とっておきの作戦
ああ、クソネミ。なんかこの頃何もないから平穏な日常を過ごしてます。でも、平和というのは戦争と戦争の合間の期間らしいからなにかしら、この平穏の有意義な活用方法を模索して行こうと思います
俺たちは森の道を駆け抜ける。銃声はこのロストという島のど真ん中にある周りより少し高いという印象しかない山から聞こえた。この山を仮にロスト山という名前をつける。そこにシグマがすでにその山に向かって走っているので俺としては着いて行くことしかできないのである。だって一人怖いんだもん。
「なあ、シグマ」
「はいよ。どうした?」
俺は山に向かって走っている(走らされている)時にシグマに話しかける。無論足は動かしたままだが。
「なんでお前は遠くからの狙撃から俺をかばってくれた時山見て喜んでただろ?なんでだよ?撃たれたのに」
「ん?だって相手はスナイパーだよ。隠れて殺しての繰り返し野郎だよ。そういう奴もいるだろうなぁとは思っていたけどさぁ、まさか向こうから勝手に殺すのをしくじっちゃってくれて、これはもう攻めるしかないね。隠れているやつも見つけ出すのは至難の技だしね」
「へ、へえ。でも、近距離もいけるようなやつかもよ」
「でも、遠距離型ってだいたい近距離苦手でしょ。大体可能性論を語ってたらキリねーッつの。私はこういうのは直感でいくの」
「まあ、俺は別について行くしかしないけど、一人で突っ走ったりすんなよ」
「一番言われたくない人に言われたってこういう時のことを言うのかしら」
なんだかものすごく失礼なことを言われた気分だが、もうそろそろ目的地のロストの中心にあるロスト山に着くので余計な感情は排除し、気を引き締める
ロスト山は特に登山道があるわけでもないし、ましてや草木の一本も生えていない。今までの森の風景が嘘のような枯れた土地だ。地面は硬く乾いた土で覆われている。でもまあ、俺としてはこんな場所が戦いやすいとかはないからどんな場所でもかかって来いやー!って感じなのだがシグマはどうだかわからない。遠くから見たらのっぺりとした平らな地肌に見えたロスト山は近くに来ると所々に大きな岩が配置されている。
「とりあえず山の頂上まで行きましょうか」
「え?ここから見つけるんじゃないの?」
俺たちの現在地はロスト山の北側のふもとにある森のところだ。あと数歩進めば草木の一本もない土地に足を踏み込める。まずは情報収集ということでここでロスト山を眺めているのだが人影はなくもうとっくに俺たちを狙撃した人物はどこかへと逃げたものと思われる。だが、万が一ということもあるのでここでこうしているというのが現状だ
「もう、敵も見つからないしアジトに帰ろうぜ」
「んー、でも、やっぱりちゃんと探すには頂上の方がいいんだよね。見晴らしいいし、ヤッホーって言いたいし。もしかしたら普通に南側の斜面に行っただけかもしれねえしさ」
「でも頂上に行くなんて格好の的だろ。わざわざ死にに行くようなもんじゃないのか?」
「その点は大丈夫。何のために二人いると思ってるの。一人が撃たれてももう一人が撃てば結局ダメージを与えられる。しかも相手の下から撃つのって結構難しいんだぜ」
「じゃあ、殺られるまえに殺れって感じか」
「まあ、そういう感じ。善は急げだ。サッサと行こうか」
そう言ってシグマは一度周りを見回して俺にジェスチャーで三秒後に走り出すことを指示する。
ふう。もしかしたら三秒後にか殺し合いが始まるのかもしれない。俺はまた人を殺すことを躊躇うのかもしれない。その人の全てを壊す。殺すとはそういうことだ。
でも、こんなこと言ってもいまさらだよな。すでに俺は人を殺しているのだから
なら、一人の人を殺したから二人を殺していいというふうには当然ならないが、二人を殺して二人が救われると考えればまだ、俺は人を殺せる。
