前兆
安定した投稿頻度
私は邪魔者かと思い玄関につながる廊下からベランダに移動した。私の頬を叩く風は冷たく冬の訪れを感じさせる。そういえば白ちゃんが死んでから随分と時間が経っているが生き返らせた時周りの反応はどうなるのだろう。私は少し考えたてみるがすぐにそれを放棄した。悪魔の考えることを理解しようとするなんて無理なのだ。
「僕がなんだって?」
「暗闇さん!」
私は驚く。唐突に現れるのはいつものことだが私たちにどうしても伝えなくてはならない事柄がある時以外は影の中で眺めているらしいのだ。しかし、このタイミングでは明らかに伝えるべきことなどないはずだ。
「いやいや、何か誤解しているようだけど僕は結構人と話すのは好きだよ。今までがたまたまそういう事柄だけだったというだけなんだ」
「そうなんだ…。さりげなく心を読まれた気がするけど」
「気のせいだよ。そんなことより何か僕に聞きたいことがあるんじゃないのかい」
聞きたいこと?ああ、白ちゃんについてだろうか
「うん。暗闇さん白ちゃんのことについてだけど…」
私は自分の疑問を暗闇に言った。
「ふむふむ、なるほどね。君の疑問についてはわかったよ。これは答えないと今後のモチベーションに関わるね」
暗闇は続けて口を開く。
「彼を生き返らせた時の社会復帰は万全だよ。彼が死んだと知っている人の記憶を消して、この数ヶ月の彼の行動の記憶を適当に入れておけば問題なく何もなかったかのように彼は生きることができるよ」
暗闇はさも当然そうに言い放つが私はその言葉に薄ら寒いものを覚える。暗闇が言ったことは簡単に言うと偽りの記憶をかなりの規模で埋め込むということだ。そんなことを簡単そうに言う暗闇はやはり悪魔なんだと再認識される。
「まあ、そんな感じだから心配いらないよ。お、そろそろ戻った方がいいんじゃない?」
暗闇がマンションの部屋の方を指差す。そこを見ると私以外のメンバーはすでに集まっているようだった。私の影はすでに通常の雰囲気を纏っており、そこにはもう悪魔いなかった。私は暗闇が帰ったことを確認すると部屋の中に入る。
「ヒロミさん。おかえりなさい」
私は部屋に入ってまずヒロミに向かって挨拶をする。
「あ、ああ。ユウちゃんか。た、ただいま」
「私は会社のこととかわかりませんけど、その、プレゼンはどんな感じでした?」
「心配してくれてたのか。ありがとう。でも、正直何も覚えてないんだ。ごめんな」
「あ、そうなんですか」
「でも、気がついた時にはなぜか拍手があがってた。なんでだろうな」
そして、ヒロミは床を見てボーッとする。なにはともあれプレゼンは成功したらしい。私はホッと胸をなでおろすが、 こんなもの序章に過ぎない。私が一番気になっていることはもちろんツバキとレンの関係だ。久しぶりにレンがかっこいいところ……間違えた、初めてレンがかっこいいところを見せたのだから、ツバキは承諾しただろうと思う。だが、今の空気は普通すぎる。もっと面白いことがあってもいいはずだ。仕方ないので私は耳を塞いで心の声を聞くことにした。
『付き合ったけど何をすればいいのかな?』
『付き合ったけど何をすればいいんだ』
『はぁ、もう、プレゼンなんてやめて欲しい。ミジンコっていいな。なにもせずにフヨフヨしてて、緊張もないんだろうな』
どうやらツバキはレンの告白を承諾したらしいなので二人はもうリア充なのだが、告白する前よりギクシャクしている気がする。しょうがない。これは私が頑張らなくては
「ねえ、レン」
「…なんだ?」
おお、これがアルバイトの力!お金を渡さずとも話してくれる
「ツバキさんとデートでも行きなよ」
「なんで俺がデートなんか……」
スッ(一万円を取り出す音)
「ツバキ。映画でも行かないか?」
「え?どうしたの?急に…」
「いいから。仕事も終わったし行こうぜ」
そして、レンは一人で玄関に向かってズンズン歩き始めた。
「ちょっと待ってよー」
それを追いかけるツバキ。
ガチャ……バタン
仲良く二人でという感じではなかったが二人揃ってオフィスを出た。ふう、これでなにか進展があればいいのだが…急に心配になってきた。
「あの、ヒロミさん。尾行しません?」
『俺なんて…もう………ん?なに、尾行だと!おもしろそうじゃないか!いや、ここで子供みたいな反応を示すとユウちゃんに嫌われるかもしれない。あくまでここは余裕をもって大人っぽく…いや、待てよ……」
「ああ」
どうやらヒロミはやる気まんまんらしい。
「じゃあ追いましょう。ここら辺で映画館といったらあそこしかないはずです」
夏休みに新しくできた映画館『すごシネマ』
この映画館は何がすごいのかは分からないがなんかとにかくすごいらしい。私がわかることといえばとにかく大きくて綺麗ということだけだ。
「多分ここにいるはずなんですけど…あっ!いましたよ」
そこにはギリギリ二人一緒にいると判断されるような距離を保っているツバキとレンがいた。二人とも特に会話はなく、無言のまま映画のチケットを取る。私は二人の心の声を聞いてどの映画を見るか確かめるが、、なんだろうこれ?
