学校内身分制度
久しぶりの過去編ですよ。少々強引っぽいのはご勘弁ください
「ツバキ!」
「ツバキさん」
「四ノ宮さん」
「ツバキ〜」
私が歩くたびに誰かが話しかけてくる。自分で言うのもあれだが、私は人気者だと思う。高校三年生の夏の時点で私の名前を知らない人などいないだろうと思うくらいに。
「ねえ、ツバキ。早く帰ろ」
「あ、うん。ちょっと待ってこれ先生に提出しないと」
「おお、学級委員長は大変だねぇ」
「同情するなら手伝ってよ」
「えー、面倒くさいからやだよ」
「そんな〜」
そんな風に話しかけてきたのは親友のアキだった。アキは私と違って教室でも特に目立つというわけではなく、どちらかというと地味な方だ。なので教室であまり話すことはないのだが、毎日一緒に下校をする仲だった。
私は先生に学級委員長としてのなんちゃらがなんちゃらしてなんちゃらというなんちゃらを渡して、職員室を出る。
「よし!渡し終わったよ。帰ろうか」
「うん」
私はアキと下校する時間が一日の中で一番好きだった。なんというのだろうか。気を使わなくていいのだ。他の人ならばなぜか感じてしまう自分というものを押し潰す感じがアキといるときには全く感じない。その雰囲気のせいで私は高校二年生の出会った数日で自分の生まれつきの能力を話してしまうほどだった。
「明日は文化祭の出し物を決めるから休んじゃダメだからね」
「どうせ行ったって私の意見なんて聞いてもらえないと思うけどな」
「そんなこと言わずに絶対来ること。分かった?」
「はーい」
そして、私たちはとある交差点で別れる。
私の家はその交差点からそれ程遠くない場所にあるアパートだ。親はいない。一人暮らしだ。理由は私が親のことを嫌っているからだ。だから逃げてきた。親もそれを許しているあたり私なんてどうでもいいのだろう。私は家に着き冷蔵庫からお茶を取り出し少し飲んだ後、机に座り、勉強しようとする。だが…全くやる気が出ない。私は勉強をやめて、ため息をつきながらベットに寝転がる。
疲れたな
私はそんなことを思った。誰かに合わせて生きるこの生活に飽きた。以前アキになんでそんなに自然体でいられるのか聞いたことがある。その時アキはこう答えたのだった
「簡単だよ。楽してるからに決まってるじゃん」
「楽?」
「そうそう。気の合う人とは話して、気の合わない人とは話さない。とても楽だよ」
私はそんな考え方のアキが好きだった。憧れていた。だから今の無理をしている自分がだんだんと嫌になってきた。だから…だから、あんなことが起こったのだろう。
次の日
先生に時間をとってもらい文化祭の出し物を決めるクラス会議を学級委員長である私が指揮を執って進行して行った。経過は順調で、滞りなく会議は進んで行った。そんな中一番前で寝ている男子がいた。流石に私も腹が立ち、起こそうと思い男子の肩を叩こうと手を伸ばす。だが、伸ばした手が筆箱に触れ筆箱が机から落ちた。普通ならここで筆箱は床につきやかましい音を教室中に響かせるはずだ。だが、その筆箱は床には触れなかった。なぜなら筆箱は宙で浮いていたから。クラスの時間が止まったようにみんな動かなくなり、そして段々とざわつき始める
「なんだ…これ…」
「え?筆箱が浮いてるよ」
「どういうことなんだ?」
そんな疑問の声が上がり続ける。それを遮るように私は大きな声で言った
「あ、ごめんごめん。これは実は私の超能力なんだ」
そして、筆箱を自分の手の中に移動させる
「まあ、気にしないでよ」
そう言って私は笑う。その時は丸く収まったように見えた。その日アキと話す時にもびっくりしたくらいの反応しかなかったので私はこのことをあまり気にしないことにした。
次の日
なにかがおかしい。
私は学校に来てそう思った。いつもなら話しかけかけてくる人たちが私に対して少し冷たいというより、もはや目すら合わせてくれない。私は疑問に思いつつも教室に入るとざわついていた教室が一瞬で黙る。私は不思議に思いつつ机に座ると机の中には紙くずが入っていた。
その日から私へのいじめが始まった
私がかつて感じていた心の重圧は周りと合わせる必要がなくなったのでなくなったのだが、その代わりに心を絞られるような悲しみを感じた。学校に行っては物を投げられ悪口を言われるような日々を繰り返した。それでもアキだけは私に変わらず接してくれた。
「なんでアキは私に普通に接してくれるの?」
「え?なんでって、嫌いになる理由がないから、接する態度も変える必要ないじゃん」
アキはそう言ってくれた。私が学校に行けているのはアキの存在が大きい。アキのおかげでなんとか精神のバランスを保てていた。
ある日の放課後
