殺戮者の憂鬱
ベルセルクぅぅぅ
俺には障害というものがない。耳は聞こえるし、手を自由に動かせる。反応が鈍いわけでもない。でも、強いて俺の欠陥と呼べるものがあるとするならば、それは多分俺の出生の時のあれだろうか。
俺の母親は病弱で俺を生むことも命の危険があり、また、俺の命にも危険があったらしい。
しかし、俺の母親はどうしても子供が欲しかったらしく医者に頼んでどうにか子供を産める環境を整えてもらったそうだ。
そして、俺の生まれる日
病弱な俺の母親の出産はかなりの難産だったらしい。
だが、俺は生まれた。
心臓が止まった状態で…
医者も必死になって俺を生かそうとした。だが、俺の心臓は全く動かずとうとう医者が匙を投げかけた時。
奇跡が起こった。
急に俺の心臓が動きだし産声をあげたのだ。
医者たちが揃って歓喜する。
その横で俺の母親が安らかに眠っていることも知らずに…
俺の母親はあの時に死んだ。親戚の人たちは言う。
お前の母親がお前に生きてもらうために命をくれたんだと
それは違う。全くの逆である。
貪欲に生きようとする俺の心が母親の命を丸ごと喰らったのだ。
そう、この俺『須藤 広見』の欠陥とは生まれた瞬間に死んでいることだ。だが、俺は生きるために凶悪な能力を宿してしまった。
『他人の寿命を吸い取り自分のものにする』
俺がこの能力が自分に宿っていることに気づいたのは中2の時だった。
特になんの予兆もなくそう思った。なぜそのように思ってしまったのかは謎だが理由をあげるとするならば中二だったからだろうか。
この能力には自動で命を奪い取る場合と手動で命を奪い取る方法がある。
自動で奪う場合は俺が死にそうになった時半径1km以内にいる誰かの寿命を一日程度奪うと言ったものだ。
手動で奪う場合は奪う対象を服の上からでもいいから触れその対象から寿命を無制限にとることができるといったものだ。母親の時は触れていなかったが強い思いがあの現象を起こしたのかもしれない。
そして、誰からどのくらい寿命を奪ったか体の感覚でわかってしまうのも能力の一つだ。
俺はそれまで明るい性格でクラスのそれなりに中心にいるような人物であった。だが、この能力の事実に気がついた時俺がやっていることは『人殺し』ではないかと思い始めた。
その頃から自分は周りとは違うと思い始めた。人を殺している人間とそうでない者。無意識だが段々と周りの人たちと距離を取る。いつしか俺の周りには誰もいなくなっていた。そうしているうちに俺は人との付き合い方というものを忘れてしまった。
高校生になっても俺の生活は変わらない。この顔のせいで人が近寄らず、こちらからも近づこうとすら思わない。たまに不良が絡んできたりするが当然俺は無視をした。
死にたい
高校生活が始まり一年経った頃だ。俺はそう思い始めた。人を殺して俺は生きている。その命を奪った分だけ償いたいという上辺の理想を掲げて、本当はただ逃げ出したかっただけなのかもしれない。この俺を受け入れてくれない世界から。
しかし段々とそのような自殺願望は薄れていき、もう人から寿命を奪うことが当たり前となってきた。どうせばれないのだし、たった一日しか奪ってないのだから。
俺は大学生になった。いつも通り人との付き合い方が分からず孤独の人生をおくっていた。
そして俺が大学生になって数ヶ月経った夏の出来事だ。
俺は普通にコンビニで飲み物を買おうと外に出た。外はとにかく暑く、アスファルトは太陽の日差しで凄まじく熱を放っている。
その道中での出来事だった。俺の命が危うくなってきたらしく自動で車道を挟んで向こう側の高校生くらいの少女の寿命を吸い取る。いつも通りのことだった。そして、何事もなく世界は回るはずだった。
数秒間何気ない光景が続く。
が、しかし、急に車道の向こう側が騒がしくなる。
俺はそこへ行き何があったのかと確かめに行くと…
自分が寿命を奪った少女が倒れていた。
ある男が言う。
「この子息もしてないし、心臓も止まっているぞ。早く救急車を呼ばないと!」
