どっちの師ショー(4)
「…おい、部屋の隅あたりにでも伏せてろと俺言ったよな…?」
「部屋の隅とか寒いじゃないですか!それにこっちの方が視界も隠せていいですよ。真っ暗です!完全真っ暗です!」
くぐもった声がベッド上の盛り上がった掛け布団の中から聞こえてくる。
「そうか、それなら仕方ない。」
バスタオル一枚の男とベッドに寝そべる少女のシチュエーションって、意図せずとも普通に生活してるだけで起こりえるものだったんだな。
俺はそんなことを考えながら、服が仕舞ってある三段程度の小型なタンスの前へとすかさず移動し着替えを始める。
こんな状況でも全然ドキドキしない。
むしろ、衣服とともに冷静さを取り戻した気がする。
「あ、もちろんこっそり覗いてたりなんてしてませんよ、安心してください。もし、これが男女逆だったら絶対するんでしょうけどね!ね!」
冷静に…ってかなんか腹立ってきた。
「あっ!これ、もしかして私凄くヤバイ状況じゃないですか?裸の男と二人で一つの部屋とか…。なんか怖くなってきました。まさか、襲いませんよね?も、もしかして今すぐそばに!?キャーーッッ!!」
このノリ、そしてここに来たタイミング、ほぼ間違いなくこいつが咲夜が送ったという「女の子」とやらで間違いはないのだろう。
確かメールには、手伝ってほしいことがあるから詳細は女の子に聞けみたいなことが書いてあった気がするが、もはやそんなことはどうだっていい。
「あ、自己紹介がまだでしたね!っと、こんな状況で名乗ったら、変態として記憶されてしまいかねません…着替え終わるのまだですか!?」
こいつが誰なのかなんてもっとどうでもいい。
俺にとってこいつはただの変態だ。
「よくよく考えなくてもこれ事件だよな。不法侵入。着替え終わったら普通に通報するわ。」
「なんですと!」
これで警察沙汰にならないのはアニメやラノベの世界ぐらいだろう。
冷静に対処しなければ下手したらこっちが犯罪者だ。
部屋に匿いながら生活~とか、少女と共にどっか遠くに冒険へ~とか、マジ無いから。
「ちょっちょっとまっ通報!それは本当に困りま…あ、なんなら今私が警察呼びますよ!警察が来るまであなたの着替えを妨害出来れば私の勝利!少女を無理矢理家に連れ込み淫らな行為を働こうとした変態男の完成ですよ。あ、淫らなって言葉、私生まれて初めて使ったかもしれません。…なかなかいい響きですよね、みだらな。みだらな!みだらな!みだぁ〜〜〜…らなあっ!」
「よしっ。着替えも終わったし、早速通報…」
「!!……ごめんなさい!許してください!違うんです。これ、違うんです。私、普段はこんなんじゃないんです。今、なんかテンションが変なんです!一人暮らし男の人の家にいるなんて初めてで…なんか……変なんです!!」
「…そうか。それじゃ仕方ないな。」
「流石ケニーさん!分かってくれますか?立派なモノを持ってるだけあって、器も大きい…あ、器じゃ相手側ですね。余程大きな器を持つ人じゃないと…」
「あ、もしもし?家に不審者が現れたもので、すぐ来て欲しいんですけど?」
「本気ですか!?」
泣き出しそうな彼女を横目に俺は電話を続ける。
正義の国家権力…ではなく事件の黒幕と。
『大丈夫、その不審者、あたしの弟子だから。』
大丈夫な不審者って何だ。
事件の黒幕、通称エロ咲夜こと「江口咲夜」は、まるで待っていたかのようにすぐに電話に応じ、俺の問いに余裕な口調で答えた。