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東方地底母  作者: jackvaldy
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アララギ

山をググるとちょっとだけ幸せになれるかも。

ジンムが去ってからまた何年か過ぎた。

私に懐いてきたペットの中には賢くなる奴も出てきて、ある程度の意思疎通も出来るようになった。いや、しゃべれるわけじゃなくて、こう、表情と鳴き声でなんとなく分かるっていうか。そんな感じ。

そして私が地上にいるときにも一緒にいたいって言うんで、地下と地上を繋ぐ穴を一本開けた。私は精神体で行き来してたから問題なかったんだけど、この子らは地面すり抜けるとか無理だから。

そうして私が地上にいるときも周りをペットたちに囲まれるようになった。ホントかわいい。どこがっていつも私と一緒にいたいってとこなんかキュンとしちゃう。

ちなみにペットは首が三本ある犬とか、足がちょっと多い鳥とか尻尾が多い猫とかがいる。首が多い子なんて一度に全部の頭を撫でられないから、撫でられてない子が『ボクも撫でてー』って言ってくる。一つ撫でれば一つが撫でられず、もうエンドレスだ。

あと、みんな身体は大抵黒い。何でだろうね。

今日は地上に出ている。もちろんペットらも一緒。


「あの山の下は溶岩が少なくて暗いからクライ山。あの山は船みたいな形してるから船山ね」


『ニャー』『カー』『ワンッ』


地底は思いのほか広かった。地上で見渡せる広さを上回るほどの大きさがある。そのおかげでたくさんペットたちが地底にいても多すぎて息が詰まる、というような思いをしないですんでいるのだ。まあ私がどんだけでも拡張できるんだけど。

そういえば、ジンムが降りてきたのがクライ山だ。あの山の頂上に木があるんだっけか。


「ん?木?」


急に自問しだした私を訝って、ペットたちが私を見上げてくる。

よく考えると、木が生えないくらいの高さにいっぽん生えている木がただの木なわけがない。

私は急に興味が湧いてきた。ジンムがその木で木刀を(素手で)削りだしたって言ってたけど、根元からバッサリいったのか?それとも枝を?

枝ならまだ残っているかもしれない。そう思い、今日の行動を決定した。


「今日はクライ山に登ろうと思う」


ペットたちがさまざまな反応をする。山歩きなんてしたくないって子と好奇心の強い子で分かれたようだ。


「嫌なら無理に来なくて良いぞ。一緒に来たい子だけ私についてきなさい」


無理強いしても良くないしね。寂しいって子のために溶岩人形を一つ作って置いていってやろう。

まあ私が入っていないんだから動かないけどね。


◇◆◇◆◇◆◇


「よーしみんな元気かー」


と着いてきたペットたちに呼びかけるけれど元気がない。何故かと考えてみると答えはすぐに見つかった。


「ここ、めっちゃ寒い……」


憑依している溶岩人形には申し訳程度の感覚しか付けていないので分かりにくかったが、これくらいの高さまで昇るとかなり寒い。地底の溶岩がボコボコ湧いてるようなところに住んでるこの子らはこの寒さのせいで元気がないようだ。

そこで私自身が体温を上げてやると元気になるだろう、と思ったのだが私にくっついてくるばかりで元気にはならない。てか頭に乗るな、肩にも乗るな!!


『ニャーン』


そんな鳴き声出したって……許す!

我ながら甘いな、と思いつつ山を登っていくのだった。


◇◆◇◆◇◆◇


上昇させた体温のせいで、そこらへんに生えている草を踏むと、ジュッ、という音とともに一瞬で消し炭になってしまうので出来るだけ踏まないようにしながら歩く。

時間は、太陽が落ちて昇るくらいはたったかな。歩き続けてると頂上についた。


「おお……」


なんというか、まあ。

すげえ、という感想しか出ないような木が一本、堂々とした姿で生えていた。いや、立っていた。だって自立してるように見えるんだもの。やばい。

あとね、なんか質も量もすごいオーラが漂ってきてる。ぶわっと。なんでこんなすごいのが立ってるのに気付かなかったん、私。

葉は一枚もなくて枝と幹ばかりだけど。


『あなたはどなたですか……?』


「ん?」


気のせいか今何か聞こえたような……


『気のせいじゃないですよ。あなたの目の前にいるのが私です』


目の前、って……この木?


『そうです。この木が私です』


こいつ、直接脳内に……!?

というボケは置いといて、なんかいきなり話しかけてきた。

木って言葉を話せるものなの?

未だ頭や肩に乗ってる子らは反応してないから私だけに聞こえるみたいだけど。


『さあ。私は私以外の木を知りません』


あ、木じゃないのなら知ってるよね。ジンムって言って分かる?


『はい、息子です』


マジか。本当に木の股から生まれたのか、あいつ。


『貴女は息子の……?』


あ、友達です友達。


『そうですか……残念です』


何で残念なの!?【ヤーン】な関係にでもなってて欲しかった?

