それぞれの道
えーと、登場人物の簡単な紹介をします。
ツバキ
お姉さん的な人でサイコキネシスという能力を持っている。高校でいじめられた。
レン
金にうるさいメガネで能力は未来予知。ツバキと交際。
ヒロミ
男です。コミュ障で人と話すのが苦手。でも、極限まで緊張が高まった時必ず女を魅了するイケメンヒロミになる。ちなみに過去は人を殺すような真似をして苦しんでいた。
ユウ
この作品のヒロインとか主人公とかそんな感じのキャラクター。生まれた時から人の心の声が聞こえるという能力を持つ。心の芯が通った強い女の子。
白ちゃん
主人公のようなキャラクター。ユウが好きでたまらない男の子。
まあ、こんな感じですかね。ではどうぞ。
ツバキafter
私が暗闇にお願いしたものは「勇気」だ。踏み出す勇気今はそれが欲しかった。
私は今学校の校門の前にいる。半年間休み続けた学校だ。懐かしくは思っても愛おしくは思えない学校。
はぁ、とひとつため息をつく。
(憂鬱だなぁ)
まあ、私の過去を振り返るとこの学校でいい思い出よりも悪い思い出の印象の方が強い。だから、そう思うのは自然なことだ。
(でも、進まなくちゃ先なんて見えない。私はこの半年で学校の勉強なんかよりも大切なものを学んできたんだから活用できなくてどうする)
それでも私の足はなかなか前には進んでくれない。勇気が足りない。でも、足りなければ補えばいいんだ。一人じゃできないことは二人ですればいい。
「あ、ツバキだ。久しぶりだね」
そうやって校門から出てきたのは私の親友だったサキだ。過去に酷いことを言ってしまったから親友だなんて自惚れてはいけない。
「じゃあ、行こうか」
そう言って校門の向こう側から手を差し伸べてくれる。
「ありがとう」
私ははにかみその手を取る。冷たいとも暖かいとも思えない。そして、柔らかいとも硬いとも思えない。そんな手だった。
当たり前だ。このサキは暗闇が変身しているものだから。
私はその暗闇の手に引かれとうとう学校の大地を踏む。
「どういたしまして、と。どう?勇気は出たかな?」
学校に入った瞬間にただの影に戻ってしまう。そういう風に役割を果たしたらすぐに切り替えるのは悪魔だからだろうか。
「そうね。気休め程度にはなったかな」
「ひどいなぁー」
まあ、こんな影は無視してても大丈夫というか無視推奨のやつだから積極的に無視するとして
(とうとう学校か…)
憂鬱な気持ちも暗闇のおかげで若干晴れた気がする。
(よし!)
不安なんて歩けば取れる。勇気なんて息を吸えば勝手に取り込める。
そう思い込めば気が楽になる。
「じゃあ、頑張ってね」
早く消えないのかな。あの悪魔…邪魔なんだけど。
さて、半年ぶりの教室だ。変わってない。人間関係以外全く変わってない教室だ。
私の机を見てみると盛大に落書きされて、ぶっ飛んでゴミが捨てられていて、目に節穴の空いた教師はそれを無視している。
(全く、人間関係も実は変わってないのね)
驚きの目でみんなが私を見つめる中鞄から消しゴムを取り出す。
そして、次の瞬間消しガムが宙に浮いた。
後は簡単なお仕事でガー!ってやってドー!ってやって落書き消して、ついでに近くにあるゴミもサイコキネシスでゴミ箱にぶち込む。
ふぅ、スッキリした。これじゃあ勉強するには汚れすぎているからね。
「ちょ、あんた!」
噂をすれば(してないけど)いつかの私の陰口を叩いていた女子生徒だ。今ではクラスでリーダー的ポジションなのかな。
「なんで今ごろ学校来てんの?邪魔なんだけど。てか、今来ても虐められるだけじゃん。馬鹿じゃないの」
前は影でコソコソやっていただけなのに随分と偉くなったみたいだ。
私は密かにため息をつく。
「あのねぇ。高校を休み過ぎたら大学に行けなくなるかもしれないじゃない」
