまずい。

 二人を追おうとした『スカーレット』の移動先を予測してトリガーを引く。硝煙火薬の破裂音からワンテンポ挟んで目的の敵が錐もみ回転して倒れる。浅い、少しずれた。ここからじゃ限界かもしれない。

 僕は無線を拾い上げ無線に話しかけながら狙撃ポイントを移動する。タワーの展望台から飛び降り、一番近いビルの屋上へ飛び移る。


「兼澤さん、狙撃ポイントをC-2へ移動します。早く誘導を!」

「金城くん、ボクだ。話しは聞いた。助けてあげなさい」

「六法さんですか?」


 無線はほんの一瞬の間を持ってから、穏やかな声の男に変わる。どうやら、兼澤さんは六法さんに追い払われたらしい。話しが分かる人に変わってもらってこっちとしてはありがたい。


「兼澤くんには援護に行ってもらった。すぐ誘導を開始しよう。それから……」

「解ってます。三人無傷で帰ります」


 目標のB-2狙撃場、廃ビルの屋上に僕は滑り込んだ。屋上は雪が積もり、赤く色づいている。雪を袖で払ってカービンを置き、肉眼で2km先の二人を探し、何かが動いた場所めがけスコープを覗き込む。

 無事だろうか? 見れば、男女は遠方の赤レンガ造りの廃ビルに入っていく。男の方が拳銃で応戦するが牽制程度にしかならない。間一髪のところでビルに入り込み、扉で侵入を阻む。見たところ無事……いや、あれは……。


「ああ、くそったれ! 六法さん、保護対象の負傷を確認! 救護の用意をお願いします!」


 わずかに地面に落ちた血痕を僕の目は見つけた。『スカ―レッド』の血にしては量が多すぎる。つまり、そう言う事だ。


「分かった。一番近い誘導ポイントへ誘導し始めた。避難先はB-1エリアだ。そこで兼澤くんと合流してくれ」


 兼澤さんと合流か……怒られるかな。

 そんなことを考えながら引き金を引く。銃の発砲の衝撃が肩を押し、空気を切って弾丸が飛んでいく。目標にしていた『スカ―レッド』が倒れる。

 が、ここで奇妙なことが起きる。『スカ―レッド』たちが一斉に退きはじめた。まるで群れの主の指示を受けたかのように……なんだ?





「このド阿呆が!」


 兼澤さんは赤レンガの廃ビルの奥、セーフハウスへの通路の前で僕を殴り倒した。派手な音をたてながら僕は廃ビルに残されていた廃材に体をぶつけた。

 兼澤さんが続ける。


「お前が勝手な行動をした結果、お前のリカバリーに人を裂いた。弾も無駄にした。そんな勝手な行動が許されるとでも思ってるのか!」

「救助した人の前でそれを言いますか、普通」


 口の中を切ったのか、血の味がする唾を吐き捨てながら僕は言った。

 兼澤さんは救助した男女をニラ煮ながら言った。


「俺はそもそも助けるべきではないと考えている。こいつらの食い扶持をどうするつもりだ? 飲める水がどれだけ貴重か分かっているのか? そもそもこいつらがいつ発症するかも分からないだろうが。『紅雪症』患者なのか、『紅蓮クリムゾン』なのかの判断もまだだろう。スパイだったらどうするつもり」

「はいそこまでだ。兼澤くん……」


 憤慨して騒ぐ兼澤さんの後ろの、セーフハウスへの通路の扉が開き、六法さんが出てくる。兼澤さんが渋々黙る姿を見て、六法さんが朗らかに付け加える。


「お客さんの前だから、愛想良くしないとね。……ようこそ、我らが『ディストピア』へ。歓迎できるほど良い場所ではありませんが」


 男女はお互いを見合ってから、中年の男の方がおずおずと口を開いた。


「助けていただいて、ありがとうございます。私は鯉藤と言います。こっちは私の友人の娘で霧宮と言います。それと……」


 ここで、僕らは気づいた。彼女、霧宮という少女が腕に抱えていたのは、


「その子が、私の養子の息子、孫にあたります……名前はまだありませんが……」


 小さな小さな、生まれたばかりの赤ん坊だった。






「ここが……とても元下水とは思えない」


 鯉藤さんはセーフハウスに入るなりそう言った。

 セーフハウス、とはいっても、実際は使われなくなった下水の一部を無理やり改築したものだ。壁は白く清潔感ある物に、下水の臭いはせず、むしろアルコールと消毒された布巾の臭いで満ちている。窓が無い代わりに、今は見れなくなった青空の風景画がそこら中に飾ってある。