俺は一つ大きく深呼吸をして拳を握りしめる。
これじゃダメだ。これじゃただ逃げ道を作っただけじゃないか。自分は仕方なく殺したと言いたいだけじゃないか。
「なあ、シグマ。お前は引き金を引くときどんな気持ちでやってる?」
「そうだな。普通に命をとってしまってごめんね。って感じで撃ってるよ。あの人と会いたいから仕方ないと思うようにはしているけど、やっぱり罪悪感はぬぐいきれないね」
「そうか、俺だってユウに会いたい。仕方ないって思いたいよ」
なんだみんな同じ気持ちなんだ。俺だけが背負っているわけじゃないんだ。そう思うと少し肩の重荷が消えたような感じになる。
「てか、これ絶対三秒すぎたよ。おら!行くぞ!」
「おう!」
そうして俺たちはロスト山に足を踏み入れた
山といっても決して高いわけではないこのロスト山。しかし意外にもその坂は急で全力で走っても全然進んだ気がしない。
俺たちはロスト山の小石で滑る斜面に急な坂という悪条件の中で必死になってようやく八合目についた時だった。
「Happy New Year!あけましておめでとう!」
およそ数メートル先の岩の陰から俺と同じくらいの身長の男が出てきて、ひどくしゃがれ、耳を塞ぎたくなるほどの大きな声で叫んだ。
「そんな君たちにはお年玉だ。ちゃんとその胸で受け止めてくれよ」
同時に二回の銃声が鳴り響く
危なかった。とっさに右にある岩の陰に飛び込まなければ死んでいた。シグマもまた俺とは違う岩の陰に隠れている。
「あ?逃げられた?んー?岩の陰に隠れちゃったか。くそ!めんどくせえ。本当にめんどくせえよ。何分ここで待ってたと思ってんだクソッタレ」
俺たちを急に撃ってきた男はなにやら俺たちに向かって罵声を浴びせ続けている。普通に不快だ。一応この男の声は一旦無視しよう
「おいシグマ」
「なんだい?」
「あいつに関しては色々と気になる点が多いがあいつがお前の肩をぶち抜いた奴でいいんだよな」
「十中八九そうだろうねぇ。いや、これは言い過ぎか。でも、私の直感でこいつが私の肩をぶち抜いたよ。断言できる」
「直感で断言ってすげえな。じゃあ、二つ目の質問だ。あいつはなんで銃を二つ持っているんだ?」
「そういう武器なんじゃない?もう一丁銃が使える的な」
「お前は遠距離のスナイパーのやつは近づかれたら弱いとか言ってなかったっけ?」
「たまにいるんだよな〜。こういう近距離に来てもバリバリ戦えちゃうぜタイプ。銃が二つって私たちの有利な点である手数をイーブンにしてくれちゃってるじゃないか」
「お前の経験則あてにならね〜。じゃあ、どうやって戦うんだよ」
「そうだね。まあ、あれだ。今回は戦わない。このまま隠れ続けて、相手の精神的疲労が溜まった隙に逃げる。OK?」
「了解」
シグマの指示のもと俺は一応周りを見ながら岩にもたれかかり力を抜く。
「こらこら休憩じゃあないんですよ」
「いやぁ、でも、俺みたいなガキンチョが…」
ガガァン
また二度同時の銃声が鳴り響く。もちろん俺たちは岩に隠れているのでその銃弾が穿ったのは岩の表面ということになるのだが
「ほらぁ、出てこないとその岩ごとぶち抜いちゃうよ?いいの?良くないだろ。ほら出ておいで、お菓子もあるよ」
くそ、そんな誘い今時小学生すらかからねえよ。
男は二丁の銃の引き金を引き俺たちの隠れている二つの岩を同時に撃ち続けている。
「全く。往生際の悪い奴らだ」
往生際の悪い奴はお前だと俺は思うんだけどな
「俺の名前はリスタリスカ=レッドドラゴンだ。リスタでいいぞ。お前たちの名前を教えてくれ」
急に自己紹介をしてくる男。リスタという呼称らしい。でも、相手に自己紹介したからって俺たちも自己紹介しなくてはならないのだろうか?