「ぷっ、あっはっはっは!本当に馬鹿なんじゃないのこいつ」
私はこの半年で多くのことを学んだ。その一つに黒いやつは基本無視というものがある。まあ、こいつは黒くないけど腹黒いってことで無視しよう。大体学校に来た理由が出席日数のわけがないだろう。
私は邪魔な女子生徒を無視して一つの場所を目指して歩き始めた。
「初めまして、私ツバキっていうの。あなたは?」
私は彼女に話しかける。
本当は私はその彼女に会いに来た。彼女にしか会いに来ていない。
そして、その彼女が口を開く。
「私はサキ。始めましてじゃなくて久しぶりって言ってよ。よそよそしいじゃん。親友でしょ」
ああ、そうだなぁ。
なんというか。
勇気を出して良かった。
私は勇気を出すことによって本当に欲しかった「絆」を取り戻した。
レンafter
俺が暗闇に願ったのは「富」。いくら皆でいろいろやって変わったとはいえ俺の本質は全く変わらない。
大切なのは金で、好きなのも金で、最高なのも金だ。
と、言っても暗闇がくれたのは単純なお金などではなかった。あいつなんでも願いを叶えてあげると言っておいて本当にくれたのは「会社の知名度」だ。
「おかげで俺の会社の売り上げも上がったわけだが」
それでも腑に落ちないところもあるわけで納得はしていない。
「あ、レン社長。書類出来ました。チェックお願いします」
と、もうすぐ新入社員が言いにくるな。
「あ、レン社長。書類出来ました。チェックお願いします」
ほらな。皆忘れていると思うが俺の能力は未来予知だ。この程度の予知は序の口だ。
そしてまあ、社員から金を巻き上げ、その社員から手渡された書類をある程度読み、ある程度ダメだししてこの部屋から出す。
まあ、話は前に戻って、俺の能力は未来予知。その能力は際限なく未来を見ることができる。まあ、実際には未来ではなくそうなる可能性の高い事象だがそこは気にしなくていい。
こんな営業向けの能力はない。我が社の持ち味は流行の最先端を行くことだ。
雑誌の記者はこの前こう問うてきた
「もしかしてレン社長は未来予知とかできるんですか?」
それに対して俺はカッコ良く含み笑いをして(記者は女性でめっちゃ引いてたbyツバキ)
「未来予知?はは、俺天才だからできちゃうんだよねー」
その記事は雑誌に載ることはなかったという…。
ゴホン!全く、変なことを言わせるから載らないんだ。もっとまともな記者を呼んで欲しかった。
あーあ、早く金が欲しいなぁ。
ピロン!
(ん?メールか…)
無料でメールを受け取るとは癪だが大事な要件のメールだと無視すると怒られる可能性があるので止む無く手に取る。
『今学校終わったよ。今からそっちの会社に行ってもいい?』
ああ、ツバキからか…。
『知らん』
俺はそう綴ったメールを送る。
俺にとって一番は金で、二番は自分だ。でも、今は違う。
一番は金で、二番はあいつだ。
そうだな、まずはあいつのために金を稼ぐか。
もしかしたらこの時点で既に一番と二番の順序が入れ替わっているかもしれない。
俺が手に入れたものは金なんかでは絶対に買えない「愛」だ。
ヒロミafter
俺が暗闇に頼んだのは「人」だ。まずはこのコミュ障を治して人とつながることから始めたいと思ったから。
「おいおい、どうなってんだ?これ」
俺は起床した瞬間に困惑する。確か昨日は「人」の願い通り一つの出会いの場所の一つである飲み会に強引につれて来られて最初はそれなりに楽しく飲んでいたのだが、途中で必要以上に女の人に話しかけられて…そこからは覚えていない。
うーん、現状をきちんと把握することが大切だよな。えーと、ここは何かしらのホテルで俺はそこのベッドで起きた。うん、そして横に昨日話しかけられまくった女の人が横たわって…
