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東方地底母  作者: jackvaldy
3/3

かみちゃますわこ

【この小説はフィクションです】

征服的なことやってるけど実際にはそんな歴史はありませんから。本当です

この地は私が守ると誓いつつも実質的に何もしないまま、また時が過ぎた。

驚いたことにね、賢くなったと思ってたペットの子がなんと人型に変身するようになった!

変身するようになったのはカラスだった子と猫だった子。地上から地底に戻ってきたら知らない人がいるんだもの、すごくびっくりした。本人から説明を受けるまでびくびくしてたよ私。


「我らが大いなる母よ、地底の主よ、こうして言葉を交わすことが出来ること、恐悦至極にございます」


こう話すのは猫の子。頭に猫耳がついてるんだけど、普通のも着いてるから耳四つ。耳よさそう。


火炎猫燐かえんびょうりんと申します。こちらは霊烏路空れいうじうつほ

「…………」


燐と名乗ったほうは胸に手を当てて頭を軽く下げ、堅苦しいと言うか気取った感じがする。

空、と紹介されたほうは人差し指をくわえているが、燐がしゃべり終わると、


「おかあさん!」


と私に飛びついてきた。

思わず抱きとめる私。

う~ん、鳥型も良いけど私と同じサイズになるとやっぱり抱き心地も違うなあ、思いっきり抱きしめられるって幸せ~。

しかし、やっぱり私お母さんなんだな。母親らしいこととか特にしてないのが申し訳ないけど、甘えて母親を名乗らせてもらおう。今までは便宜上ペットとか呼んでたけど、気分的には友達だったのだ。年下で、私が面倒見てあげてると言う意識はあったけれど。だから母親と言うと、むずがゆいと同時にしっくり来る感じがする。この子らは私の子ども。そう、母と子。改めて名前を突きつけられるとちょっと涙腺潤んできちゃうな……

空の頭を撫でながら、


「うつほ、自分の名前を言ってごらん?」


と言うと、


「わたし、れいうじ、うちゅほ!」


と返事してくれた。

うちの子超かわいい!うつほマジ天使!!


「よしよし、よく言えたな」

「えへへー」


頭を撫でてやるとはにかむ。娘よ、母は天国に昇ってしまいそうだよ……!


「空の非礼、誠に申し訳ありません」

「燐もそんなに堅苦しくなる必要はないぞ?」

「いえ、私は母なるヨミ様に仕えられるだけで幸せにございます」


使えるって、そんな。主従関係で結ばれた母子なんているか。

私はそんなの抜きにして良いと言うのだが燐は聞く耳を持たない。四つもあるのに。

残念に思いながら、私は燐がもっと砕けてくれることを願うのだった。


◇◆◇◆◇◆◇


燐と空が人の形を取れるようになったころ、地上に人間が住み始めた。

地底は山の直下にあるのだが、地下空洞は横に長いため地上に出やすいルートとしては二つあることになる。東側か、西側かだ。

その両方に人間が住み始めたのだが東側の方が人口が多く、いろいろな技術が発達しているようだった。

立場の上下が決まり、住む建物も決められ、その建物の外見も住む人間によって違う。時が経つにつれ、その傾向はどんどん大きくなっていくようだった。

西側はのんびりしているので雰囲気的にはこちらの方が気に入ったが、次々といろいろなものが出来ていくという目新しさでは東側の方が気になるようになった。

そんな風に地上がにぎやかになるので、私も自然と地底よりも地上に出て過ごす時間が増えるようになった。


「大いなる母よ、最近は地上がお気に入りのようですね」


ジト目で私の方を見据えてくる燐。


「おかあさん、うつほたちのこときらい?」


しょげた様子でうつむく空。

私は出来るだけ地底にいたいのだけれど、地上も気になるというジレンマ状態に陥ってしまっていた。


「きらいじゃないよ、うつほ。お母さんはお前たちのことが大好きさ」

「ならば私たちといる時間を増やしてくださると嬉しいのですが」

「燐、寂しいの?」

「地底の主たるヨミ様は地上よりも地底におられるべきではないかと提案申し上げているのです」


ここで態度が軟化してくれるとかわいいのだけれど、硬い態度のまま。


「でも、地上も楽しいのよ?」

「例えば、どのように?」

「うーん、西側では生き雛祭りをするけど、東側では生け贄祭りをしてたり」

「……楽しいですか?」


正直生け贄祭りは好きじゃないんだけど。


「まあ、できるだけここにいるようにするわ」

「そのように」


これで難しい話はおしまい。燐は猫の姿に戻って私のひざに乗る。わたしは身体を撫でてやる。姿が変わると態度も一緒に変わるのが燐なのだった。このギャップがたまらんね。かわいい。