ツバキとレンが選んだ映画は『あえてその裏をかく』という題名の映画だった。正直聞いたことのない名前の映画だ。ここだけで上映しているB級映画だろうか?そんな疑問を胸にしまい私とヒロミは同じチケットを買い、映画の上映場所へと急いで足を動かした。
私はツバキとレンの座っている席から二段上の席を陣取って二人の様子を伺うことにした。客は私たちの他にポツリポツリといる程度だ。ツバキとレンはなにやら一つのポップコーンを買っており、二人で一緒にそれをつついているのだが、どこか遠慮している感じがする。でも、ここで余計なちょっかいを出すより二人に任せた方がいいと判断した私は目の前にあるポップコーンをかじりながら映画が始まるのを待つ。そして、じきに部屋が暗くなり映画が始まった。
えー、結果から言おう。面白くなかった。
『あえてその裏をかく』の内容としては最初に主人公が上級生にいじめられるシーンから始まる。それをとある少年に助けられ主人公はある決意をする「ラーメン屋になる」という決意だ。そして、そのあと父にその決意を伝えるが父は猛反対をする。しかし、主人公の決意はかたく立派なラーメン屋を作るために様々な修行をするのだが、スカイダイビングしたり、中国で早食い対決したり、終盤になってくると南極に行こうとしたけど北極に間違って行ってしまったのにも関わらず、特に気にせず全裸になって正座をするという修行をしてた。すると急に家に帰ってくるというシーンになり、その家には老いて布団で横たわっている主人公の父がいて、それを見てショックを受けていたときに急に扉が開けられ主人公の兄が出てくる。その兄が主人公にラーメンを出すと主人公は泣きながら「うまい」と言って終わり。
もう裏をかきすぎてわけがわからなかった。むしろ横で号泣していたヒロミはどこで感動したのだろうか。
まあ、映画の内容や感想は今はどうでもいい。問題はツバキとレンだ。どちらが映画を選んだのかわからないがこれだと雰囲気最悪状態ではないだろうか。そう思いただいま絶賛尾行中の二人の方を見る。意外にも楽しそうに笑いながら話している。どうやら今見た映画の話をしているみたいだ。話題に困った時に映画というものは役に立つものだ。そんな感じで喫茶店やCDショップに行きデートを満喫していた。
そして、とうとう日も暮れ帰る時間になった頃ひと気のない道でツバキとレンは立ち止まる。
「今日は楽しかった。あんたにしては頑張ったんじゃないの?」
私たちはうまく身を隠しているがそれ以外に人がいないためツバキの声が聞こえる
「そうか、それは良かった」
「また、デートしようね」
「気が向いたらな」
しばらく静寂が場を支配する。
「あぁぁ!」
しかしその静寂は突然のツバキの叫び声によってぶち壊される
「ど、どうした⁉︎」
流石のレンも焦っている。
「オフィスに戻るよ。みんなに伝えたいことがあるから」
「は?何言ってんだ?ユウとヒロミならそこにいるだろ」
そう言って私たちの方を指差すレン。私たちは苦笑いをしながら物陰から出る。
「いやぁ、ずっと尾行してました」
「結構バレバレだったぞ」
「気がついてなかったの私だけなの?何はともあれ、これでひとまずみんな揃ったね」
「うん、ちゃんとヒロミさんもいます」
「よし!じゃあ、合コンしようか」
「え?」
「だから、GO・U・KO・Nしようか」
ツバキが何を言っているのか私にはわからなかった。その前に合コンって何?
次の話の前兆みたいなやつです。




