アフタースカイ
小説初挑戦の林蒼空です。短い短編小説なので、最後まで読んでいただけたらありがたいです。
1999年11月26日
小田康平はいつものように六時半にアラームがなり、7時に起床した。康平の歳は39で後2か月で40になる。小田はいたって平凡な家庭で生まれ、小学校の頃、一度いじめにあったが、それ以外はすべて平凡に育った。高校は偏差値53の高校に行き、大学は日本大学の一般入試に合格し、入学した。その後自立して、一年間バイトと就職活動をし、二年後には大手食品メーカーに就職した。特にこれと言った特別な出会いや出来事はなく、独り身のまま年を重ねていった。康平は起床後すぐに食パン二枚を電子レンジに入れ、待ってる間に、ニュースを拝見する。「ビルを工事していた作業員が24階から落下し、死亡しました」。よく聞くニュースだ。心のなかでつぶやいている間に食パンが焼き上がった。早速バターをぬり、大きくかぶりつく。不味くはないが、特に美味しいわけでもない。毎朝同じことを考える。五分ちょっとで朝食を食べ終え、着替えに取り掛かる。ボタンを外すときに、何か背中に違和感があることに気づいた。すぐさまボタンを全て外し、上のパジャマを脱ぎ捨て、洗面所にかけ込んだ。鏡を見たとたん康平の表情が一変した。背中の健康骨盤あたりに、真っ白くて、小さく、細かい毛で包まれている、翼がはえていた。ためしに背中の筋肉を少し動かす。すると見事に「バサッバサッ」っと音をたてながら翼が上下にヒラヒラと動いた。恐らく飛べはしないだろう。悪い夢でも見てるのかと思い、タオルを濡らし、何度もタオルで目をこする。そして、鏡を見る。背中には白い翼がやはりはえている。嬉しさはない。とにかく気味が悪かった。「なんなんだよ…」と珍しく独り言を言った。二分ほどつったった後、羽を包帯で抑え、シャツを着て、スーツを着て、コートを羽織った。そしてまたいつも通りの通勤がスタートした。会社について、いつも通り仕事を開始する。昨日と一昨日は熱を出して休んだため、今日はおそらく超過残業になるだろう。康平はテンポ良く仕事を進めたが、やはり全ては終わらなかった。「小田、今日じゅうに全てやっとけよ。」この言葉を会社に入ってもう百回近く言われている。「はいはい、わかってるよんなこと」、と心のなかでつぶやきながら、「はい、わかりました」と言葉に出す。これも百回近く言っている。そんなこんなで残業がスタートする。でも残業の焦りのおかげで、少しの間背中にはえている気味が悪い物体の事を忘れることができた。そして夜中の3時に帰宅。お帰りをいってくれる人はもちろんいないよな。いってくれる人を持つ気もさらさらないけど。てかいたとしてもこの時間じゃどちらにしろ寝てるか。どうでも良いことを考えるのに一分使った。その後は寝間着に着替え、すぐに寝た。
1999年11月27日
六時半にアラームがなり、六時半に起きた、とりあえず洗面所に行き再度翼を確認する。やはりはえている。その上少し大きくなっていた、体はこの翼をもう体の一部として受け入れたのかはわからないが、少し違和感がなくなり、気味も悪くはなかった。そして昨日と同じように翼を包帯で抑えて、いつものように通勤した。昨日の超過残業の疲れを抑えながら仕事を終え、帰ろうとしたが、「おーい小田、飲み会いかないか?」、同期のみんなが集まって、小田を呼び止めた。同期だけということで、気を使わなくていいので、行きたい気持ちも山々だったが、やはり上司がいないのでみんなはしゃいで、裸になったりするかもしれない、もし裸になったりしたら自分はどんな目で見られるのだろう…。そんな不安でいっぱいだった、だからと言って、同期のみんながわざわざ誘ってくれたのに断る訳にはいかない。不安に康平の優しさが勝った。そして飲み会がスタート。康平以外みんなテンションMAXでどんどんはしゃいでいる。そして康平以外みんなスーツを脱いで歌を歌ったりちょっとしたゲームなどをして遊んだ。「小田、今日はずいぶんと静かだったな。」案の定疑われた。「超過残業で疲れてんだよ。」とたんな言い訳だった。そして、ため息をつきながら帰った。
1999年11月28日
次の日、5時に起きた、洗面所に行き、確認する。翼はとても大きくなっていた。恐らく飛べるような大きさだった。包帯で抑えても少し出っ張ってバレてしまう。結局カバンをリュックのように背負って通勤した。何気無い気持ちで会社へ向かった、確か今日は工事が24階で行われるとか言ってたな…、ふと頭の中に二日前のニュースがよぎった。「ビルを工事していた作業員が24階から落下し、死亡しました。」嫌な予感というか、変な予感がした。今日は会社の近くがやけに騒がしい。なんだか寒気がして、思わず身震いした。まさかと思い、会社へ駆け出す。急がなきゃいけない。なぜか心がそういい聞かせてくる。本能のままにタクシーを広い会社へとにかく急ぐ。走るタクシーをパトカーが追い抜かす。余計寒気がした。「料金は2700円です」会社に着いた、康平はぐしゃぐしゃの3000円をとりだし、お釣りをもらわず駆け出した、会社の周りには人がたくさん集まっていた。そしてビルの24階にはクレーン車のクレーンが伸びている、そして伸びているクレーンの先っぽには、作業員が今にも落ちそうになっている。嫌な予感が当たった。作業員は「助けて!!!」大きな声で叫んでいる。康平は黙って立ち尽くしていた。すると、背中の白い翼がもぞもぞと動き出した。飛んで助けろというサインなのか。康平は周りの目を気にせず、全力で走り出した。すると、翼がスーツを破り、バサバサと動き出し康平の体が宙に浮いた、そして勢い良く上に上がり、あっという間に24階まで上がった。すぐさま作業員の手を掴み、屋上まで運んだ。「あんたは一体なんなんだ」作業員が康平に言うと、「俺にもわからない…。」そう答えた。すると康平の背中にはえていた翼はとたんに消え、なくなった、そして、やっとわかった。この時のために翼がはえてきたのだと。そして、康平は世界に、自分の身に起きた事を全て話し、この出来事はアフタースカイと呼ばれ、ただの平凡なおじさんが世界的歴史に名を刻んだ。
読んでいただいてありがとうございます。今後とも短編小説を書いていきますのでよろしくお願いします