あ、自己紹介まだだったね。私ヨミと言います。あなたの息子にもらった名前ですけど。地底の主をしてるって言うと伝わるかな。


『自己紹介ありがとうございます。私はアララギ。万物の母アララギです』


アララギさんといわれるんですか。というかサラッと言ったけど万物の母って何。


『私はあの子を産む前にいくつもの命を産みました。この山の麓の木々は私の子、孫。数多の神々は私の子です。神を産んで、最後にあの子、ジンムを産みました』


ううむ、なんかすごいこと言ってるんだろうけどよく分からん。木々はいいけどカミって私知らない。ほとんど地底暮らしで世間知らずなのよ、申し訳ない。


『会えば分かると思います。……ヨミさん、知り合ったばかりの方にこんなことを頼むのも木が引けるのですが、私の生んだ子の中には悪しき者に育ってしまった子もいて……できればで良いのです、会ったらそのときで構いません、その子らを黄泉の国は送ってやってくださいませんか?』


私の国?地底のこと?いやいやそんな奴らを地底に連れてきたくないんだけど。


『いえ、黄泉の国と言うのは死後の世界……つまり私は子どもたちを殺してくれ、と頼んでいるのです』


……今すごいことが判明したね。あいつは私に死後の世界の名前を付けたってことだよね、それ。

響きは悪くないし嫌いな名前じゃないけど、あいつは今度あったら一発殴る。これ決定。

シリアスの間にこんなこと挟んじゃってなんだけど、分かったよ、お母さん。あなたに託された使命は出来る限り果たすからね!


『ありがとうございます……特に悪しき者になったのがここから日の昇るほうへずっと行ったところにいます。花を咲かせるたびに命あるものを死へと誘う木です。あの子が私の最大の懸念です……』


日の昇るほう、っていうとあっちか。おおよそ見当を付けて感覚で気配を探る。……あった。

うわあ……アララギさんとは真逆のオーラを放ってるし、大きいし、なんか気持ち悪い。細くて長い枝がもっさり生えてる。

よおし……初仕事いっちゃいますか。


『あの、ヨミさん?何をしていらっしゃるので?』


マグマを向こうまで、地下を通って届かせる。地下のマグマは全て私の支配下にあるから、これくらいは造作もない。

で、あの木の近くで地表に出して……爆発!

かくして悪しき大木は燃え死んだのでした。めでたしめでたし。


『……』


「……」


『…………』


「…………」


え、何この沈黙。


『ヨミさん、確かに私が頼んだことですが、出来るだけ周囲の被害の無い様にお願いします。関係ない木はできるだけ燃やさないようにしてください』


あ、周りの木もアララギさんの子なんだから、関係ない子まで巻き込んで殺しちゃったのか!私に置き換えると、関係ないペットの子まで巻き添えで死んじゃったようなものだ。そう考えると、私のしたことが相当悪いことに感じられてきた。実際悪いんだけど。

ごめんなさい、アララギさん。本当にすいません!!

今すぐ土下座してえ……! しかし土下座すると私に乗ってる子達が落っこちるのでできない。ジレンマ……!


『過ぎたことは責めませんが……お願いしますよ、本当に。

 では……そろそろさよならです』


さよならって、あなた地面に根を張ってるじゃない。どこにも行けないじゃん。


『いえ、死期が近いので死ぬのです。最後にあなたに会えて良かった。これで安心して逝けます』


えええええ。いやちょっと待っテ! いきなり死なないでよ!?あったばっかでしょ私たち!!


『もともと死に際だったんですけど、貴女がここを登ってくるのを見て、願いを託せるかも知れないと瀬戸際で踏ん張ってたんです』


いきなり死ぬんじゃなくて最初から死にそうだったってことね、オーケィ分かった、がしかし会ったばかりの人が目の前で死ぬってなかなかない体験だよ!悲しい体験!!


『死ぬことは悲しいことではありませんよ、ヨミさん。生まれたものが死ぬのは当たり前のこと、当たり前のことを悲しむものじゃありません』


そんなこといわれても私は悲しいの!何か私に出来ること無い?生きていられるように


『どうしようもないです。今、ぎりぎりのところで踏ん張っていますが、限界です。もうすぐ逝ってしまいます。

どうしても私のために何かしたい、というのなら』


というのなら!?


『私のことを忘れないと約束してください。それと、あの子のこともよろしくお願いします……』


忘れないよアララギさん、後は任せて!

彼女はそれだけ言い終わると光の粒子になって消えてしまった。

亡くなっても、せめてジンムの木刀みたいに何か作れないかと思ったのだが消えてしまっては何も出来ない。本当に跡形も無く消えてしまった。


「帰るか……」


頭の上に乗っかる猫型の子を地面に下ろし、私はもと来た道を引き返した。

この地を離れる気はないが、悪しき者は出来る限り私が黄泉の国に送る。

それと、彼女のいたこの山をこのままの形で留めておく。

この二つを胸に刻んみつつ、山を降りた。


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