◇◆◇◆◇◆◇


かわいいうちの子たちとの時間を増やすことにはしたものの、やっぱりちょっとは地上を見に行く私。

すると東側と西側が険悪なムードになっていて、東側と西側の間の谷で睨み合っていた。なんとなくばれない様に気の後ろに隠れて観察する。

西側の人達は屈強な人ばかりで、服は粗末だが動きやすそうなものを着ている。リーダーらしき人が先頭で仁王立ちしているのだが、その人が尋常のいでたちをしていない。

腕は四本に足も四本、顔が二つでそれぞれ反対を向いている。今は片方が西側の人たちを、もう片方が東側の人たちを見ている。

東側の人達は西側の人たちと見比べると細いが、同じ服を着ている人が数人ずついる。西側の人たちは群集というのがあっているが、こっちは整列していると言う様子だ。

そしてリーダーはなんと大きな帽子を被った少女だ。大きなわっかを持って不敵に笑んでいる。


「斐太の国は我ら斐太の民のもの!お前たちに渡す土地などひとかけらも持っておらん!」

「そんなに怒ることないじゃんさー。私の諏訪の国の一部になれっていっても、何も悪いようにはしないよ? むしろ今までより良い生活を送らせてあげるからさ」

「その口には乗らん。お前たちが血なまぐさい儀式を行い国内に恐怖があることなど周知の事実だ。俺は民を守るためにここでお前たちを追い返す!」


そう言って彼は四本の腕で構え、後ろの男たちもにわかに殺気立つ。


「やっぱ口で言っても聞かないかー」


侮るように笑いながら、少女はわっかをくるくると回し、構える。


「いつでも来なよ」


指で挑発する少女。

それを見てムッとするリーダーの男。


「斐太の両面宿儺すくな、参る!」

「諏訪の洩矢諏訪子、受けて立つ!」


まっすぐ走りこみ、右腕一本で顔を狙って殴る両面宿儺。

後ろに一歩下がって避ける洩矢諏訪子。

かわされた勢いそのままに身体を回転させ、もう一本の右腕(左腕)で裏拳をまた顔に叩き込む。

その顔のあった場所に輪を持ってきて、腕に輪を引っ掛け、自分は避ける。

そして輪を下に思いっきり下げると宿儺の体制が崩れる。


「ぐっ、」

「横腹ががら空きだよっ!」


右足で横腹に蹴りを入れると、宿儺の身体が3メートルぐらい吹き飛ぶ。

少女が大男の身体を蹴り飛ばすのを見て、宿儺側の人たちが動揺する。

もちろん私もびっくりする。物理的にありえるの?という疑問が浮かぶが、実際起きたのだからありえるんだろう。

そして、今の一連の流れで力量差に大きく差があるのが誰の目にも明らかになった。


「あんたさあ、自分の民とか言いながら信仰されてないでしょ?」

「な、何のことだ」

「あんたと民との関係は支配と被支配じゃない、オ・ト・モ・ダ・チだって言ってるのよ」

「それの何が悪い!ともに斐太の地に生きる仲間だ!」

「悪いに決まってんでしょうが。崇められ祭られてこその神。私たちがいなくちゃ生きていけない、それが正しい民と私たちとの関係よ。あんたがいなくてもそこの男たちは普通に生きていけるね。それじゃあ駄目なのよ。お分かり?」


