美貌の魔女と下僕
ここは、とある貴族の住まい。
少年従者は、主の命令をいつでも受けれるように、壁際に佇んでいる。
少年と主のいる部屋は、大量の薬草やら、生き物の干物やらで埋め尽くされ、瀟洒な部屋が残念なことになっている。
壁際に佇んで命令を待っているのは、扉から近いし、この場所が一番整頓されているからである。
主は退屈そうに長椅子に腰を掛け、本を読んでいた。
キラキラと窓から差し込む日を浴びて、主は誰もが心臓を捧げたくなるような美貌をしている。
主の旦那様もその一人。
主が魔女だと言うのにお構いなし。
高貴な身分だと言うのに、
「僕が死んだその時、貴女にこの心臓を捧げます。だから、僕が死ぬ最期の一瞬まで、僕と共にいてくれますか?」
心臓が欲しかった主は、その言葉に、一も二もなく了承した。
そんな二人の馴れ初めを思い出していた少年従者の側の扉が、突然、バーン!と開いた。
物思いに耽っていたせいで、気配に気付くのを疎かにしてしまった。
その音に、少年従者の肩がビクリと震える。
主は、驚かない。本から目線を外すこともない。
「やあ!愛しの君、息災か?」
まるで久しぶりに会うような口ぶりだが、昨日ぶりである。
魔女の主は、本から目を離さない。
本から目を離さない主の隣に座ると、その手を取り、甲に口づけを落とす。
「今日も相変わらずの美しさだね、私の魔女」
ウットリと、見つめてそう口にする。
魔女の主は、やっと本から目を離した。
「今日も相変わらず、鬱陶しいな。私の旦那様は」
そう言うと、ぽってりとした唇を引き上げ、ニッ、と微笑む主。その姿すら黄金のオーラが一斉に放たれるほどの、迫力の美貌。
旦那様は、主の手を握ったまま、しばし呆然とその姿に見入ると、「愛してる!!!」と叫び、突然、握っていた手を両手で握り直し、高速で手の甲に口づけを百は超える数で落とす。
その姿に、呆れた表情で見る主は、少年従者に空いてる片手を差し出した。
少年従者は、衣装部屋に行き、魔法のローブを掴むと主の元へと行き、差し出す手にローブを渡した。
すっ、と握られた手を引くと、さっとローブを羽織る。
美貌の主は、一瞬で中年の女性へと変身。
「ああ⋯っ」
と、残念そうな表情になる旦那様の顎を優雅に手つきでつつ、と撫でて主は言う。
「お前は、本当にこの顔が好きだねぇ?」
その言葉に「はうぅ⋯」と、妙な声を出す旦那様。
「それよりもお前は、いつ死んでくれるんだい?早くその心臓を私にお寄こしよ」
顎を撫でる指が、つつつ、心臓の辺りまで移動する。
その仕草に、ビクビクと震え、頬を染める旦那様。
「⋯っ、わたしの、寿命は、貴女様に比べたら、うんと短い⋯!だから⋯っ、もう少しだけ、お側に⋯っ」
そう懇願する旦那様は、まだ三十代。
悠久の時を生きる魔女の主は、そんな若造の言葉にため息ひとつ。
「⋯⋯ならまあ、仕方ないねぇ」
と、応える。
そんな二人の様子を、少年従者は眺めながら
(⋯⋯僕は一体、なにを見せられてるんだろう)
と、思うのだった。