「ああ、それはボクの『症状』の関係ですね。ボクは元医者ですから。『ユートピア』で医者をしてました。あなた方は『ユートピア』から追い出されたのですね?」


 『ユートピア』とは政府が用意した紅の雪から非難するために建てられた半球ドーム状の巨大な建物だ。世界中にいくつかあり、日本には三つほどあったはずだ。多くの人が入るには手狭らしく、地下に増築を繰り返しているらしい。僕ら『紅雪症』患者は近づけば憲兵に撃ち殺されることになっている。入り込むこと自体が犯罪扱い、ということらしい。

 『紅雪症』におびえながら、人類はそこに閉じこもり『デウス』の遊びにおびえながら生きている。それが今の人類だ。


「えぇ、まあ……『症状』?」

「あれ? 御存じない? 『紅雪症』患者さんなのに?」


 鯉藤さんが疑問の声を上げるのを、六法さんは不思議そうに聞いた。そして、それなら説明しましょう、と『紅雪症』患者、そしてその後に来る『紅蓮』に関して説明を始めた。


「『紅雪症』は人の人たる部分を失わせます。それは『その人が一番恐怖している事』に起因した症状を起こすんです。たとえば、『死ぬのを恐怖する』ならば不死身に近い生命力を持ったり、『失明の恐怖』を持てば逆に視力がすさまじく良くなったり。『紅雪症』で怪物化するのは『紅雪症で怪物化する恐怖』が『紅雪症の症状』で現実化したにすぎません」


 そう、きっと最初に全人類へ植えつけられたあのイメージこそ『デウス』の狙いだったんだろうと、今なら思える。

 六法さんが二人をセーフハウスの奥まで先導しながら説明を続ける。


「で、その恐怖をものとした、あるいは受け入れた者は『紅蓮』と呼ばれるようになるんです。『紅雪症』を昇華した者、その『症状シンドローム』で現実の法則を捻じ曲げて、それこそ、現実が『デウス』の言ってたエンターテイメントになってしまった者たちの事です」


 二人は黙って後からついて来ていた。真っ白な廊下に複数の足音が響き、蛍光灯の白い灯りが無機質に行き先を照らしていた。六法さんが部屋に入るように促しながら言う。


「あ、ちなみに、ボクの『症状』は『必要だと思う者を呼び出す』というものです。簡単な物から複雑な物まで。4.5畳の空の部屋を作るのに3時間ほどかかる感じですね」


 これに兼澤さんが噛みついた。


「六法さん、待ってください、こいつらが『ユートピア』の回し者だったらどうするんですか!」


 これに六法さんが笑って答える。


「君ね、どこに赤子を抱えてスパイしに来るのが居るの。ほら、その子を保育器へ入れないと。すっかり弱ってしまっている……かわいそうに」


 六法さんは顔を真っ赤にして黙る兼澤さんを他所に、赤ん坊を受け取り、保育器の電源を入れながらタライにどこからともなく湯を張り、その小さな体を優しく流す。


「それが……『症状』ですか? いったいどういう……?」


 鯉藤さんの疑問に六法さんは首を振って、ボクらにも解ってない、としか答えなかった。答えられなかった。きっと『紅雪症』の原理、全部を知っているのは『デウス』しかいないだろう。僕らはこの力の事をよく解ってはいない。でもこの力が無ければ、きっと僕らは死んでいただろう。それは確かだ。


 兼澤さんが無言で、すさまじい形相のままその場を後にする。それをみて鯉藤さんがおずおずと聞いてくる。


「あ、あの……私たちは、お邪魔だったでしょうか?」

「いやいや、そうじゃありませんよ」


 六法さんが笑って答える。


「彼はね、『身内を失うことに恐怖してる』んです。その要因になりうるなら、彼はボクをも斬り捨てるでしょう。そう言う子なんです。ああ、それより『ユートピア』の現状について教えてください。……それと、よろしければこの子の親、あなたの娘さんについても」