宿儺は理解できないと言う顔をしている。多分私も同じような顔してるんじゃないかな、私もわかんない。


「そんなかわいそうな民を私が幸せにしてやろうってんだから感謝しなさいよ。ほら、降参しなさい」

「降参……するわけないだろう!」


また走り寄って殴ろうとするが、わっかで普通に殴られて横へ飛ぶ。


「かはっ……」

「頭悪い脳筋だねえ。後のことは私に任せりゃ良いのよ」

「…………」

「あ、脳震盪起こしてるみたいだ。私の勝ちだね、こりゃ。そいつ、縛っといて」


諏訪子の後ろの数人が宿儺に近寄って手足を縛っていく。宿儺は痙攣していて抵抗しない。


「さて、お前たちの頭はこの洩矢諏訪子が生け捕った。抵抗するものは容赦しないが逃げれば何もしないでやろう。逆らうものはいるか?」


諏訪子が宿儺側の人たちの方を向くと彼らは逃げ腰になり、輪を地面にガィン!と打ちつけると逃げていった。


「ようし、大将首はとった。お前たちはすぐに斐太の国に入り支配体制の礎を築け。数人はこいつを諏訪に持って帰れ。私は後から斐太に入る」

「御意!」


一糸乱れぬ統率力で諏訪の国の人たちはそれぞれ東と西に去っていった。

残った諏訪子は


「いるんだろう? そこに」


あ、もしかして私?

これ返事して良いのかしら。というかあんなことをしていた諏訪子さんが怖いので返事したくない。


「隠れてないで出て来い……よっ!と」


ドサッ、バキバキ……

輪が飛んできて私の頭のすぐ上を通過した。つまり、木を一発で切り倒した。

こえー!絶対出て行きたくないけどこのままでもやられる気がする!

意を決して出て行くと輪を手に持った諏訪子さん。投げたのにいつの間にか手元に戻ってきている。


「ふふ、覗き見するなんて悪い奴だね。あんた名前は?」

「よ、ヨミと言います……」

「敬語なんて要らないよ。同じ神同士気兼ねすることなんかないさ」

「え、私、神?」

「違うのかい? あんたから流れる神気を私が間違えることはないと思うんだけど」


神気って、そのまま神の気でいいのか? そうだとしても全く心当たりがないんだけど。


「まあいいさ。うちに来ないか?」

「お邪魔します」


諏訪子さんちにお邪魔することになった。


◇◆◇◆◇◆◇


現在大きくて豪華な神殿にお邪魔しているんだけど、少女の姿なのに家のあるじ(・・・)然とした姿には貫禄を感じてしまう。後ろの方にかしずいてる人いるし、私のこと警戒してるし! 

『主の客だから通すけど私は信用していません』って絶対思ってるね。


「そういえばあの、斐太の方にいかなくていいんですか?」


後から斐太に入るって行ってた気が。


「敬語は良いって言っただろう。気を抜いてくれ。

 別に国を一つ併合するっていっても、ガチガチの支配体制を一から作り上げるわけじゃない。貢ぎ物と生け贄が安定供給されるようになれば十分なのさ」


なにそれこわい。今日一日で怖いって何回言っただろう。この人の口からはそんな単語が普通に出てくるからそのたびにびくびくしてしまう。


「恐怖は支配の基本だと思ってる。恐怖を与えれば信仰は楽に集まるからね。ほら、飲みな」

「あ、どうも」


私に杯を渡して酒を注いでくれる。

ちなみにこの身体は飲食を必要としないけれどある程度できないことはない。体内に取り込むだけだから排泄はしない。便利な身体だ。


「で、あんたから神気を感じるから、私と同じように信仰を集めてるはずなんだけどねえ……このあたりに他に国があるなんて聞かない。心当たりはあるかい?」

「信仰って、人間じゃなくても集められる?」

「まあ、そうだね」

「じゃあ、私のペット……いや、子どもたちかな。良く慕ってくれてるから」

「こどもたち? ヨミ、あんたどこにすんでんのさ?」


あー、言って信じてもらえるかな。


「地底に住んでるんだけど……」

「地底?」

「斐太と諏訪の境の山の地下に空洞があって、そこで私の子どもたちと住んでる」


あ、信じてない顔してる。


「まあ、信じてもらえなくても良いんだけどさ」

「いやまあ、信じてないわけじゃないけど……地底って、どんなとこ?」

「そうねえ……どろどろに溶けた物凄く熱い岩が湧き水のように湧いてて、太陽の光が届かないから暗いんだけど、その溶けた岩が光るからある程度明るい。うちの子達はその熱い溶岩に飛び込んでも平気」

「信じられなくなった」

「信じて!?」


私を信じないのは良いがうちの子たちを信じないのは許さん!