(…一体記憶がない時俺はなにをしたんだ?ま、まさか変なことしたんじゃないだろうな。いや、この状況から考えて確実に…)
もう、考えることをやめよう。悲しくなってくるから。
それにしてもこの体質にも困ったものだ。二重人格というのかどういうのか知らないが極度に緊張してしまうと記憶が飛んでイケメンの俺が出現するらしい。特に飲み会などではかなり緊張するので終わった後は女を一抱えなんてこともあったりなかったり…。
だけどこの頃は完全に記憶がなくなるということも無くなって来て、例えばつい最近の会社のプレゼンなんかでは、ある程度人格を保ったまま別人格が自分の体を操っていたということがあった。
なんというか、案外自分が他人のような気がして、でもこれも自分だと思う自分もいて、とにかくいつかこういう人になりたいと思った。いや、なれるはずだ。だってやっぱりあのイケメンの俺も俺なんだから。
「ぅ…ぅうん…」
横から声が聞こえて来たのでそちらを振り向くと例の飲み会での女性が起きようとしていた。
それを静かに見つめる。
「う、うーん。ここどこ?」
その女性は起き上がった瞬間にボーッと周りを見回して首を捻る。どうやら彼女も記憶がないみたいだ。多分酒が要因だろう。
困惑しているみたいだしここは喋れる男としての器量を示す場として爽やかに挨拶してコミュ障を脱退しようか。
「おはよう。とても気持ちのいい朝だね。小鳥のさえずりが自然と耳に届いてくるよ」
やべえ超爽やかだ。今世紀最大の爽やかさだ。
「ぎゃー、お化けみたいな変態!!」
バチーン
「ふええええぇぇ!帰る〜」
ダダダダダダダダ…スゥイーン
俺が悪いのか?てか、全裸で帰るのか?叩かれた頬がヒリヒリして地味に痛い。
「ふふ…」
ああ…全く…
「あっはっは。はは…くくく」
楽しいなぁ。人生ってのはこんなにも楽しいものだったのか。
頬がヒリヒリと痛む。二重人格で二つの顔をあわせ持つ。そして…こんな俺でも仲間と呼べる人たちがいる。
もう俺の世界は死と生の狭間にいる殺人鬼なんかじゃない。そもそも変な能力なんてなくたってこんなにも破天荒な日々を送れる。人生なんて頑張れば変えられるんだ。
俺みたいにモノクロの世界から色のある世界へ飛び込むことだってできるんだ。
俺が得たものそれは「希望」
かつては絶望したこの世界に皆が光を注いでくれた。
だから俺は今すごく充実してる。
ユウafter
こんにちはユウです。久しぶりだね。皆のafterはどうだったかな?そんなことどうでもいい?俺はユウちゃんのことしか見えていないんだ?あはは、そう言ってくれる人がいたら嬉しいな。だけど皆のこともちゃんと見てあげてね。
さて、皆は暗闇から願いを叶えてもらって少し後の話だったけど、私だけあの出来事から数年後の話だ。
あの出来事から大分経って、特にあれから怪しいこともなくそこそこ平凡な生活を私はしていた。そして、とうとう私は高校生になったのだ。まあ、私は成績がいい方ではなかったから中学三年生の時に必死で勉強してなんとか中堅当たりの高校に入ることができた。
高校生になったからといってクラスメイトなど以外で特に変化という変化はないけど…いや、あった。高校になってから私を若干悩ませている変化が。
『ああ、授業だりぃなぁ』
『よし、ここはこうすればいいわけで…だから…やった!解けた!』
『俺の力の覚醒はまだか。まだ生贄が必要だというのか。ククッいいだろうこの俺様の力を全世界に…って先生に当てられたし。今どこやってるの?』
もちろん高校生に上がったからといって心の中の声が聞こえるという能力を失ったわけじゃない。ちゃんと耳を塞げば聞こえる。
この能力が私を悩ませている要因というわけじゃない。
『ああ、ユウさん。可愛いなぁ』
