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あえてその裏をかく  作者: @
第二章 命の天秤
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命の天秤

この章のラストです。

残留思念


その表現しかないだろう。ヒロミの思いが私に流れ込んできた。


「ほらほら、泣いてないで未来を見ようじゃないか。君たちの未来は明るいよ」


暗闇が茶化したように言う。


「早く誰か願い事を言ってくれよ。帰っちゃうよ」


そうだ。私の願い事である白ちゃんの蘇生をすることができる絶好の機会なのだ。このために私は頑張ってきた。ヒロミの死も白ちゃんが生き返ればじきに忘れるだろう。


そう思い私は立ち上がり暗闇の前に立つ。


「お、君が次だね。どんな願い事なのかな」


私は深呼吸をして十分に肺に空気を溜めてから告げる。


「ヒロミさんを生き返らせて欲しい」


その場が沈黙に支配される。そこから最初に動き出したのは暗闇だった。


「あのさ、僕がそいつを殺して僕が生き返らせるってなんかめんどくさくないかな。君のためにあの男の子の蘇生の準備もしてきたのに」


私はそれでもめげない


「それでも、ヒロミさんを生き返らせて欲しい。ヒロミさんはなんだか死んじゃ行けない気がするから…だから…」


私は言葉に詰まっていく。もうダメだと思いかけた時


「俺からもお願いする。ヒロミを生き返らせてくれ」


いつの間にか私の隣にはレンが立っていた。


「私もヒロミとはもっと話しておくべきだったと後悔してるから少しくらい話す時間は欲しいかな」


ツバキもまた私の隣に立っていた。


「みんな…」


私はツバキとレンを交互に見る。この二人も私と同じくらいに、いや、それ以上に辛い目にあっているはずなのに…

そう思うと胸がいっぱいになる。


「ありがとう」


私は小さな声でお礼を告げることしかできなかった。


「いやいや、好きでやっていることだから」


「ありがたいと思うなら金を払ってくれよ」


私は立ち上がる。


「暗闇さん!ヒロミさんを……ヒロミさんを生き返らせて!」


私は暗闇に向かって叫んだ


「そんなに大きな声出さなくても聞こえてるよ。つまり三人分の願いで生き返らせるってことでいいのかな?」


私はこくりと頷く。横にいる二人も私と同じく頷いている。


「まあ、三人分の願いになれば結果としてこっちの方が手間が省けてることになるね。よし、生き返らせよう」


暗闇は軽い感じでそう言って黒い右手でヒロミに触れる。するとヒロミは青い光に包まれ、数十秒でその光は消えた。


「まあ、こんなものでしょ。あとは数時間経てば勝手に起き上がってくるとおもうから」


そう言って黒い物体は元の私たちの影へと戻って行く。暗闇の気配は完全になくなった。私は力なく座り込む。


疲れた…


今日だけで色々ありすぎて心も体も予想以上に疲労が溜まっている。すると、上から細い手がのびてくる。


「帰りましょうか」


その手の主であるツバキは力なく笑いながら言ってきた。


「はい」


私はそのツバキの手を握り立ち上がる。


後ろでレンが怪しい動きをしている。


『もしかしてヒロミは俺一人で持って行くのかな。いや、ツバキのサイコキネシスを使えば軽いものだろ。仮に俺が持つとしても金を払わないと…』


「では、行きましょうか」


「うん、そうだね」


私とツバキはエレベーターに向かって歩き出す。


「ちょっと待ってぇ」


情けない声を上げながらヒロミを担ぎこちらに走ってくる。その姿がなんとも滑稽で私たちはついつい笑ってしまう。

こういうのをハッピーエンドというのだろうか。とにかく今という時間が楽しくて仕方が無かった。






マンションに戻りヒロミをソファで横にして私たちは適当なことをして時間を潰していた。私は台所でクッキーを焼いて時間を潰していたのだがもう少しで出来上がるというところでリビングの方が騒がしくなった。

まさかと思いリビングに駆け込む。するとそこにはと五体満足で立っているヒロミがいた。


「よっしゃー!宴じゃあ!」


ツバキがクラッカーを取り出しめちゃくちゃに鳴らし始める。レンも何やらパソコンで音楽を流してそれに合わせて踊っている。私も嬉しくなりみんなの輪の中に入りめちゃくちゃに跳ねる。ヒロミはその惨状に唖然としている。


なんというか。生きていることがめちゃくちゃ嬉しい。


結局その日ヒロミは現場把握が追いついてないようだったがそれでも楽しそうにしていた。







次の日


私たち四人はある葬式に出席していた。


ユウヤの葬式だ


来ている人は私たちを含めて六人。親族であるユウヤの父と母だけしか来ていなかった。存在の三分の一を取り戻したとはいえ、たかが三分の一であり、ユウヤの友達らしき人影は全く見えなかった。


特に目立ったことがあるわけでもなく、無事に葬式は終了した。ユウヤの親は火葬場に行ったのだが親族ではない私たちは式場に残る。私たちは式場のロビーに移動してそこにある椅子に座る。しばらく沈黙が支配するが意外な人物が話し始める。


「なあ、俺は今生きてるってことでいいんだよな」


ヒロミがみんなに向かって話しかける。


「うん、生きてるよ。心臓バクバクいってるでしょ」


ツバキの言葉に反応して胸に手を当てるヒロミ。そして、ホッとしたような顔をする。


「なんで俺なんかを生き返らせてくれたんだ。だってお前らの願いはもっと別にあったはずだろ」


「だって、ヒロミさんが生きたいって思ってたから死なせたくないと思ったんです」


私は笑顔で言う。


「たったそれだけなのに俺を生き返らせたのか?」


「はい、そうですよ」


私は少し疑問に思う。その質問の意図が汲み取れなかったからだ。しかしそれはヒロミの口から告げられる。


「だって生きたいって思いながら死ぬのって当たり前なんじゃないのか?」


私は言葉に詰まる。


「いや、その、生き返らせてくれたことにはとても感謝している。でも、本当に俺でよかったのか?」


白ちゃん……


私は白ちゃんを生き返らせるためだけに頑張ってきた。だけど今目の前にいるのはヒロミだ。でも、この結果に悔いはない。



ホントウニ?



白ちゃんだって生きたいと思っていたんじゃないのか?でも私はヒロミを生き返らせて白ちゃんを生き返らせなかった。これはヒロミと白ちゃんの命を比べてヒロミを生き返らせたということだ。


つまり私は白ちゃんを見捨てたのだ。


すると途端に私の両目から涙が出てくる。

ロビーに私の鳴き声が響き渡る。



私は白ちゃんを見捨てた。

私は白ちゃんを見殺しにした。

私が白ちゃんを殺した。

私は人殺しだ


私の頭の中でその言葉だけが反響した。






終わりました。章の名前で今回の話の名前である『命の天秤』。これは白ちゃんとヒロミの命を比べたということですね。


最後のユウの涙はユウの中で生きていた白ちゃんが生き返る可能性も消え去り完全に死んでしまったので、泣いてます。

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