目覚め、友達。
恩師の話がこの小説の一部になっています。恩師に感謝。
我輩は我輩である。名前はまだ無い。
名前どころか身体もない。意識だけはあるって一体どこの精神世界やっちゅーの。
気付けば私、存在してました。母なし父なし友もなし。
とりあえず分かるのは、辺りが全部溶岩ってことなんだけど……
私はまどろむようにしてずっと漂っていた。
◇◆◇◆◇◆◇
何年漂っていただろうか分からないが、そういえばどこだここはと疑問に思った。
上に昇れば何か分かるかな、と思って上を目指すことにした。
身体は無いけど意識のある場所、というのがあるみたい。幽霊みたいだな。
しばらく昇ると地上に出た、のだが……私と一緒に溶岩も噴き出してきてしまった。まずいことしたかな、と一瞬あせったが、見渡す限り周りに誰もいないので気にしないことにした。
周りの風景は、山。木々がたくさん生えてるけど物凄い起伏がある。その木々も噴き出してくる溶岩に焼かれて倒れていってるんだけど、不可抗力だし仕方ないね、と諦めが鬼なった。
さて、意識はあるが実態がない、というのは落ち着かないので溶岩で人の形を作れないかな、と思ってやってみたら簡単にできた。意識するだけでできた。なにこのイージーモード。
溶岩人形と名付けるとして、この溶岩人形に憑依して細部をいじくるとなかなか精巧な出来になった。時折体から煙が出てくる他は問題なさそうだ。
それにしてもどんどん噴き出してくるんだけどこの溶岩たち。やばくね?地形変わるんじゃね?
まあ仕方ないかーと眺めているうちに新しくでかい山が出来ちゃったよ。地形変えちゃったよ。
そういえば溶岩操作できるんじゃないの、と気付いたときには後の祭りだった。
◇◆◇◆◇◆◇
地上に出てきてから何十年経っただろう。もしかしたら何百年経ったかもしれない。
あのとき噴き出した溶岩でできた山にはある程度木が育って、周りの山の中にあっても違和感がなくなった。それでも上の方ははげてるんだけどね。あまり高い山には木が生えないらしい。
山に木が繁るまで私が何をしていたかと言うと、湧き水を一箇所に集めてから私も入り、自分の熱で自家製温泉!とかやっていた。温泉も湧いていたりするからそれを探すのも楽しい。
溶岩人形もしばらく憑依すると本当に扱いやすくなってきて、体温は40度くらいに保てるようになったし身体の表面も岩でなく肌のような質感にすることが出来るようになった。
この溶岩人形はいくつか作ることが出来て、同じクオリティの身体を量産できるようになった。身体を取り替えることも出来るし、以前のように精神体だけでふよふよと空を飛んだり地中にもぐったりも出来る。あら便利。
そして精神体で地中にもぐっていると、地下にかなり大きな空洞があるのを見つけた。これはアレかな、火山が噴火した後は地下に空洞が出来るっていうあれなのかな、と思って地底探検をしていると、動物が何匹かすんでいるのを見つけた。
噴火した跡に出来るっていっても溶岩がそこかしこに流れてるし、大体ここってすごく熱いんですけど。動物が住める気温じゃないんですけど。とか思ってたが、よくみると地上にいる脆弱な動物とは姿が同じでも身体のつくりが全然違うのが分かった。猫っぽいのは体温がマグマの温度に近いし、カラスみたいなのにいたってはマグマの中に飛び込んでも無事でいられるほどだ。カラスはそのあとすぐに飛び出してくるんだけど。まさにカラスの行水。
仲良くなれないかなーと思って人の形をして近づくんだけど、警戒心が強くて逃げられちゃう。しかし辛抱強い私は近くに居座り続けて「怖くないよー私やさしいよー」アピールを一、二年続けると寄ってきてくれるようになった。やったね友達増えるよ!
すると地底中にいた動物がみんな懐いてきて……増えすぎィ! 足の踏み場もないくらい寄ってくるんですけど!?
まあかわいいから良いんだけどさ。何度か一日中もふり倒して過ごしたこともあった。もふー!