 鯉藤さんは近くのベッドに腰を卸し、何か迷った後、頭を抱えながら言った。


「娘は……死にました。その子を産んだ直後に。体力の限界だったんでしょう……」

「ああ、それは……申し訳ありません……」


 重い沈黙が流れ、それを破るように、赤ん坊を抱いていた女の子、霧宮がため息をついて部屋を出ていく。

 六法さんが僕に言う。


「あー、金城くん。あの子追いかけて。多分迷うと思うから」


 無言をもってして面倒くさいと答えるが、六法さんはこっちを見ようとしない。


「同年代の女の子なんて珍しいじゃないか。面倒見てあげなさい、ね」


 拒否権はなさそうだ……。僕もまたため息を残して部屋を後にした。




 少し離れたところを霧宮はうろちょろしていた。行く当てもないのに部屋を出ればそうなるだろう。細い四肢で壁を殴りつけ、悪態をついている。揚句殴った拳が居たかったのか、今度は壁に対して蹴りを入れている。ぺしぺしと寂しい音があたりに響いている。が、僕の存在に気づいてばつが悪そうにそっぽを向いた。


「ここに居ても何もないよ。それに冷える」

「いいの。別に……」

「よくない。後で怒られる」


 霧宮は睨みつけるような顔でこっちに向きなおった。


「あんたが怒られようが関係ないわ! そもそも私は巻き込まれただけなんだから! ……本当についてない」

「いや、二人とも怒られると思う……あの怖いお兄さんに」

「? ああ、兼澤とか言う人ね……確かに怒りそうね」


 ため息交じりに、少し苦笑しながら霧宮は言った。そして、自分がイラついている事を謝った。


「なにがなんだか分かんないのよ。……あたしがいつ『紅雪症』にかかったかもわからなければ、家族の『紅雪症』への対応もそう。唯一受け入れてくれたのが、あの赤ん坊の……あたしの友達の家族だけだった。でも結局、おじさんも友達も『紅雪症』だから受け入れてくれてただけだった。憲兵に見つかって、あたしたちは逃げた。その時……友達は撃たれた。その時、あの子は、あたしに自分の子供押し付けて言ったのよ。赤ん坊が潰れるんじゃないかってぐらいの力で、死にかけてるのに……よりによってあたしに……お願い、って……」


 霧宮は最後まで言い切る前に泣き崩れた。僕は正直どうしたものか分からなかったけど、霧宮の背中をさすり、落ち着くまで泣かせようと思った。


「あり、がと……」

「いや、僕も『ユートピア』を追い出された時は、六法さんにこうして落ち着くまで傍に居てもらったから……」

「いいとこ、あるのね。不愛想な人かと……」

「そう……かな?」

「ふふっ、六法さんが、よ」

「……」


 ある程度すると霧宮は泣き止んだ。まだぐずっては居たが、だいぶ落ち着いたように思える。


「ねぇ……あなたも『ユートピア』に居たの?」


 僕は、少し迷ってから自分の身の上を話し始めた。なんで話し始めたのかはわからない。でも、後に思えば、このタイミングしかなかったんだと気付いただろう。


「当時中学生だった僕は、毎日が版画や鏡写しみたいに進んでいってるようで、それがとても重要な物だと気付かなかったようにも思えた。でも、そうまでして非日常が欲しかったわけじゃない。退屈でも、日常は僕らにとって、代えがたい物だと僕は当時から知ってた。……ちょうど『デウス』の放送前、紅の雪が降り始める前、僕は右目を患ってた。失明するかもしれないって言われてた」


 霧宮は黙って僕の右目を覗き込んでいるように見えた。今の僕の右目は『紅雪症』が昇華したもの……『紅蓮』の影響で、六法さん曰く「世界を圧縮して見れる目」になっているらしい。

 更に僕は続ける。


「それもあって、僕は最初から『デウス』の行動は理解できなかった。当時は色々騒がれてた。銃で人を撃っても罰せられない世界になるだとか、隣人が怪物になる世界だとか、日常崩壊系のライトノベルが現実になったとか……親が子を捨てることを神が許したとか……。僕の『紅雪症』は最初顔の右半分に大きく表れて、顔の半分だけ異形の怪物になった。右目は勝手に動き回り、顔が引きつり、夜中に勝手に何事か呟いた。結果、僕の両親は『ユートピア』から僕を追い出した……。今思うと、憲兵に突き出さなかっただけ、優しさだったのかもしれない」

