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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

【短編】我は伝説の剣である。

作者: 山菜おこわ
掲載日:2026/03/15

此処は一定数の武器が意識を持つ世界。



私は、今日も今日とて目の前に広がる光景に目を瞑ることなく、全ての事象を刻み込んでいた。


「うむ。相変わらず照りつける太陽が眩しい」


と言っても瞼がないので閉じられない。どころか瞳らしい瞳は無いのだが。

私は心の中で空を見上げ、手をかざして太陽の光を遮る。

しかし刻の流れは残酷だ。

その晴れ晴れした心は、数秒を持たずして大きなため息を生み出した。


「今日も今日とて、変わり映えしない、か⋯⋯」


そう悲しく呟いて、私はまた、見ていたようで見ていなかった現実に立ち向かう。


目の前に広がる光景には、人々が長年発展してきた軌跡があった。


最初、此処に意識現れた頃、期待していた。

私は誰に抜かれるのだろうか-、と。


目の前には人の手が回らない未開拓の土地。ひび割れた大地。

此処は湿った、かと言ってどこか神聖な空気漂う洞窟でもなければ、噂が噂を呼ぶ、天空にあるとされる場所ですらない。


ここは廃れたように渇いた風が埃を運ぶ荒野。そのクールさが、正直、伝説にはうってつけだと。


しかし変わり映えしない景色を幾数年。もはや二百をいったところで数えるのを止めた。数える手も元々ないのだが。


唯一変わるのは空模様のみで、カラッとした快晴を見せたかと思えば、数時間のうちに曇天となり、大粒の涙を流したりした。


それすら見飽きてしまった。

いや、そもそも飽きるも何もない。それ以外、関心を向ける所が無かったのだ。


そこからまたどのくらいの月日が経ったのだろう。一人の少女が現れた。

可憐な少女だった。

衣服こそボロ布を纏っただけの簡素な服装だったが、その顔にはどこか気品さが伺えた。


「なにこれ~?」


少女は小さく唇を噛んだ。

私はその表情に、一瞬にして虜となった。

彼女こそ、私を手に取るに相応しいと。


少女は私の棒状の部分を何度か掴み、う〜と唸ったり、ん~と言って引っ張る。そんな乱暴にしなくてもと私は頬が熱くなるのを感じた。いや、熱くなる頬がないんですが。


しかし少女は暫くして、私が固いと分かると、諦めて何処かに行ってしまった。

ショックだった。人と会うべくして造られた私。

人の手に持たれなければ、存在の意味がない。


幾数年待ち望んだと言うのか。私は無い唇をかみ締めた。


だが神は私を見捨てなかった。

少女は再び戻ってきた。大人二人を連れて。


ようやく、ようやく私はこの地を飛び立ち、少女と共に世界の英雄へと変わる冒険へ旅立つのかと、本気で思った。


「これ、全然動かないの」


少女は私を指さして、間髪入れずに続けた。


「椅子の脚に丁度いい」


だから長椅子の脚にされました。

少女はお願いから、駄々っ子に変わり大人を困らせた。大人二人はやれやれといった様子で、それでも少女の願いを叶えて、私を脚として活用して長椅子を造った。


それから私のまわりは目まぐるしく変化した。

少し離れた所に一軒屋が建てられ、それを中心に色んなものが建てられた。

その間に少女は何度か私を掴んで椅子に腰掛けたが、子どもの飽きは早い。数ヶ月もすれば少女は現れなくなった。いや、ただの椅子に飽きもないか。

私の楽しみは、玄関から出てくる少女を追うことであった。


少女は思春期に入り、背は伸びて可愛さから美しさに磨きが掛かり始めていた。

今日はその服装か、今日は慌てて玄関を飛び出してきた、今日は泣いている、あれ、男の子と帰ってきたなど、少女の成長記録は、私の世界を彩り、それが私の世界の全てとなった。