今になって気付いたんだけど私食事要らないんだね。精神体に溶岩人形だから当たり前っちゃ当たり前か。
ちなみに地底っていっても溶岩があるのでそれなりの明るさはある。どろどろの溶岩って光るんだよ。
◇◆◇◆◇◆◇
地底でペットたちと戯れたり地上で温泉探しとかやって生活してしばらくが経った。
もうね、何年とかワカラン。地底は太陽の光が届かないから一日っていう概念がないし、地上に出れば夜昼関係なく集中して温泉探しするし。時間感覚なんて私には備わっていないみたい。
ある日また一つ温泉を見つけて浸かっていると、木刀を携えた男が歩いてきた。
服は簡素で白。髪はもみあげ辺りでまとめてある。顔は可もなく不可もなく……というか男の顔の良し悪しなんて分かるわけないじゃない、比較対象がないんだから。
そいつは温泉に浸かっている私を見つけて、木刀を突きつけて
「お前は何だ」
と言ってきた。
えぇー。私温泉に使ってるだけなんですけどぉー。というかあんたこそ何よ。人に名乗る前に自分から名乗るのが礼儀じゃないの?
ということをオブラートに包んでいうと。
「俺はジンム。山を降りているところだ」
と、木刀を下ろさずに言ってきた。
敵対の意志はないから、あんたも温泉入ったら?と言うとやっと木刀を下ろしてくれた。警戒しながらだが温泉に入ってもくれた。
てかこの人服着たまんま温泉入ったんだけど。頭大丈夫?
しかし私も服着たままだわ。溶岩人形作るときに服も身体の一部みたいに考えていたから脱ぐなんて発想がそもそも無かった。
温泉に入ってこの男も気持ちが緩んだみたいで、顔が少し緩んでいる。
今がチャンス、と思い、自己紹介をする。
「私はここらの主。特に何をしているわけでもない。地底は私のもののようになっているけれど」
「名は?」
「無いよ。私以外誰もいなかったから名前なんて要らない」
そういえば地底のペットたちに名前付けてあげても良いかもしれない。全部は多すぎるから特に懐いてくる子だけだけど。
「地底とは何だ?」
「地面の下、ずーっと下にある世界。すごく熱いから、あんたが行ったら死んじゃうかもね」
死んじゃうかもと言われたせいか、ジンムはむっとした顔をして、
「……ジンム」
「は?」
「俺の名はジンムだ。名で呼べ」
なんとも横柄な男だこと。
「で、ジンムは何で山を降りてるの?」
「分からん」
何言ってんのこの人。
「多分俺は木の股からでも生まれたんだろう、気付けばあの山の頂上にいた。隣に一本の木があって、俺の名はジンムだということだけが分かっていた。山から降りるべきだと思い、降りようとしたんだが手に何も無いのは心許ない。その木でこの木刀を作った」
「ちょい待ち。道具はどうした」
「そんなものは無い。全てこの二つの手でやった」
生まれながらのチート性能か、ハハッ、ワロス。
溶岩を操れる私も人のこと言えないが。
「しかしお前に名前が無いと言うのはかわいそうな話だな。よし、俺が名前をつけてやろう」
何か調子乗ってきたぞこいつ。かわいそうとか言うな。
「そうだな……ネノカタスノミコトとかどうだ?」
なんじゃそりゃ?長いし名前らしくも無いしダサいんだけど。
「う……じゃあ、チガエシノオオカミは?」
血返し?そんな物騒な名前は要らん。
「お、オオカムツミノミコト……」
あのさあ……なんで自分の名前はそんな短いのに他人には長ったらしいの付けたいの?馬鹿なの?死ぬの?
「お、怒るなよ……じ、じゃあ、ヨミ!これなら短いし良いだろ!?」
ふーむ。ヨミ。よみ。うん、まあ良いんじゃない?
「よおし、ヨミ! 俺はこれからどんどん山を下っていくけど、お前も着いてこいよ!」
自分勝手な奴だな本当に。
確かに遠出をしてみたくはあるが、私には地底がある。地底に住む私の子らを置いては行けんよ。
「子? 子がいるのか?」
ペットだけどな。懐いてきて、これがかわいいんだ。ジンムが地底にこれないのが残念だ。
……なんでほっとした顔してんの?
「しかし、俺一人ではほんの少し、不安でな、道連れが欲しいんだが……」
行かんといったら行かん。
しかし、そうだな……
自分の身体から金属成分だけを抽出し、アクセサリーを作ってやる。首にかける鎖も要るよな……
「何をしているんだ?」
ほら、こいつを首にかけろ。これを私だと思って持っていけ。これで寂しくないだろう?
ジンムは相当驚いた顔をして、恭しく受け取った。いや、即席だからそのうち壊れてしまうかもしれないんだけど……まあ黙っとこう。
「ありがとう……これの勾玉をお前だと思って大切にするよ」
マガタマ?この形をマガタマと言うのか。まあ曲がった玉にも見えるから間違っては無いか。相変わらずネーミングセンスの無い奴だな。
その後ジンムはマガタマと木刀を携えて行ってしまった。そういえば誰かと話をするのは初めてだから少し名残惜しいな。
それがジンムとの出会いだった。