お、やっと聞き取れた。そう、これが私を少し悩んでいることだ。
なぜか高校生になってからやたらとモテる。いや、別に嫌なわけじゃないけどね。でも、ねぇ。やっぱりいろんな人の気持ちが聞けると悩んじゃうよね。それはもう恋愛に関してはいろいろなねじれがあるから簡単に決めていいことじゃないと思うし…あーあ困ったなぁ。
昼休み
もう、自分だけでは抱えきれない悩みをできたばかりの友人に話してみた。
「あの、さ。死にたいの?」
ですよねー。
「まあ、別にいいんだけどさ。大体ユウは天然だし」
「私って天然なのかな」
「自覚がないあたりがさすがと言わざるを得ないわー」
「えー、そう?」
まあ、こんな悩み相談したら普通嫌がられるのにきちんと聞いてくれるあたり嬉しい。
「でもね、私なんて物凄く魅力ないのになんでこんなにモテるんだろうって思っちゃって気になるんだよね」
私が気になっていたのはこれだ。私なんてなにも知らずに見れば平凡だし成績に至っては悪い方だ。なのになぜモテるんだろうと思ったのだ。
「んー、私もそこんとこわかんないんだけど、多分なんかユウって絶対に屈さない強い雰囲気があるじゃない。そこに惹かれてるんじゃない?」
「んーそんな雰囲気あるかなぁ」
「やっぱり自覚がないかぁ。もう、その華奢なからだからは想像がつかないくらい強そうなイメージ出てるんだけどなぁ。どこでそんな強さを身につけたのか教えて欲しいくらいなんだけど」
「あはは、自覚がないのにどこで身につけたのかなんてわかるわけないよ」
「そりゃそうよねー」
そこで二人とも小さく笑い合う。
ぶっちゃけ私はその強さの原因に心当たりがある。
そりゃ悪魔と出会って、変な奴らと出会って、何度も人の死を目の当たりにしたら自然と強くなるに決まっているからね。
放課後
よし!授業終わったー。あー眠。こういう時は家に帰って料理でもするかぁ。
「あの、ユウさん?」
この、帰り際のテンション上がっているタイミングで声をかけられた。誰だろうと思ってそちらを振り向いているとそこには「二代目源内橋 果汁院梨林檎」君がいた。この人は同じクラスで結構かっこ良くて優しいから確か学年で17人くらいの女の子を惚れさせている男の子だ。それだけであれば問題ないんだけど源内橋君はその17人を無視して私のことが好きというなんとも17個の恨みを買われそうなことをしているのだ。
「ん?どうしたの源内橋君」
まあ、こんな風になにも知らない風に装うも全てを見透かしている私はこれから起こることを完璧に予想できる。
「あの、ちょっといいかな。ここじゃ人が多すぎていいづらいから」
いや、見透かしてなくてもこの言い方じゃ誰でもこれから起こることを予想できるか…。
とりあえず料理はお預けってことだけは理解できた。
体育館裏
私と源内橋君は相対して適当な場所に立ち止まる。
「あの、ごめんね時間をとらせて」
ここできちんと謝ってくるあたり紳士だ。
「ううん私も部活とかで忙しいとかないから全然大丈夫だよ」
そう言うと、ホッとしたような様子の表情になったかと思うと急に真剣な顔つきになって私のことを見つめてきた。
「ユウさん。本当に急だけど、僕と付き合ってくれませんか?」
なにを言うかわかっていたので既に用意していた答えをそのまま口に出す。
「あの、ごめんなさい」
急に風がざわめき出す。これは源内橋君の心のざわめきを具現化したものなのか。
「そっか…その、負け惜しみと言うか、他に好きな人でもいるの?」
そんな予想外の質問をされてきた。
私は少し悩み結局そのままのことを伝えようと決心する。
「いや、好きな人はいないよ」
そして笑う
「ただ捨てきれない人がいるだけ」
あの日から私は「白ちゃん」を失ったままだ。
これでウラカキは終わりですね。




