ゆいこのトライアングルレッスンM〜四角関係!?〜
それは学校の帰り道、ゆいこの家の前に差し掛かった時だった。
バタンッと乱暴にドアが閉められる音がしたと思ったら、タクミが突然俺の視界に躍り出る。
「おぉっ」
危うくぶつかりそうになり立ち止まった。
一瞬俺に向けられたタクミの視線は傷ついた子犬の様な表情を見せていた。
「おい....」
呼び止めようとする俺を避ける様に、タクミが走り去って行く。
「タクミ!待って!」
今し方乱暴に閉められたドアがまた開かれ、ゆいこが飛び出して来た。
「タクミ!!」
もうすでに小さくなったタクミの後ろ姿を追いかけて走り出そうとしたゆいこを抱き止めた。
「ゆいこ!」
「ひろし?」
「ゆいこ、靴も履かずにどうした?ケガするぞ」
昼過ぎからチラチラと降り始めた雪は、薄らと道路にも積もり始めていて、裸足のゆいこの足は真っ赤に悴んでいた。
「タクミが....」
「とりあえず、家に入ろう。」
俺は小刻みに震えるゆいこの肩を抱いて、彼女の家の中へと連れ戻した。
リビングへと戻ると、そこにはタクミの従兄弟、ムサシがいた。
「あ、ゆいこ....」
ムサシはテーブルの上に広げた参考書から顔を上げながらゆいこを呼び、俺に気づいて不機嫌そうに口を紡いだ。
「.....ゆいこ、ここ、教えて?」
ムサシが甘えた様な口調でゆいこを呼ぶ。
ゆいこは作り笑いを浮かべつつ、ムサシの隣に座り、参考書を覗き込んだ。
俺にマウントでも取るかのように、必要以上に頭をゆいこに密着させて説明を聞く。
ゆいこは笑顔を見せながらも、チラチラとスマホの画面に視線を送っていた。
さっき家を飛び出して行ったタクミの様子が脳裏に蘇る。
はぁ....
俺は小さくため息をつくとゆいこに歩み寄った。
「ゆいこ。ムサシの勉強は俺が見とくから、タクミと仲直りして来いよ。」
「でも...」
「いいから、行け」
「....ありがとう、ひろし。むっくん、ごめんね」
ジャケットを片手に部屋を飛び出して行くゆいこを見送った。
「あ〜あ...」
ムサシがつまらなそうに声を上げる。
「ムサシ、お前、なにがしたいんだよ...」
「別に?ただ好きな子との時間を楽しんでただけだけど。....言っとくけど、オレだって、もう、子供じゃないから。ゆいこが好きだし、お前らのライバルなんだからな!」
ムサシが正面からオレを睨みつける。
「ムサシ。勘違いすんな。お前のやってる事は、ただ自分の気持ちを押し付けて、ゆいこを困らせてるだけだ。」
「オレはお前とは違う。オレは自分の気持ちを殺してゆいこをタクミに譲ったりしない!オレは絶対、ゆいこをオレのものにしてみせる!」
「ふざけんな!ゆいこを困らせて、悲しませて、何が俺らのライバルだ!本当にゆいこが好きだって言うなら、ゆいこを笑顔にしてみろよ!お前のやってる事は、駄々をこねてるガキと一緒だ。....よく考えろ」
俺は悔しそうに唇を噛み締めて涙を堪えるムサシに踵を返すと、ゆいこの家を後にした。
外に出ると、雪は本降りになっていた。
真っ白に染まった道路脇に、その大きな瞳に涙を滲ませて嬉しそうに微笑みながら、タクミと談笑するゆいこの姿が見えた。
俺に気づいたタクミが一瞬恥ずかしそうに目を伏せ、小さく手を挙げて見せた。
ゆいこが俺を振り返り、満面の笑みで大きく手を振る。
…..うん....これでいい...。
俺はマフラーで緩む顔を隠して2人に歩み寄った。




