⑤
「俺の方こそ、崖の上でラジコンを飛ばそうなんて馬鹿みたいなことを言ってゴメンな。俺がきっかけを作ったようなものだからな………」
「違う。洋ちゃんは悪く無いの。私が気を付けなかったのが悪いんだから」
「でも………俺の方が約束を破ったも同然だろ。お前を怪我させちまった挙句に、病気まで悪化させちまったんだから」
加奈が離れていった原因を作ったのは、他でも無い自分自身だ。
俺は申し訳ない気持ちで胸が張り裂けそうになった。
「あの時ね………」
「うん?……」
その場の空気を変えるように、加奈は言葉を紡ぎだす。
「崖から落ちて意識を失った時、洋ちゃんの声が聞こえたの」
「そりゃまぁ、必死になって呼んだからな」
「その後、足が痛いって言ったら、洋ちゃん、私を背負ってくれたでしょう?その時、あぁ、洋ちゃんは男の子なんだなぁと思った」
「なんだそりゃ。当たり前だろ」
「ううん。何か、凄く格好良かった………」
「……そりゃどーも」
誉められて悪い気はしないが、面と向かって言われると恥ずかしい。
俺は、何でも無いというように答えた。
「あの時、洋ちゃんは病気が治ったら俺と将来結婚しようって言ってたのよ」
「えぇ!?そんな事言ってたっけ?」
俺は全然覚えてなかった。もしかしたら、加奈が気絶した姿がまるで死んでいるように見えて、自分の気持ちを言うなら今この瞬間しか残されていないと思ったのかもしれない。
「それで………加奈は何て答えたの?」
本気で覚えて無かった。何と言うか申し訳ない。
「えー、本当に覚えて無いの~?そんな薄情な人には教えませ~ん」
「なんだよ~。教えろよ~」
「いやでーす」
こんな他愛の無い会話ですら嬉しく思う。加奈にまた会えたのだから。
「はぁ~………こんなに笑ったのは久しぶりよ」
「あぁ、俺もだな」
まるで神様が、俺達を祝福しているかのように幸せな気持ちで一杯だった。この瞬間が永遠なら良いのにと思う。
「さて………そろそろ帰るとしますか」
「ん?もう帰るのか?」
「うん。まだ用事が残ってて、あんまり時間が無いの」
「それは、残念だな。それじゃ、途中まで送るよ」
「大丈夫。迷うほどの道じゃ無いし、一人で帰れるわ」
「ん、分かった。また明日も来れるだろ?また一緒に話そうぜ」
俺は加奈に向かってニッコリと微笑んだ。
「洋ちゃん」
「ん?」
「ありがとね」
「ん………あぁ。って、何の礼だ、そりゃ」
「うん、まぁ色々と有難うってことで」
「それこそ何だそりゃ、だよ」
「ふふ………それじゃ、バイバイ」
「あぁ、またな」
俺は加奈を見送った後、真っ直ぐに暑苦しい我が家へと帰って行った。