「両親に……あたしもにたようなもんよ」

「妹だけ……双子の妹だけ最後まで僕を引き留めようとしてくれてたな」


 家族とはそれっきりだ。今頃どうしてるかも知れない。知ろうとも思わない。


「それで……その後、顔はどうしたの?」

「……ひたすらに話し合った」

「話し合った?」


 疑問そうに見てくる霧宮に僕は当時本当に思っていたことを言った。


「昔の漫画で、膝や腹に蛙の顔状の腫瘍が出来る病気にかかった人の話があったんだ。しかも喋る。……名医がそれを完全に切除してもまだ生えてくる。けれど、最終的には名医がその腫瘍と話し合って、一体何を考えているのかを聞き出したんだ。その後切除すると、二度とその腫瘍は出てこなかった……。それを思い出して、実際に話しかけてみた。反応は無かったけど、徐々に徐々に……異形化が収まって、最後にはこの右目が残った」


 霧宮はゆっくりと僕の顔右半分に手をだして言う。


「触っても、良い?」

「……嫌だ」

「えぇー、なんでよ、減るものじゃないでしょ?」

「嫌なものは嫌だ」


 とここで霧宮はいたずらっ子のような目で僕を見てからかう。


「ははーん。恥ずかしいのかな? ん? 初心なのかなぁ?」


 僕は霧宮が押しのけ、一人戻ることにした。霧宮が後ろから、冗談だってと言う風な事を言いながら追ってくる。道案内はしてる。うん。六法さんには怒られないだろう。

 そんな時だった。


「あー、居た居た。やっほー」


 通路の向うから駆け寄ってきた小柄な少年は、ずいぶんと軽い調子で僕に言う。


「六法さんと兼澤さんが読んでたよ。なんかねぇ、あの鯉藤っておっちゃんが持って来た情報、重要な事みたいだよ~。兼澤さんがすんごいいきり立ってたもん。気合入りまくり?」

「分かった。日比谷、悪いけど彼女を食堂まで案内して。僕は六法さんのところに行くよ」

「はいはーい。任務頑張ってねぇ~」


 霧宮を日比谷に押し付けて、僕は六法さんが居るであろう医務室へ戻る。


「お土産よろしくー」


 背後で日比谷の明るい声が響いた。





 医務室では保育器に入れられた子供を脇に、六法さんと兼澤さんが、鯉藤さんと共に待っていた。他にも幾人かの戦闘向きのメンバーが集まっている。六法さんはいつも通り落ち着いた様子、兼澤さんは日比谷から聞いた通りせわしなく、落ち着きが無い。鯉藤さんは僕がこの部屋を出る前とほぼ変わらず一人重い空気を纏って頭を抱えるように座っていた。

 僕は二人に聞いた。


「何か重要なお話ですか?」


 六法さんが説明しようとしたが、それを割って入った兼澤さんが言う。目上の六法さんを跳ね除けて言いに来る点、かなり興奮を隠せないようだ。


「『デウス』だ! 今、『ユートピア』には『デウス』が来ている!」

「それ、本当ですか!?」


 六法さんが頷いて答える。


「えぇ、鯉藤さんは実際に『デウス』を目撃したようです。我々『ディストピア』は彼を捕縛。『紅雪症』に関して一切合財すべてを話させます。そのために……」

「『ユートピア』を襲撃するんですね……」


 僕が少し迷うそぶりを見せたのを、兼澤さんが見つけて言う。


「何を迷ってる! 『デウス』を捕らえられれば、もう『紅雪症』で苦しむ必要もない。治療薬の造り方を知っているのもあいつだけだ。ここで逃がす理由はない。ぐずぐずしてたら逃げられちまう! 一刻を争う! 今すぐにでもいくぞ!」


 僕は胸騒ぎを覚えていたが、兼澤さんのいう事も分かる。僕は渋々頷き従うことにした。

 六法さんがみんなに言う。


「いいですか、みなさん、生きて帰ってきてください。それが最低条件です。今から我々は『ユートピア』の統治に本格的にたて突きます。成功しようが失敗しようが犯罪者として指名手配されるでしょう。ですが、この作戦の成功は人類に光となります。必ず成功させてください。……死なない程度に、ですよ」


 そして、僕らは自分たちの古巣へと攻撃を開始することになった。

 六法さんの合図で、僕らは一斉にセーフハウスの出口へ向かった。


「『ディストピア』はこれより、人類の敵『デウス』の捕獲作戦を開始します!」



申し訳ありませんでした(土下座最上級)

うん……まだ続くんだ……


申し訳ない……申し訳ないぃぃ



To be continued...

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