いや、多分もう間に合わない。だって俺が殺したのだから。
「おい、そこの君!救急車を呼んでくれ!」
男が俺を見ながら叫ぶ。
どうして俺がその子を助けるんだ?殺した張本人なのに。
俺は巨大な罪悪感を感じた。俺はその場から逃げ出してしまった。
俺は人殺しだ。
またこの感覚に襲われる。
俺は家に戻り包丁を手に取り自分の胸に刺そうとする。
だが、自分の胸の前で止まってしまう。
死にたいのに死ねない。もうこれ以上誰かの未来を奪いたくないのに。
「いやいや、死ねば誰かを救えるなんて面白いこと言うよね」
どこからか声が聞こえる。
「いや、確かに君の場合は誰かを救うことができるね。でも、もっといい方法があるよ」
部屋に夕日が差し込む。
「自殺できないのなら僕が殺してあげるし、願い事も叶えてあげるよ」
その夕日に照らされて俺の影が長く伸びている。その影が喋っていた。
俺はその影に話しかける。
「願い事…」
「そうだよ。どんな願い事だって叶えてあげるよ。なに?君にたくさんの寿命があったらもう誰も死なないんじゃない」
願い事。俺に寿命がたくさんあったら誰も殺すことなく生きることができる。
でも、それで償えるのか俺の罪を?いや、そんなものじゃ全然足りない。俺が死んでも、これから殺す人は救われるだろう。でも、今まで殺してきた人たちは?
普通なら無理だ。これから殺す人しか救えない。だが、今は普通じゃない。
「今まで殺してきた人も救うことができるのか。今日死んでいったあの少女も救うことができるのか」
影はニヤリと笑う
「もちろん」
これらが数日前の話だ
今俺は償いをするためにここに立っている。
今いる場所はユウヤのマンションの前。何やらユウヤは俺が死ぬだとか喚いている。何を言っているのやら、俺だってここで死ねるのならばここで死にたい。だが俺は…
「俺は死なない」
はっきりと言う。
しばらくするとドアが開きユウヤが出てくる。
「本当に死なないのか?」
「ああ、死なない」
「お前たちは何をしに来たんだ?」
「お前を助けに来た」
俺は外に出てきたユウヤの肩に手をのせる。
「今からお前をヒーローにしてやる」
俺は告げる。そしてユウヤの寿命を一気に自分のものにしていく。その過程で俺はユウヤに耳打ちをする。
「お前はこれから死ぬ。だが、お前の死はきっと誰かを救うことができる。勝手に殺すなんて身勝手だと思っている。本当にすまない」
俺はユウヤに向かって謝る。するとユウヤは首を小さく横に振る。
「ありがとう」
ユウヤは微笑みながら言って、地面に倒れた。
「これで依頼は終了だ。さっさと出てこいよ」
俺は影に向かって話す。
すると四人の影が寄り集まり立体が出来上がる。
そこから先はユウヤの存在の三分の一を返す作業をした。
「さあ、そろそろ君たちの願い事を叶てやろう。誰から行く?」
少しでも今自分の持っている寿命を一秒でも無駄にしたくない俺は真っ先に前へ出る。
「俺の願いから叶えてくれ」
「へえ、数日前まで人と話すのが苦手だった君が最初かぁ」
「俺はこいつらと出会って見て少しだけ分かったんだ。怖いけど向き合い話すことの大切さを」
そう、ユウやレン、ツバキ達から学んだことだ。みんなが自分と同じような思いをしているのにも関わらずあんなに笑顔でいられているのだから自分も笑いたいと思った。
「かっこいいね。そんな君の願い事は何?」
俺は一旦深呼吸をする。
そして告げる
「俺の願い事は、俺が殺した人を俺の命を使って生き返らせてくれ」
「分かった」
暗闇はそう言うと右手で俺の胸を貫く。
「ざっと七十年くらいの寿命だね」
俺の中から力がなくなって行くのがわかる。ユウヤから貰った寿命が体から外へ出されているのだ。
俺はその場でばたりと倒れる。
その俺に駆け寄ってくるみんなの姿が見える。
その姿を見て思う
あぁ、もう少しみんなといたい。もっと生きていたい
その思いとは裏腹に俺の体からは力が抜けていき目を開ける力すらなくなり目を閉じた。
ベルセルクぅぅぅ
書くことがないとこうなります