「私の名前はファイナルヘヴンよ」
シグマは余裕で偽名を使いやがった。てか、多分シグマが名乗ったのは気分の問題なんだろうな。仕方ない便乗するか
「俺の名前はラストヘルだ」
「そうか、まあお前たちの名前なんてどうでもいいな」
じゃあなんで聞いたんだよ
「いやぁ、俺の未練を聞いてくれよ」
今度はなんだ。お前の未練なんて知ったこっちゃねえんだよ。その間にも銃声は絶え間無く…いや、五秒間に二度鳴り響く
「俺が生きていた頃の話だ。俺は大量殺人鬼だった」
おっかねえな
「そして俺はある目標をたてた。生涯で五百人の人を殺すと」
スケールがデカすぎて焦点が合わねえよ
「だけど、この目標…いや、夢と言ってもいい。この夢は叶えることができなかった。ちょうど四百八十五人目を殺したところで俺は死んでしまってな」
こいつはなんでこんなどうでもいい話を長々としているんだ?
「だから、俺は生き返ってちゃんと五百人殺す。だからお前ら俺を手伝えよ」
ピシッ
岩の方からなにやら不吉な音が聞こえる。
「おい、シグマ。なんだこの音は?」
「うん。そうだなぁ。普通に岩にヒビが入った音なんじゃね?」
「いや、それ絶対やべえだろ。このまま岩を撃たれ続けたらいつか割れるぞ」
「やばいね。これは逃げようか。私は西から逃げるから、あんたは東から逃げて、俗に言う人海戦術だ。OK?」
「分かった」
「じゃあ、五秒後に行動開始だから」
俺を静かに一つ頷き心の中で五秒カウントする
…4、3、2…1
俺は東に向かって思い切りダッシュした。
『あのさあ、やっぱり極限状態で選択を迫られた場合は直感を頼れよ。そういう状況で考えたって結構無意味なんだぜ』
『えーあんたはいつもそうやって物事を決めてるの?』
『まあいつもじゃねえけどだいたい直感だ』
『へえ、じゃあ私も直感に頼ってみるよ』
『ん、あともう一つ俺たちにとって一番大切なことがある。なんだと思う?』
『そうだなぁ。何事にも動じない精神とか、屈強な肉体とかかな?』
『はずれだ。それらももちろん大切で重要だが、僕が思うに一番大切なのは逃げる技術だ』
『逃げる技術?ダッセ。地味だし』
『口を閉じろ。まずはな、何をするにしても生きていることが大前提だ。逃げる技術は言い換えれば生きる技術と言えよう』
『そんな大げさなことかな?」
『うるせえ。大体逃げることが重要じゃないと言うなら逃げるが勝ちなんて言葉はできないだろ。この言葉がいかに逃げることが大切かを証明している』
『わかったわかった。逃げることは大切ってことは十分に分かった。でも結局相手から頑張って離れればいいんでしょ』
『まあ、具体的にはそうだがな。全力で背中向けて走ったり、目くらましして走ったり、走ったりな。でもな二人いる時はもっといい方法がある』
『なんだろうな。人海戦術とかかな』
『おお。それもイカした名案だ。でもなもっと安全で楽な方法があるぜ』
「おい、お前はなんでここに残ってるんだ?」
狂気の殺人者ラスタが私に聞いてくる
「私って結構根に持つタイプでさ、あんたにつけられた右肩の傷痛かったなぁ」
私は大げさに右肩をさすり銃をラスタに向ける
『何よ。もっと楽な方法って』
彼はニンマリと笑うとこう言った
『囮大作戦だ』
あの人の言葉が私の頭の中で蘇る
よく見たら前書きどうしたんだろう。修学旅行前で頭がおかしくなったのかな?