「だいいち、岩が溶けるってなによ? 岩だよ?硬い岩」

「それは、こういうこと」


右手を出して、溶岩にする。手首まで溶けて床に落ちるのを、左手で受け止め、また右手に戻す。


「えっ……何それは」

「この身体が溶岩で出来てるの。今、熱さが伝わったでしょ?それに今は明るいけど暗いところで見ると光ってるのが分かるよ」

「へええ……あっ杯が」

「えっ? あ!」


左手に持っていた杯が溶岩の熱で駄目になっていた。木製だったので消し炭だ。


「ごめん……」

「いや、疑った私が悪かったよ。気にしないでくれ」


地底じゃ誰も気にしないけど、地上じゃ結構危ない、そのことを忘れていたせいだから、これは完全に私のせいだ。


「何か弁償を……」

「本当に気にしなくて良い。あんなものいくらでも作れるからな。それでも気になるって言うんなら、私と友達になってくれ。同じ立場の友人なんて今までいなかったから、友達になってくれるとありがたい。どうだ?なってくれるか?」


喜んで!

なんか燐にまた怒られそうだな……でもあれは寂しさの裏返しだろうけど、これは嫉妬の裏返しで叱られそうだ。かわいい顔を嫉妬で歪ませたくないから、伝えないほうが良いかな……


「というか同じ立場の友人が欲しいのなら両面宿儺さんと友達になればよかったんじゃ」

「それとこれとは別だ」


さいで。


「しかし、結構えげつない能力だな、それは。人なんか簡単に焼き殺せるだろう」

「うん、実際山火事未遂とか何度かやってるし……あ、なんかやばい木はわざと焼き殺したりしたけど」

「何だその木は?」

「すっごくやばいオーラ出してて、もうソッコーで焼き殺した」


周辺の被害を気にしなければいけないと言う戒めの記憶でもある。


「もしかして、ここの近くにあった?」

「ああ、たしかに近かったかも」


諏訪子は驚きで目を見開く。


「お前だったのか!!」

「うわあ!」

「いやーありがとう!前からあの木、西行妖って呼んでたんだけど、西行妖がいたせいでこの地に侵入できなくてさあ!アレがいなくなったのを見つけてこの諏訪に入ってきたんだよ!ありがとう、感謝してもしきれないくらいだよ!!」


私の手を握ってブンブン振る諏訪子。

つまりあれか、人間がここに住み始めたのは私のおかげなのか。

知らない間にそんなことしてたなんてびっくりだよ。世の中どこで何がどう繋がるかわかんないね。


「何か感謝の気持ちをこめて礼がしたいんだが、なにか望むものはあるか?」

「いやあ、特に何も無いけど……この諏訪の国ってどういうところなの?いろいろと知らないと望みとか言いにくいし……」

「それもそうか。

 まず、私はここより少し南の方で神をやっていたんだが、国々を併合しているうちにあの忌々しい西行妖に遭ってな。それで行き止まってしまったんだが、ヨミ、お前のおかげで北方進出を果たすことが出来たんだ。ここに来る途中に見えたと思うが、あの大きな湖には以前から目を付けていたんだ。西行妖がいたせいで手に入れられなかった湖だな。お前には本当に感謝しているぞ。で、もう一つ目を付けていたのがあって、ここでは鉄が出るんだ」

「てつ?」

「ほら、私が使っていたあの輪。あれが鉄で出来ている。硬いし強いし重量もある。鉄は良いものだ。農具も作れるしな」

「もしかして、これ?」


昔、ジンムにしたように、体内からマガタマを生成してみる。うーん、この身体には鉄の含有量が少なくなってきたみたいだ。今度取り替えておこう。


「そそそそれだ! どうやってそれを!?」

「どうやってもこうやっても……溶岩に含まれてるから」


取り立てて騒ぐことでもないと思うんだけど……

諏訪湖は驚き呆れたと言う顔をして、


「なんだ、私の国の繁栄はお前のおかげだったのか。今まで知らなかったが、もう知っている。これからは大切な恩人、友人として仲良くしよう。

諏訪の国の洩矢諏訪子、よろしく頼む」

「地底の母、ヨミ、確かに承った」


こうして諏訪子と私は友人同士になった。


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