③
野原は、涼しい風がそよいでいた。
そんな中、俺と加奈はちょうど小山になっている所に腰を降ろして座っていた。
「何だか、昔を思い出すな」
俺は出し抜けにそう言った。
「確かに………懐かしいわね………」
突然、加奈の表情が曇った。俺は何かマズイ事でも言ったのだろうか。
「どうしたんだよ、急に?」
俺は疑問に思っている事は単刀直入に聞くタイプだ。損な性格だが、今更直そうとは思っていない。
「洋ちゃんは………私の事怒って無い?」
「何で?どうしてそう思ったの?」
緊張していたせいか、表情が硬くなってしまったのだろうか。
その顔を見て怒っているように見えたのなら、それは悪い事をしたと思った。
「私………ずっと洋ちゃんと一緒に居るって約束したのに、守れなかったから………」
この約束とは、遠い昔にした約束の事だった。
二人で一人と言われる位、一緒に行動していた俺と加奈は、よくこの草原で、いつでもどんなときでも一緒に居ようと約束したものだった。
「それは仕方が無いだろ?加奈の病気を治す為だったんだから。過ぎた事を今更言っても仕方ないんだしさ。」
口ベタな俺では、加奈を安心させてやることができない。
それでも何か言わなければならないと思ったのだ。
「有難う。でも約束………守れなくてゴメンね」
そう言う加奈の姿を見ていると、何だか遠くに行ってしまうような気がした。
「そ………そういえば、俺が泥の沼に落ちた時の事を覚えてるか?」
悲しいかな。俺は話を反らす為に、よりによって一番恥ずかしい過去を喋ろうとしていた。
「覚えてるわよ。あの時の洋ちゃんの顔ったらなかったわ~」
加奈は当時を思い出して笑った。
そして、ふと笑うのを止めると、俺の方を向いてこう言った。
「ねぇ………最後にこの草原に来た時のことを覚えてる?」
「あぁ……覚えてるよ」
その日を境に、今日まで加奈と会うことがなかったんだから。