④
その日は浮かれていた。
父親にラジコン飛行機を買って貰って、それで加奈と二人で遊んでいたのだ。
最初は草原の中だけで飛ばしていた。
次第に、草原の中だけでは飽きてくるようになって、その奥にある崖の上で飛行機を飛ばすようになっていた。
崖と言っても、子供がよじ登れる程度の段差が付いていて、落ちたとしても当時の俺なら簡単に登って来られるような崖だった。
そして日が暮れるまで二人で遊んでいた時だった。加奈がラジコンの操作に夢中になって、足を滑らせてしまったのだ。
加奈は、そのまま落ちて意識を失った。
俺は加奈の名前を必死に呼んで崖を降りていった。
下に下りて加奈の顔を見たその時、俺は加奈が死んでいるように見えたのだ。
俺は、必死で加奈を揺り起こした。
すると加奈は意識を取り戻し、ラジコン壊しちゃってゴメンと謝ってきた。
俺はラジコンの事など、どうでも良かった。
ただ加奈が無事でいてくれて良かったと思った。
立てるか?と聞くと、足が痛いと言われた。
どうやら足を挫いてしまったらしい。
俺は加奈を背負うと、崖の上を目指して登って行った。
しかし、一人ならともかく、人を背負って楽々と登れるほどの力は当時の俺には無かった。
ただでさえ日が沈み掛けているというのに、俺はどうすることも出来なかった。
ただ歯を食いしばって、必死に少しずつ登って行くしかなかった。
家に着いた頃には、既に夜になっていた。
病弱な加奈は、怪我をした状態で長時間夜気に晒されていた為、熱を出してしまった。
俺は親にこっ酷く叱られ、加奈は病院へと運ばれて行った。
俺は加奈が1日でも早く良くなるようにと、お守りまで作った。
1週間もすれば熱も下がるだろう。
当時の俺は少々楽観視をしていたようだ。
たしかに加奈の熱は下がったが、持病の方は悪化の一途を辿っていた。
1週間が経ち、2週間が経っても加奈が帰ってくることは無かった。
そして3週間後に、俺は加奈の両親から大病院のある都会の方へ引越しをすると言われた。
加奈は怪我をして以来、ずっと入院していた為に、あの日が俺と加奈の会った最後の日となった。