エピローグ
今まで自分がどこを走っていたのか、よく覚えていない。
時間の概念すら吹き飛んでしまったかのようだ。
今が何日で何時なのか自分でも良く分からない。
ただ気が付くと、加奈と喋っていた野原に立っていた。
―――――――――――――
何も考える事が出来ない。
頭が真っ白になっていた。
「体………大丈夫だって………言ってたくせに………」
ようやく紡ぎ出した言葉は、返って自分を虚しくさせるだけだった。
帰り際に言った、加奈のお礼。
今では何となく分かったような気がする。
それは死を間近にした者が、最後に世話になった人々へ送るメッセージだったのではないだろうか。
そう考えると、何だか無性に悲しくなってきた。
「アレは………加奈が俺の前に現れたのは、夏が見せた幻だったのかな?」
そうだとするならば、あの時の答えを言って欲しかったと思う。
最後になると分かっていたなら、必ず聞いていただろう。
そう思うと悔やんでも悔やみきれなかった。
「加奈………」
俺は悲しくなって、ふと上を見上げた。
そこには一本の巨大な木が立っており、昔はよく木に言葉を刻んで遊んでいたものだった。
懐かしくなって木を見ていると、最近になってから刻まれた比較的新しい文字があるのを見つけた。
不思議に思って文字を読んでみると、そこには
「答えは草原にあるよ」
とだけ書かれていた。
俺は何かに取り付かれたかのように、草原を探し回った。
誰かが、イタズラで書いたのかもしれない。
子供が、宝物でも埋めたのかもしれない。
でも、俺はその可能性を考えながら、違うとハッキリ分かっていた。
そして、とうとう俺は捜し求めていたものを見つけた。
俺はそれを見つけた瞬間、涙が止まらなかった。
そこには一輪の鶏冠花が咲いていた。
鮮やかな赤の花を咲かせている鶏冠花は、この草原では決して咲いたことは無かった。
そして鶏冠花には、こんな言葉が隠されている。
鶏冠花
その花言葉は
『色あせぬ恋』