私はアキと帰る前にトイレに行こうと教室から一番近い女子トイレに向かう。するとその女子トイレの前で女子三人が立って話していた。そのうち二人はうちのクラスでの発言力の強い女子で私がいじめられている今、彼女たちがクラスの主導権を握っている。そしてもう一人の女子はアキだった
「マジでツバキウザいよね」
女子生徒Aが大声で私のことについて話し出す
「ホント。今まであんなに人に指図しておいてちょっと叩かれたくらいで根暗になってさ。弱すぎw」
女子生徒Bの言葉に笑う二人。いや、アキは笑ってなくて、女子生徒Bが自分で言って自分で笑っている。
「マジでキモいと思わない?アキ」
「ホントはあいつのこと実際嫌いっしょ」
女子生徒二人はアキに話を振る
「いや、その、別に…ツバキは…」
「あ?」
「いや、その…あ、うん」
「ツバキのことなんて…」
「嫌いだよ」
私は気づいた時にはアパートの自分の部屋の中にいた。インターホンがしきりに鳴り響き少女の叫び声が私の耳に聞こえてくる。もちろんその叫び声の主はアキだった。「違う」だの「あれは雰囲気に流されて」だの叫んでいる。しかし、数十分経つとその声も止む。部屋の中は静寂に包まれる。すると、嫌でも考えてしまう。なんで、こんなことになったのだろうと。私は時間を遡り事の発端を確かめようとする。
男子生徒の筆箱をサイコキネシスで止めた時
多分それが事の発端だろう。なんで、あんなことをしてしまったのだろう。別に反射的に発動するような能力ではない。ならばどのような意図があって能力を使ったのだろう。私は少し考え一つの結論へと導かれる。多分みんなと仲良くなりたかっただけなんだと思う。私はアキと同じようにみんなと接したくてあんなことをしたのだろう。アキとみんなの違いを探すと私の能力を知っているか知っていないかということに思い当たった。でも、違ったのだ。そんなことで友達なんてできやしない。アキはアキだから友達になれたのだ。アキが能力を知っていたからではない。それを私のわがままで振り回してしまい。私のことを嫌いだと言わせてしまった。アキのあの言葉は本心だとは思っていない。でも、たとえ嘘だとしてもアキの言葉は私の胸に突き刺さる。私の間違いで起こってしまったことで自分が傷つく。自業自得だ。アキにも辛い思いをさせてる。
ああ、やり直したい。あの、文化祭の出し物を決める日に戻りたい。あんなことさえなければ、今までと変わらない日常だったのに。
大きな変化なんていらない。あの日をもう一度やり直したい。いつも通りの平凡な日常をもう一度だけ…
「じゃあ、やり直そうか」
でもそんなことはできない。無理だ。
「僕に手を貸せばできるよ」
だから、もう、全部諦めよう。
「諦めちゃダメだよ。ほら、君への希望の光は見えてるよ」
ん?私の心の声に返事を返す声がある。
「誰?」
私はその声に向かって話しかける
「やっと気がついてくれたね。今困っているようだね」
「なに?冷やかしにきたの?」
「いやいや、そんな無益なことはしないよ。僕はただ君に救いの手を差し伸べようと思ってね」
その時窓から強烈な西日が差し込んできて、私の影が伸びる
「僕のことを助けてくれたら君の願い事を一つ叶えてあげるよ」
その私の影がニヤリと笑った
「これで分かった?私が何を求めているか」
私はツバキの過去を覗いた。今思うと確かにツバキはアンバランスだった。明るくて世話焼きで家事もできるお姉さんと言った感じだったのだが、思い返すとツバキが積極的に話すことはあるにしても、沈黙の時でもわりと平気そうだし、みんなの行動の指針を決めるのもツバキより最年少の私の方が多かった気がする。
「私はこのままでいいの」
その言葉に私はツバキの過去を見る前の時のように言い返すことができない。ツバキはイスから立ち上がり玄関のドアに向かって歩き出す。
「下手に動いて今を壊したくない。今の状態が最高の状況なの。だから…だから、現状維持こそが大切なのよ」
「俺は今のままなんて嫌だ」
ツバキが開けようとしていたドアが一足先に開かれ、声が聞こえる。その突然の声にツバキは驚いて、その場でピタリと止まる
「え?レ…レン?」
その声の主はレンだった
「ツバキ、俺は今のままなんて嫌だ」
「だから…」
「俺と付き合ってくれ」
細かいことを言うと、最初にツバキの机の中に紙くずを入れていたのはアキとトイレで話していた女子生徒二人です。他の人たちは普通なら女子生徒が紙くずを入れるのを止めるところをツバキが超能力を使ったことにより心の距離感が保てなくなり、何も言えないでいます。その後その女子生徒が権力を持っていくので、従わざるを得ない状況になってしまい。ツバキはクラスのみんなからいじめられることになってしまったのです




