運命は、静かに微笑む
一方、お城では、王様は、きらびやかに着飾った、女性たちを見渡し、ご満悦のご様子。
連日、開催される舞踏会、本日最終日。
未だに我が息子に気にいる娘は決まらないが、今日こそは、と思う王様であった。
王子様は、ホクホク顔の王様とは違い、ゲンナリとしているご様子。
ここ毎日、参加させられる花嫁選びの舞踏会に、仮面の下の表情には、疲労すらも、窺える。
(どんな、女性達も全て同じに見える⋯⋯)
今日も、父の勧めるまま、ダンスを手合わせしなければ、ならない。
娘たちの、あの、ぐっと自分の手を握ってくる力強さも、瞳の奥から、メラメラと燃える王子妃への異様な執着も、ひたすら王子様の恐怖心を、煽るのだった。
「ほれ、お前のために、美しく着飾った娘たちばかりじゃ。ちーっとばかし、踊ってこい」
王子様の背を、軽く叩きながら、王様は、そう言った。
「えーと、もう少し、娘たちの様子を見てから⋯⋯」と、散々焦らす王子様。
しかし、そろそろが、限界か、と渋々とした様子で、王子様は、壇上から降りることにした。
王子様の動きを、一挙手一投足、盗み見ていた娘たちは、我先にと、王子様の元へと、駆け寄った。
目を光らせ、欲望たっぷりの女性陣の迫る勢いに、ビクッと震える王子様。
駆け寄られ、姦しく、己を主張する娘たちに、「ヒィッ!」と、後退りした王子様は、連日何人もの女性を相手に秋波を浴び、ダンスを踊ってきたせいだろうか。
身体は、随分と疲弊していたようで、後ろへとよろけるのであった。
女性達の、きゃあ!!という、叫び声を聞きながら、王子様は、ゆっくりと流れる、シャンデリアを眺め、
(これで、退場できる⋯⋯)
と、喜びすら、覚えるのだった。
ふわっと、視界の端に、見たこともないような、布地の色が映る。
気付いた時には、フワリと、少女に、己の身体が、支えられていた。
助けてくれた少女を、驚いて見上げた。
綺麗に、結い上げられた金髪に、長い睫毛に縁どられた青い瞳が印象的な美しい少女は、男性を支えているとは、到底思えない、重さを感じさせない微笑みで、
「殿下、お怪我はございませんか?」
と、王子である、自分に尋ねるのであった。
――思わず、見惚れた。
欲望の炎が、灯っていない、その瞳に。
涼し気な表情に。
「な⋯⋯い」
少女に見惚れ、少女に抱きとめられながら、ただ、うわ言のように呟いていた。
王子様の体勢を整えると、
「お怪我が無くて、なによりです」
そう言い、少女は薄く微笑むと、ドレスの裾を捌き、礼をして、颯爽と去って行くのだった。
「まっ⋯⋯っ!」待って、と呼び止めようとした王子様の、視界を遮るように、駆け寄る女性達。
女性達の影で見えなくなる彼女の姿を、王子様は、目に焼き付けようと、ただ、じっと、見つめるのであった。
王子様を、いつもの義姉のよろける仕草と重なり、つい助けてしまったシンデレラは、後ろで自分を見つめる視線なんぞ気付かずに、お目当ての、料理が並ぶテーブルを目指して、歩くのであった。




