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それでもあなたが、好きだった



「久しぶりだね、シンデレラ」


 戸口に佇んだ極上の美女が、にっこりとシンデレラを見て微笑んだ。


「え⋯っと、どなたですか⋯」シンデレラに、覚えはない。


「え?」と、キョトンとした顔をする、美女のひじを、ツンツン、とつつく者がいる。


 継母から過酷な労働を言い渡された日、シンデレラに差し入れをくれた少年従者だった。


 肩で息をしている少年従者は、美女に布の塊を見せた。


「あっ」と、美女は自分の顔を触り、少年から布の塊を受け取ると、扉の向こうへと消えていった。


 程なくして、扉のむこうからあらわれたのは、ローブを羽織った魔法使いのおばさまだった。


「久しぶりだね、シンデレラ」


 先程のことは、無かったような口ぶりである。


「⋯お久しぶりにございます。えと、おばさま」


 場の空気なんぞ、無視した魔法使いのおばさまは、シンデレラに、にっこり微笑んで、


「城に行くんだろう?その服でも良いんだろうけど、せっかく王子様に会うなら、とびきりの格好をしなきゃね」


と、言うが否や、杖を振ると、シンデレラの従者服は、あっという間に、豪奢ごうしゃなドレスへと変わった。


 その突然の変化に、ギョッとする使者たち。


「ありがとうございます⋯。でも、私、お義姉様が⋯」

と、言いながら、義姉に目を遣る、シンデレラ。


 義姉は、血を流しすぎたのか、貧血を起こしてグッタリとしていた。


 いつの間にやら、先程の傷ついた足には、包帯が、巻かれている。


 その傍らには、水の入ったバケツに、ガラスの靴を浸けてジャブジャブと、洗っている少年従者の姿が。


「削いだ肉を、貼り付けて、包帯を巻きました」


 洗いながら、少年は、言った。


「ご苦労」と、魔法使いのおばさまも、義姉を見、笑みを絶やさず、

「愚かな事をしたもんだ」と、杖を振った。


 貧血で椅子にもたれている義姉に、シンデレラはそっと近寄った。


 腰を下ろし、義姉の手を握る。


「ん⋯」義姉のまつ毛がかすかに震え、目蓋が開く。


「お義姉様⋯」シンデレラが、呼びかけた。


 義姉の目に、自分を呼びかける、綺麗な女性が映る。


「そう⋯、貴方は⋯、女性⋯女性だったわね」


 ぽつり、と呟いた義姉の目から、涙が溢れた。


「あなたが、男なら良かったのに⋯。そうしたら、王子様じゃなく、私が、あなたと、一緒になれたかも、しれないのに⋯」


 義姉は、涙を、止めどなく流した。


「ごめんなさい⋯。シンデレラ⋯、あなたを、好きになって、ごめんなさい⋯」


どう返答して良いのか、分からず、シンデレラは、「お義姉様⋯」と、だけ呟いた。


 義姉は、シンデレラから手を放し、


「行って。シンデレラ。私の事は、構わなくて、良いわ⋯。私が、勝手に、あなたを好きになった、だけだから」


 そう言うと、包帯を外し、元に戻った足を、確認すると、シンデレラに見せつけ、


「なにも、あなたを負担にするものは、残ってないわ」


と言うのだった。




 使者に、連れられ馬車に乗り込む。 


 窓から、外を見る。 


 門の向こう側、屋敷の扉の前に、魔法使いのおばさま、少年従者、義姉が、シンデレラを見送るために佇んでいる。


 継母は、シンデレラに対して、長年の虐待、危害を加える恐れあり、と判断され、自室に軟禁されている。


 あとで、警らの者たちが訪ねに、来るそうだ。


 揺れる馬車の中、使者たちに囲まれながら、シンデレラは、目をつむる。


 朝の、まったりとした時間――。


 そして、使者の到着の音で、起こされてから、まさか、こんな展開になるとは、思ってもみなかった。


(なんだか、全てが、遠い過去のよう⋯)


 あまりの、非日常の連続に、シンデレラの脳は、追いついていなかった。


(この状態で殿下に会うなんて。なにか、失態をしなければ良いのだけど)

と、悩ましげに王子様を思い出そうと記憶を辿る。


 仮面の王子様が恥ずかしそうに、自分に話しかける、様子。


 仮面の奥の目が潤み、自分を縋るように見ていた、様子。


 ダンスの際に、リードしてきた事に、仮面の下の目が、大きく見開き、自分を眺めた様子。


 ダンスの連続に、汗を滲ませ、楽しそうに口を笑み、仮面の奥の目が、自分に、笑いかけてきた様子。


 仮面を剥ぎ取った際に、自分を見つめて、紅潮した頬に蠱惑的に口元を引き上げる様子。


 シンデレラの頬が、火照る。

 胸の奥が、弾む。


 王子様に会うことを、楽しみに思える感情が、芽生えてきたシンデレラを乗せて、馬車はお城へと向かうのであった。



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