しかしそれは無情にも遮られてしまう。

私を囲うように柵が作られ、ユウグが作られ、公園と言うものが出来た。


お陰で楽しみが無くなった。が、新たな楽しみが出来た。

子どもだ。子ども達が、私を囲う柵の中で楽しそうに遊ぶ。その姿が見れるのが嬉しかったのだ。


しかしそれも刻の流れは残酷で、次第に公園で遊ぶ者はいなくなっていった。

最後に見掛けたのは何年前か。二人の子どもがピロンピロンと音を出す小さな箱を手に熱中していたのが、まだ記憶に新しいくらいだ。


それ以外は腰の曲がった老人がたまにやってくるだけ。それも横断する為だけも、よくある事だ。


さらに不幸は続く。背が高い建物は私の唯一の楽しみだった視界を遮り、さらに悪い事に、私の後ろに生やした余計な木々が陽の光すら通さないカーテンとなり果てた。


もはや荒野に鳴り響く風の音などとうに無く、今は四角い大きな建物が建ち並び、わけも分からない音が四六時中鳴る日々。

気付けば絡み付く蔦に、苔むしていく身体。


こんな日々が後どのくらい続くのだろうか。気が狂いそうだ。


「⋯⋯何これ」


ふと聴こえたその声は、まるで鈴の音が鳴るように無邪気で、明るくも落ち着いた雰囲気を醸し出す。


「えっ」


私はない顔を上げて、そちらを見上げる。


可憐な少女だった。

齢十六くらいの少女だった。


「へんなの」


少女は耳に掛かった純白の髪を持ち上げて、小さく唇を噛んだ。


その時、私の、無いはずの心が大きく跳ねた。

この感覚-何処かで、と。


私は思い出した。

もうどのくらい経ったのかすら分からない。

それでも今の目の前の少女の、あどけなくも危うい雰囲気は、最初に出会った少女とそっくりだ。


「汚い⋯⋯」


少女はゴミを手に取るように人差し指と親指で、私からなるべく遠ざかるように触れる。しかし当然持ち上がらない。


「仕方ない」と、少女は布で手を拭いたかと思えば、後ろに髪を束ねて結った。


少女は意を決して、私の棒状の部分を両手で掴むと、「やっぱりこれ、長椅子の脚にしてはおかしいわ」と、確信めいた言葉を呟く。


私は、目の前の少女に選ばれるならと内心喜んだが、かつて取れなかった少女を思い出して、再び私は顔を落とした。


前にも取れなかったのだ。

今も取れる筈がない。

それに、あらから幾ばくの時間が経ったのだろうか。

苔むしたこの身体は、もはや長椅子の一部として成り立ち、覆らない。

だからこそ、この細身の少女が私を抜けるなどと思わなかった。


ズボッ-


「え?」


私の身体は、宙を舞った。

思わず無い顔で見渡せば、今まで地中に埋まっていた私の身体は天へと掲げられていた。


「こ、これがッ!私の身体!?」


生まれて初めて自分の身体を見て、私は感嘆の声を上げた。

私の身体ってこんなに長いんだ!

私の身体ってこんなに尖っているのか!


「あ、喋るんだ。この剣」


ふと声のするほうを見ると、棒状の部分を握る少女がニコッとこちらに微笑みかけた。

女神-。まさに女神と呼ぶに相応しかった。


「あ、貴方様が!」


「そ。私がこの時代での勇者って事になるのかな」


「あ、あっ、貴方様みたいな綺麗で可憐で女神さまのよ-ぐぇっ!?」


私は地面へと叩きつけられた。


「あ、ごめ。あんまりに汚いから手離しちゃった」


少女は「いや、もう⋯⋯汚い」と手を払い、私をまた人差し指と親指の腹で掴むと、近くにあった水場でゴシゴシと洗う。


「あっ、あっ!そんなッ!そんな、乱暴にされたら-あぁ!」


「⋯⋯うるっさいわねぇ。この剣」


少女は棒状の部分を激しく擦る。それが私にとってどれだけの幸福なのか、少女には分からないのだろう。

ご主人様の手で。そのきめ細やかな手で。そのか細くも繊細そうな美しい手で!


こっ、これはもう⋯⋯魔王なんて目じゃない!


少女はまた私の棒状の部分を握って、水気を払う。

ブンッ-。凄まじい勢いでなぎ払われた私は、この少女が長椅子ごとひっくり返して私を抜けた事に納得した。

この力-まさしく勇者!


「さぁ勇者様!私を手に取り、この世界に平和をもたらしましょう!」


「嫌だけど」


「⋯⋯へ?」


え、今なんて?


「そういや写真撮ってなかったわ」


少女は徐ろに何かを取り出したかと思うと、小さな箱がパシャ!と音を立てて眩い光を放つ。

隣では、少女が私に頬を寄せて二つの指を立てていた。


「あっ、早速いいねきたわ。リプもサンキュ」


少女は素早く小さな箱を指で叩き、そう呟くと、「さて」と私を担いで歩きだす。


「⋯⋯え、え。勇者様。魔王を倒さないんですか?」


私はようやく頭に浮かんだ言葉を吐き出す。


「は?何それ?もう居ないでしょ?」


え?いないって。魔王が!?


「そんな事より明日テストなのよ。その担当の高橋先生って奴がセクハラばっかりでね。私が勇者だから太ももに印が~とか言って触れてくるの。キモくね?」


「えっ、あ、はい」


「とりあえず明日やってやろうと思って」


「え?やるって、何をです?」


「あんた使って、ぶった切ってやろうと思って」


「⋯⋯人ですよね?」


「そうよ。人よ」


「⋯⋯なるほ、ど」


-やばい。勇者が勇者じゃない。


「さっ。さっさと帰って、明日の為に素振りしよ」


斜めに差す太陽の光が、鼻歌混じりに歩く少女を影を陽気に伸ばす。


動けー!と何度も身体を捩るも、私の小さな抵抗虚しく、掴まれた私は無力だ。というかそもそも動けないから無駄だ。


一体私は、どうなってしまうのだろうか。

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