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王子の初恋、嵐の予感



城から屋敷への帰路の途中、最後の鐘が鳴り終えた。

その瞬間、奇跡の魔法は解け、馬車は、ネズミやカボチャに、ドレスは、眠るために着ていた、よれた寝衣へと変化した。


「お城の近くじゃなくて、良かったわ⋯」

カボチャとガラスの靴を抱え、シンデレラは家路を急ぐのだった。


「はぁ〜!!!つっかれた!!やっぱりシンデレラを連れていけば良かったわ!王子様ったら、女嫌いで有名なのに、一人の女性にずっと夢中だったんだもの!」


夜も明けかける深夜、継母と義姉が帰宅した直後から屋敷中に響く声で、義姉が吠えた。


「なりません。同伴はあくまで両親、または、既婚の兄弟のみだと御触書に書かれていたでしょう?

従者の格好をしたシンデレラなんて、以ての外よ。

それにしても、あのお嬢さんは、どこの家柄の子なのかしらね。大層、立派なドレスだったけど」

歯がゆそうに継母は顔を歪め、そう呟いた。


(良かった⋯。お継母様や、お義姉さまには、私だと分からなかったみたい⋯)


男装したシンデレラは、継母と義姉の機嫌がなおるまで、給仕に勤しんだのだった。



王子様は、執務に追われていた。

てっきり、ガラスの靴の持ち主を探すのかと思えば。

城の中では、いつ王子様の号令が出されるのか、部下たちはソワソワしているが、出る気配がない。


名前も出自も聞き出せていなかった、情けなさに両親(特に王様)は『情けない⋯。我が息子ながら、情けない。で、件の我が息子は仕事中とな?はぁ〜⋯』

と、項垂れる王に王妃は、ピシャリと扇を鳴らして王を窘めた。

「恋にうつつを抜かして、公務に支障をきたすことのほうが、よっっっっぽど情けない事だと私は思います。それとも、我が王は、次期王に対して、公務を 疎 か にしてでも女の尻を追いかけろ、と申すつもりですか?」

チロリ、と睨めつける王妃に、ビクッとしつつ、

「そこまで言っとらんわい。」

と、すっかり重くなった腰を上げて、王子様の下へ向かう元・獅子王なのだった。




王様が向かったのは、王子様の執務室。

書類にしか目をやらない王子に対し、

「我が息子は、娘ではなく、書類と一緒になりたいのかね?」

と、そう揶揄した。

その言葉に、ピクリと反応した王子は、

「御冗談を。王、私は、彼女を幸せにするために、今こうして仕事に励んでいるのです。」

眉をひそめ、王様が口を開く。

「⋯娘は、執務に勤しんでるお前が良い、とでも言ったのか?」

興味深そうに王が尋ねた。

「いいえ、彼女はなにも。ただ美味しそうに、城の飯を食し、生きてきた中で、一番美味しいと、私に微笑んでくれました。」

そして、王子は続けてこう言った。


「⋯彼女は、⋯貧しさの中で生きているのです。」


王様は、『いきなり、どうした』と思ったが、なにも言わなかった。口を挟むと王子が激昂しそうで。

そう思う王様をよそに、なお語る王子様。


「彼女はきっと、没落した貴族、もしくは、貧困層で暮らす踊り子。⋯今すぐ、私は彼女を迎えに行きたい。貧乏なんぞ、私の障害にはなりません。しかし、汚泥の中でも、清廉に生きてきたと思われる彼女が、はたしてそれを、良しとするでしょうか。

きっと、彼女は自分だけが、幸せになることを、望んではいない。

明日を生き抜くことに必死の彼女は、きっと仲間たちと協力しあって、困難に立ち向かっていると思うのです。

私は、そんな彼女を支援したい。

政策を見直し、貧困層でも明日の食べ物にも困らない。

病気になっても治癒できる。文字が読める、計算が出来る。そんな世の中に、私はしたい。

そして、立派に成し遂げた私を、彼女は、受け入れてくれると思うのです。」


王子の決意に、王様は(ワシ、そんなに待っとられんのだけど)と、思うのだった。


一方、単騎奮闘のシンデレラは、

「最近なんだか、物価が安くなった気がする。」

と、行商人の品物を見て独りごちるのだった。

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